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小児期にスポーツを始めた子の7割が怪我や燃え尽きで13歳までに中止 米小児科学会のレポート

米国小児科学会(American Academy of Pediatrics;AAP)はさきごろ、若年アスリートのサポートに関するガイダンスを、同学会発行ジャーナル「Pediatrics」に掲載した。米国では小児期にスポーツを始めた子どもの7割が、主として怪我や燃え尽き症候群のため、13歳になるまでに組織化されたスポーツの参加を中断しているという。本ガイダンスは、そのような状況に対して、小児科医がどのようにサポートすべきかを提言している。要旨を紹介する

小児期にスポーツを始めた子の7割が怪我や燃え尽きで13歳までに中止 米小児科学会のレポート

オーバーユースによる怪我

若年(小児または青少年)のアスリートのオーバーユースによる怪我の多くは下肢に発生する。女子や持久系アスリート、過去に怪我の既往がある場合にリスクがより高いようだ。また成長中の子どもの骨は成人に比しストレス耐性が低いと言える。下肢のほかにも例えば体操では手首、野球では肩の怪我が多い。

オーバーユースによる怪我の予防には、ストレスと回復の不均衡を引き起こす要因を特定し対処することが重要。個々のアスリートが許容できる負荷は、年齢、身体的成熟度、経験、過去の怪我の既往などの影響を受ける。栄養や水分補給、睡眠を最適化することで、生理学的適応が促進される。

耐久イベント、週末のトーナメント

近年、より長時間の持久力を必要とするトライアスロンやウルトラマラソンなどの人気が、成人と子どもの双方の間で高まっている。子どもがこのような耐久イベントに参加することについて危険性を指摘する意見もあるが、エビデンスは不足している。その一方、安全性についても不明なことが少なくない。そうではあるが、子どもに内発的(自発的)な動機があり、監督された適切なトレーニングプログラムに従ったうえで、これらのイベントに参加することは許容すべきという考え方が増えている。

他方、子どもや青少年スポーツでは、週末の数日間で集中的なトーナメント形式の試合が組まれることがある。このようなスケジュールでの試合では回復の時間をほとんどとれず、ストレスが蓄積する。エビデンスは不十分ながら、このような過密スケジュールでの試合参加が、怪我のリスクを高めると考えられる。また、そのような過密スケジュールが子どもの自由な時間や他の活動の機会を奪うことがあり、燃え尽き症候群のリスクにつながる可能性もある。

燃え尽き症候群とスポーツからの脱落

成人アスリートのバーンアウト(燃え尽き)については多くの研究がなされるようになっているが、いまだ子どもたちにおけるその実態は不明だ。ただ、スウェーデンからは青少年のアスリートの最大9%が、燃え尽き症候群の定義を満たしていると報告されている。その研究では、より早期に競技特化をした場合にそのリスクが高いことが示された。

燃え尽き症候群の症状

燃え尽き症候群を疑う症状として、倦怠感、抑うつ症状(興味の喪失など)、睡眠障害、不安、イライラ、集中力の欠如、体重の変化、原因を特定できない筋骨格系の不調、学力や運動パフォーマンスの低下などが挙げられる。

小児科診療では、スポーツを行っている子どもたちが、適切な栄養・水分摂取および回復期間を設けているのにもかかわらず、パフォーマンスが低下しているという場合に、燃え尽き症候群を疑い精査する必要があると考えられる。燃え尽き症候群の診断に際しては、そのような症状を来し得る器質的疾患の可能性の除外が欠かせない。具体的には、貧血、メンタルヘルス関連疾患、炎症性疾患、内分泌疾患などである。

燃え尽き症候群の危険因子と保護因子

燃え尽き症候群の危険因子として、プレッシャー、外発的(内発的・自発的でない)動機づけ、短期的な目標の優先、完璧主義、パフォーマンスの結果に焦点を当てた本人以外(コーチや保護者)の評価、過密なスケジュールと慢性的な高負荷、チーム内の対立などが挙げられる。

反対に保護的に働く因子としては、内発的(自発的)な動機づけ、長期的な視野での育成モデル、楽観主義と自主性、親子の支え合い、外的な評価よりも内的な目標の優先、十分な休息などが挙げられる。

予防と治療の推奨事項と臨床医向けのガイダンス

論文の末尾には、予防と治療の推奨事項と臨床医向けのガイダンスが箇条書きでまとめられている。それらの一部を抜粋する。

予防と治療の推奨事項(抜粋)

  • 自主性と内発的動機を奨励し、スポーツへの参加と努力を評価して、保護者、コーチ、仲間との前向きな経験を育むといったことは、すべて燃え尽き症候群の予防に役立つ。
  • 過剰なトレーニングや過密なスケジュールを避けつつスキルの開発を進めていき、身体活動のバランスを整える。
  • 必要に応じてメンタルヘルスの専門家を加えて、アスリート、保護者、コーチが問題の修正に務めるようにする。
  • マインドフルネスツールを奨励する。
  • 年齢に応じたゲームやトレーニングでワークアウトを面白くし、練習を楽しく続ける。
  • 組織的に行われるスポーツへの参加には、十分な間隔を確保する。
  • アスリートに対して、自分の体の声を聞くように指導する。

臨床向けガイダンス(抜粋)

  • 臨床医は、米国小児科学会(AAP)が公開している小児のメンタルヘルスに関するコンピテンシーに精通している必要がある(Mental Health Competencies for Pediatric Practice)。
  • 肉体的・精神的に回復できるよう、少なくとも週に1~2日は競技やトレーニングを休むことをアスリートに奨励する。
  • スポーツ参加の焦点は、楽しみ、スキルの習得、安全、スポーツマンシップにあるべきであることを強調する。
  • アスリートが非特異的な筋肉や関節の問題、疲労、気分の変化、学業成績の低下を訴えた場合は、燃え尽き症候群やオーバートレーニングの可能性に留意し、スポーツに対するモチベーションを確認する。
  • 適切な栄養と睡眠によって回復を最適化し、トレーニングによる身体的ストレスを増大させる可能性のあるさまざまなストレス源を管理する。
  • パフォーマンスと健康状態の維持・向上のため、適切な栄養と水分摂取、サプリメントの使用および誤用のリスク、スポーツの安全性、オーバートレーニングの回避に関する情報を提供するため、アスリート、保護者、コーチ向けの教育の機会を設ける。
  • 短期間に複数の試合が行われるトーナメントに参加する若いアスリートをもつ保護者には、とくに注意が必要であることを伝える。

文献情報

原題のタイトルは、「Overuse Injuries, Overtraining, and Burnout in Young Athletes」。〔Pediatrics. 2024 Jan 1;153(2):e2023065129〕
原文はこちら(American Academy of Pediatrics)

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