暑い夏、外で遊ぶ子どもは首を冷やすと良い? 子どもの身体活動時間が延びる可能性
子どもが夏季に外で遊ぶ際に継続的に首を冷却すると、世界保健機関(WHO)が推奨する中高強度身体活動の時間が増加する可能性が見いだされた。順天堂大学と花王株式会社スキンケア研究所の研究グループが、第34回日本臨床スポーツ医学会学術集会(2023年11月11~12日・神奈川県)で発表し、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。研究グループでは、「夏季においても熱中症に配慮した条件下で首を冷却することにより、子どもがより活発に活動できるのではないか」としている。
研究の背景:外遊びは健康に良いと考えられるが、夏季には熱中症のリスクが
日常的に体を動かすことは子どもの体力向上や健康増進において非常に重要であり、WHOが策定した「身体活動及び座位行動に関するガイドライン」においても、5~17歳の子どもでは、1日当たり60分以上の中高強度身体活動※1を実施することが推奨されている。子どもの習慣的な身体活動と健康利益に関して、確実な根拠があるものだけでも、
- 骨の健康を改善させる(3~17歳)、
- 適正体重を維持させる(3~17歳)、
- 心肺機能や筋機能を改善させる(6~17歳)、
- 心血管系代謝の健康を改善させる(6~17歳)、
- 認知機能(学力、実行機能、処理速度、記憶)を改善させる(6~17歳)
ことが、複数の研究成果として示されている。
※1 中高強度身体活動:3メッツ(Mets)以上の強度の身体活動。メッツは運動強度を示す単位で、ウォーキングなどで息がはずむ程度以上の運動が3メッツ以上に相当する。
しかしながら、時代の変化によって、子どもが自由に体を動かしにくい社会環境になり、1年間を通して夏季に身体活動量が最も低下することが、子どもを対象としたいくつかの研究で報告されている。気候変動等の影響を考慮すると、今後もさらに夏季の身体活動量低下が懸念される。
これらを背景として研究グループでは、夏季において子どもが健全に身体を動かす方策として、外遊びの際に首を冷却することによる影響を検証した。
首を冷やして外遊びをした際の身体活動への影響
2022年8月、暑さ指数(WBGT)※2が25以上31未満の4日間、小学1〜3年生26名(男児16名、女児10名)に屋外で40分間(前半20分・休憩5分・後半20分)の自由遊びの時間を設けた。なお、子どもたちの活動の観察、鼓膜温、心拍数の測定を行うことで、本試験の自由遊びが安全にできていることを確認した。
※2 暑さ指数(WBGT):人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目し、人体の熱収支に与える影響の大きい①湿度、②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、③気温という三つにより計算した指標。日本スポーツ協会「年中症予防運動指針」では、WBGT31以上の場合に「運動は原則中止」としている。
参加者を、冷却効果のあるシートを用いて首を冷却するグループと冷却しないグループの二つに分け、全員の腰部に加速度計を装着し、自由遊び中の身体活動量を測定した。前者のグループに用いたシートは、冷却液を染み込ませた不織布を、動いても首の肌に触れるように加工したもの。
その結果、自由遊びの前半では、首を冷却したグループのほうが、冷却しなかったグループと比較して、中高強度身体活動時間が長いことが確認された。中高強度の活動時間が長い分、低強度身体活動時間は短かいこともわかった(図1)。
これらの結果から、首を冷却することにより、中高強度の身体活動量を高められる可能性があると考えられる。
図1 首の冷却の有無による自由遊び中の中高強度身体活動時間と低強度身体活動時間の比較
まとめ:子どもが体を動かすことのできる環境を作る
今回の研究によって、夏季の外遊びにおいては首を冷却した子どものほうが、中高強度身体活動時間が長かったことがわかった。この結果から、夏季においても体の一部を冷却することによって、子どもがより活発に活動できる可能性が確認できた。
子どもの頃の身体活動習慣は成人期に持ち越され、その結果、成人期の健康にも影響する。大人が子どもの体を動かす環境を整えていくことは、次世代のウェルビーイングな大人を育てることにつながると考えられる。研究グループでは、「今後も子どもの体力向上や健康増進に寄与する研究・情報発信を進めていく」と述べている。
関連情報
子どもの夏季の外遊びにおける頸部(首)冷却の影響~首の冷却が中高強度身体活動時間をのばす可能性を確認~(順天堂大学)
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