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ゴルフのラウンド中に炭水化物をより多く摂取すると、疲労感が抑制される 二重盲検RCT

ゴルフプレー中の炭水化物摂取量の多寡による、血糖値変動やパフォーマンス、集中力、疲労感などの違いを無作為化二重盲検比較試験で検討した結果が報告された。武蔵丘短期大学と(株)ブルボンの共同研究によるもので、同短期大学健康生活学科の長島洋介氏らによる論文が「Nutrients」に掲載された。高炭水化物群で疲労感が抑制されること、さらにショ糖ではなくイソマルツロースを用いた高炭水化物群では血糖変動が抑制されることなどが明らかにされている。

ゴルフのラウンド中に炭水化物をより多く摂取すると、疲労感が抑制される 二重盲検RCT

ゴルフ中の炭水化物摂取、その至適量は?

18ホールのゴルフコースをラウンドすると、時間は4~5時間で10kmを超す距離を移動することになり、消費エネルギー量はスコーピングレビューから1,936kcalと報告されている。ラウンドの後半になるに従いエネルギーの不足と疲労が蓄積し、適切な炭水化物摂取がそれを抑制すると考えられる。長島氏らは過去に、ラウンド中に30g/時の炭水化物を摂取することの有効性を報告している。ただしその研究では炭水化物30g/時の1条件のみであり、それを摂取するか否かの2群での比較であったため、至適摂取量は明らかにされていない。

また、炭水化物摂取に伴う血糖の急峻な上昇やその後の短時間での低下が、持久力や集中力などのパフォーマンス関連指標に影響を及ぼす可能性がある。この課題に対しては、ショ糖(スクロース、砂糖)と同エネルギー量ながら消化吸収速度の遅いイソマルツロースを用いることが、血糖変動の抑制につながり持久系競技のパフォーマンスに有利に働くことが報告されてきている。

これらを背景として長島氏らは今回、炭水化物摂取量として異なる2条件を設定し、かつ、高用量群をさらに2群に分け1群にイソマルツロースを用いるという設定で、二重盲検比較試験(randomized controlled trial;RCT)による検討を行った。

男子学生選手を3群に分けて18ホールで比較

事前の統計学的検討から、このトピックの有意性を検討するには各群12人、計36人のサンプルサイズが必要と計算され、関東学生ゴルフ連盟2部に所属する男子36人をリクルートした。適格条件は、2022年度に関東大会に出場していること、喫煙者でないこと、プレーの支障となる関節疾患がないこととし、除外基準は、試験食に対するアレルギー、血糖値に影響を及ぼし得る薬剤またはサプリメントの使用とした。

研究参加に同意を得られた30人を無作為に、低ショ糖(low-sucrose;LSUC)群、高ショ糖(high-sucrose;HSUC)群、高イソマルツロース(high-isomaltulose;HISO)群の3群に分類。試験食は外観から区別のつかないグミとして調整し、ラウンド中1ホールごとに等量ずつ摂取してもらった。これにより、炭水化物摂取量が、LSUC群は30.9g/時、HSUC群は44.2g/時、HISO群は44.5g/時となった。なお、グミの摂取時は30回咀嚼することを求めた。

3群は平均年齢が約20歳、BMIは22~23、過去5ラウンドのスコアが70代後半であり、いずれも有意差がなかった。

炭水化物摂取量が少ないとプレー中の体蛋白質異化が進み、疲労感が強まる

テストは都内のゴルフ場で実施された。ひと晩絶食しゴルフ場に到着後、標準化された朝食を摂取して、30球の練習を行った後にラウンドを開始。ラウンド中の移動は徒歩としたが、ゴルフ用具はカートにより運搬された。

平均ラウンド時間は、休憩時間を除き5時間2分だった。この間の炭水化物摂取量は、低ショ糖(LSUC)群が154.7g、高ショ糖(HSUC)群は221.0g、高イソマルツロース(HISO)群は222.3gだった。なお、LSUC群の1人がデータ欠落により解析から除外された。

平均血糖値はHSUCが有意に高値で、血糖変動はLSUCとHISOで有意差

間歇スキャン式持続血糖測定(intermittently scanned continuous glucose monitoring;isCGM)により、ラウンド中の血糖値はHSUC群が高値で推移しており、平均血糖値が他の2群より有意に高値だった(LSUC群、HISOに対してp<0.01)。また、ラウンド中の血糖変動係数(CV値)は、LSUC群が最大、HISOが最小であり、この両群間には有意差が認められ(p<0.05)、イソマルツロースの血糖変動抑制効果が確認された。

LSUCでは尿素窒素が上昇し、エネルギー不足が示唆される

本研究では、ラウンド前後でのエネルギー不足の程度を、尿中尿素窒素(urinary urea nitrogen)で評価した。尿素窒素は、体蛋白質の異化に伴って生じる代謝産物であり、炭水化物摂取量が少なすぎる場合には、エネルギー基質として体蛋白質が利用される結果として上昇する。ラウンド前とラウンド終了後の2時点の上昇幅を比較したところ、LSUC群で最も大きく上昇しており、他の2群との間に有意差が認められた(HSUC群、HISOに対してp<0.01)。

ゴルフのパフォーマンスには有意な群間差なし

ゴルフパフォーマンスは、総スコア、パッティングスコア、および、ドライビング、アイアン、チッピングの正確性で評価した。それらはすべて、群間差が非有意だった。

LSUCではラウンド終了時の疲労感が強い

このほかに、ビジュアルアナログスケールを用いて、集中力や疲労感などの推移が検討された。そのうち疲労感については、18ホール終了時点において、LSUC群は他の2群より高く有意差が認められた(HSUC群に対してp<0.05、HISOに対してp<0.01)。

より疲労が蓄積する条件では、ショ糖とイソマルツロースの差も生じる可能性

著者らは、本研究がエビデンスレベルの高い研究デザインである二重盲検法を用いたという強みがある一方、サンプルサイズが当初の計画より少なかったために有意性の検出精度が低下した可能性があるなどの限界点を述べたうえで、「ゴルフのラウンド中の炭水化物摂取量を増やすことにより、エネルギー不足が回避され血糖値の推移が安定することが明らかになった。さらに、疲労感の軽減につながることが示唆された」と結論付けている。

一方、高炭水化物群の2群間で、炭水化物の質による差が明確にはみられなかった。この点については、研究対象が若い男子大学生であること、競技ゴルフは通常は4日連続で開催されるが本研究は1日のみであったこと、ゴルフ用具の移動にカートの利用を可としたことなどのために、2群間で有意な差が生じるほどの疲労が蓄積されなかったことが一因ではないかと考察している。また、炭水化物源としてイソマルツロースを用いることによる血糖変動の縮小は、夜間低血糖の抑制を介した回復の促進、翌日の覚醒レベルの向上などにつながり、2日目以降にはパフォーマンス上の差が生じる可能性もあるのではないかとしている。

文献情報

原題のタイトルは、「High-Carbohydrate Energy Intake During a Round of Golf-Maintained Blood Glucose Levels, Inhibited Energy Deficiencies, and Prevented Fatigue: A Randomized, Double-Blind, Parallel Group Comparison Study」。〔Nutrients. 2024 Nov 28;16(23):4120〕
原文はこちら(MDPI)

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