一般男性と一般女性で身体活動量が多いのはどちら? 国内住民対象研究の結果発表
身体活動が健康に良いことは豊富なエビデンスによって支持されている。では、性別に比較した場合、男性と女性のどちらの身体活動量が多いのだろうか?
これまでの身体活動に関する研究は、検討対象者の自己申告に基づき、いわゆる「運動」あるいは「中高強度の身体活動」を行う時間とその強度から評価することが多かった。この方法では、比較的低強度の身体活動を把握することができず、その影響もあって、女性の身体活動量は男性よりも少ないとする結果が多く報告されている。
一方、近年、加速度計を用いて低強度の身体活動も容易に把握できるようになってきた。さらに、従来、健康面へのプラス効果を期待するには、一定強度以上の身体活動を一定時間以上続けて(一般的な推奨は中強度以上で10分以上)行うことが必要とされていたが、細切れの活動、あるいは低強度の身体活動であっても、健康に有益であるとの知見が蓄積されてきている。
このような背景のもと、地域住民の身体活動量を性別に検討した、東京医科大学公衆衛生学分野の天笠志保氏らの研究結果が「Journal of Epidemiology」に掲載された。
一般住民600人以上の身体活動量を14日間連続で評価
天笠氏らはこの研究に、北海道寿都町で実施された住民対象横断研究「DOSANCO健康調査」のデータを用いた。DOSANCO健康調査は、2015年に寿都町の3歳以上の全住民(特別養護老人ホームの居住者を除く)2,638人を対象に実施され、2,100人がアンケート調査に協力。そのうちの771人は、加速度計を用いた身体活動量調査にも協力した。その参加者には連続14日間、就寝時以外は入浴、水泳などの水中での活動を除いて、常に加速度計を身につけて生活してもらった。
身体活動レベルは、1.5METs以下を座位、1.6~2.9METsを低強度の身体活動、3.0METs以上を中~高強度の身体活動と判定した。また、中~高強度の身体活動については持続時間が10分以上と未満とを分けて評価した。
対象者の主な背景
加速度計の装着時間が1日当たり10時間に満たなかった人や小児を除外して、最終的に634人が解析対象とされた。その平均年齢は57.9±16.9歳、男性が43.8%であり、加速度計装着時間は873.4±91.6分/日だった。
男性と女性を比較すると、女性の有職者率が男性より有意に低かったが(男性73.6 vs 女性55.5%.p=0.001)、年齢(56.7±17.2 vs 58.9±16.7歳)、BMI(24.1±3.5 vs 23.7±3.9)、主観的健康感が「良好」の割合(80.2 vs 80.0%)などに有意差はなかった。
座位時間や低強度身体活動の時間で有意な性差
身体活動時間の平均は、座位が464.5±114.5分/日、低強度の身体活動が361.5±96.2分/日、中~高強度の身体活動が47.1±30.6分/日だった。中~高強度身体活動のうち、持続時間10分未満が占める割合は、男性85.1%、女性87.3%であり、大半は10分に至らない短時間の身体活動だった。
歩数やガイドライン推奨順守率は差がないが、総身体活動量は女性が高値
続いて身体活動状況を男女で比較した結果をみてみよう。
まず、ガイドラインが推奨する「10分以上継続して行う中~高強度の身体活動を週150分以上」の順守者率は、男性が10.8%、女性が9.9%であり、有意差がなかった(p=0.701)。1日あたりの歩数も同順に4,899歩、4,580歩であり有意差はなかった(p=0.065)。
次に、本研究のメインテーマである総身体活動量を性別にみると、男性14.0METs・時間/日、女性16.1METs・時間/日であり、女性のほうが有意に身体活動量が多いという結果が得られた(p<0.001)。
有意差が生じる理由の解析
ガイドライン推奨順守率や歩数に有意差がないにもかかわらず、総身体活動量に有意差が生じている理由を探るため、身体活動の強度ごとの解析が行われた。その結果、この差は中~高強度の身体活動の時間ではなく、座位時間と低強度の身体活動を行っている時間の差によって生じていることが明らかになった。
具体的には、女性の座位時間は男性に比較し13.3%(95%CI:9.9-15.9)有意に短いことがわかった。その一方、低強度の身体活動時間は女性のほうが19.8%(同14.9-24.6)有意に長かった。中~高強度の身体活動時間の性差は(3.2%.同-8.0-17.2)は有意でなかった。
この関係は、65歳未満と以上で層別化して解析しても同様であり、高齢者もやはり女性は男性より座位時間が短く、低強度の身体活動時間は長くて、総身体活動量は多かった。
これら一連の結果から研究グループでは、「低強度の身体活動を含めて評価した場合、既報とは対照的に、日本人女性は男性よりも活動的であることが示唆される。従来のように、身体活動量を中~高強度の身体活動のみで評価すると、女性の身体活動量を過小評価し、低強度の身体活動による健康へのメリットを見落とす可能性がある」と結論をまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Are Japanese women less physically active than men? Findings from the DOSANCO Health Study」。〔J Epidemiol. 2020 Aug 8〕
原文はこちら(J-STAGE)