ロックダウン中の免疫能の維持 焦点をアスリートに当てた学際的アプローチ
国内ではようやく新型コロナウイルス感染症(COVID-19)第二波が'収束'に向かいつつある。しかし第三波や冬季のインフルエンザとの重複の懸念も強く、'終息'は全く見通せない。
1月の世界保健機関(WHO)の緊急事態宣言以降、4カ月ほどの間に世界人口の3分の1が外出自粛を強いられたという。ロックダウン中の生活上のアドバイスは各方面から発出されてきたが、このほど「Biology of sport」誌に、主にアスリートに向けて、エビデンスに基づく推奨をまとめたレビュー論文が掲載された。栄養、睡眠、運動、精神的側面などに焦点を当てた内容だ。一部を抜粋して紹介する。
イントロダクション:COVID-19とスポーツイベントへの影響
国際イベントの開催や個人的な旅行など、多くの行動が中止に追い込まれ、スポーツイベントも中断・延期が余儀なくされている。 2020年東京オリンピックも1年延期された。このような環境で、アスリート、とくにエリートやプロのアスリートは、サポートを最も必要としている
ロックダウン中の推奨事項を考慮する際、次の事項を念頭に置くことで、より現実に即したものになる。
- 経済的金融ニーズのために、感染抑止のアプローチの緩和戦略が優先される場合、根本的な治療法またはワクチンが開発・市販されるまで、複数の非薬理学的介入法を実装する必要がある。
- COVID-19は再流行する可能性があり、この疾患は潜在的には季節性となり完全には根絶されないと予測される。
COVID-19のパンデミックが長続きしないことを願いつつ、同時に、スポーツ活動が限られている状態への対応・措置が求められる。
栄 養
外出自粛生活はこれまでにない新しい状況であり、その間の退屈とストレスは、アスリートが通常の生活パターンを失い、過食や間食、とくに糖分と脂肪が豊富な食品や超加工食品の摂取を増やすかもしれない。
栄養素は病原体に対する免疫応答にとって重要であり、免疫細胞の多くの酵素は微量栄養素の存在を必要とし、亜鉛、鉄、銅、セレン、ビタミンA、B6、C、Eなどの重要な役割が研究されている。しかしながら、平常時のように簡単に食べ物にアクセスできるわけではないため、それらの摂取が困難な場合がある。
アスリートは、COVID-19パンデミック以前は健康的な栄養を摂取していたと仮定するなら、自分たちが慣れている食品の摂取を維持するように努めるべきだろう。場合によっては、ある種の断食またはカロリー制限によって、食生活の変更を検討する必要がある。
断食とカロリー制限
断食または時間制限食は、慢性疾患の予防や酸化ストレスと炎症の軽減に寄与することが報告されている。また、カロリー制限も、酸化ストレスと炎症マーカー、および代謝性疾患リスクマーカーを改善する。
外出自粛に伴い、アスリートは通常のトレーニングよりもエネルギー消費が少なくなりやすい。そのような場合は、食事のパターンを変更したり、カロリー摂取量を減らすことが考慮される。
例えば1日16時間絶食し(カロリーのない、水、コーヒー、茶などを飲み)、他の8時間の時間枠に、2食とスナックを摂取する。ロックダウン中で移動が制限されている場合、これは多くのアスリートにとって十分な量と考えられる。
ビタミンD
ビタミンDが免疫系機能に重要な役割を果たしていることを、多くの研究が示している。最近では、ビタミンD不足が感染症、とくに呼吸器感染症への感受性と関連していると報告されている。
ビタミンDの不足とCOVID-19重症化は、高血圧、肥満、男性、高齢、日光曝露が少ないこと、凝固異常、免疫機能不全など、多くの部分で関連している。よって、まずは毎日適度に日光に当たり、さらにビタミンDの摂取を検討すべきだろう。エリートアスリートは可能な限り医師と連絡を取り、ビタミンDレベルをモニタリングする必要がある。
十分な睡眠
良い睡眠が免疫系にとって不可欠であることが示されている。十分な睡眠をとれないときは、感染と戦う抗体と細胞が減少する。推奨される睡眠時間は、性別、年齢、身体活動によって異なるが、通常、1日に7〜9時間とされる。
睡眠不足は翌日の怪我のリスクの増加とも関連している。最近、アスリートの身体パフォーマンスと酸化ストレスに対する昼寝のポジティブな影響が示された。アスリートは必要に応じて、昼寝で睡眠を補うことも推奨される。
身体活動
これまでのエビデンスから、定期的な運動は免疫系に有益であり、上気道感染症などのいくつかの感染症の罹患リスクを軽減することを示している。
免疫グロブリンA(IgA)は、粘膜免疫系の分泌物に含まれる主要な抗体であり、上気道病原体の侵入に対する最初の防御ラインの一つとされ、IgA濃度は定期的に適度な運動を行っている者で有意に高いとの報告がある。またアスリートと非アスリートの比較において、自然免疫活性の異なる重要なプレーヤーであるナチュラルキラー細胞の機能強化が認められている。
一方、とくに持久力系スポーツを高強度で行っているアスリートは、感染症を発症するリスクが高い可能性があることが示されている(いわゆる「オープンウィンドウ理論」)。最近、これを否定する報告もあるが、現在のCOVID-19パンデミックの間は、推奨される運動レベルの程度を維持することを優先し、不活動と社会的孤立ストレスによる免疫システムへの有害な影響を緩和すべきであろう。
精神的側面
人が隔離された状態に関する研究では、混乱、怒り、心的外傷後ストレス症状などの心理的悪影響が報告されている。COVID-19による外出自粛は、少なくとも二つの理由で、アスリートに有害な心理的影響をもたらす可能性がある。
第一に、外出自粛は親密な関係にある人との身体的な距離を強制し、深刻な感情的な欲求不満を引き起こす。このようなニーズへの不満は、一人暮らしのアスリートのほうがより高いかもしれない。
第二に、COVID-19は、初期に考えられていたよりもダメージが大きいことがわかってきた。世界中の少なくない政治家、科学者、医師が当初、この病気をインフルエンザのようなものであるかのような考えを言い表していたが、今やその間違いを認識している。この変化によって、とくに先進諸国において、ほとんどの人々が環境面の脅威からは保護されていると感じさせていた"神話"が崩壊した。
これらへの対策として、アスリートやコーチを含む関係者が、すべての技術的ツールを用いて連絡を取り合い、連携を再確認することが奨励される。それによって、アスリートやコーチがCOVID-19への不安を和らげ、科学的または技術的な協力を強化し、ひいては個人の免疫システムを強化するのに役立つと考えられる。
文献情報
原題のタイトルは、「The COVID-19 pandemic: how to maintain a healthy immune system during the lockdown - a multidisciplinary approach with special focus on athletes」。〔Biol Sport. 2020 Sep;37(3):211-216〕
原文はこちら(Termedia)