卵は良いのか悪いのか? 前向きコホート研究のメタ解析の結果は...
結局のところ、卵は体に良いのだろうか、よくないのだろうか?
良質の蛋白質が豊富な卵はアスリートの体づくりのため、好んで食される。その一方で古くから血中コレステロールを上昇させるとされており、とくに先進諸国の主要な死亡原因である心血管疾患の予防や治療においては、卵の摂り過ぎを控える指導が今でも行われている。ただし近年では、卵摂取とコレステロールの関係のエビデンスが不十分であることが指摘されるようになり、それとともに卵摂取と心血管疾患の関係のエビデンスの再検証の必要性が指摘されるようになってきた。このような変化の背景には、高コレステロール血症に対するスタチン治療が普及したこと、脂質制限食を行う代償として単純糖質の摂取量が増えることの影響なども挙げられるところだ。
卵の適切な摂取量については長年、議論が続いており、数々の研究が行われてきた。今回紹介する論文は、エビデンスの理解更新を目的に、卵の摂取と心血管疾患の関連を検討した前向きコホート研究のメタ解析を行った結果。
解析対象者数の合計は約200万人
文献検索には、PubMed、EMBASE、Web of Scienceを用い、2020年4月までに公開された論文を検索対象とした。検索キーワードは、卵、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、虚血性心疾患、冠動脈疾患、心疾患、脳卒中、心血管疾患、心不全など。研究の適格基準は、一般成人(疾患罹患者でない)対象の前向き研究で、卵の摂取量と心血管疾患のリスク(致死的または非致死的)や心不全等の関連を評価した研究。
2名の独立したレビュアーが検索し、ヒットした291件から適格基準を満たす39件の論文を抽出した。対象疾患の内訳は、心血管疾患に関する報告が15件、冠動脈疾患が18件、脳卒中が17件、心不全が5件で、16件は北米から、9件は欧州から、9件はアジアから、1件はイランから報告されたもので、3件は多国籍コホートだった。
解析対象者数は合計183万1,038人に及ぶ。
心血管疾患と脳卒中、心不全で、卵摂取の影響は異なる
1週間に6個までは心血管疾患リスクが低下
心血管疾患(cardiovascular disease;CVD)のイベント発生率または死亡率についての研究のメタ解析の結果、週あたりの摂取量が6個までは、CVDイベントリスクの低下と関連することが示された。
具体的には、卵の摂取量が週0個に比較し、1個では相対リスク(summary relative risk;SRR)0.98(95%CI:0.95-1.00)〕、2個ではSRR0.96(0.91-1.00)、3個ではSRR0.95(0.89-1.00)、4個ではSRR0.95(0.90-1.00)、5個ではSRR0.95(0.91-1.00)、6個ではSRR0.96(0.92-1.00)だった。
なお、7個以上でも9個まではSRRが1未満だったが、95%CIの上限値が1を上回った。
1週間に2個までは冠動脈疾患リスクが低下
冠動脈疾患(coronary heart disease;CHD)のイベント発生率または死亡率についての研究のメタ解析の結果、週あたりの摂取量が2個までは、CHDイベントリスクの低下と関連することが示された。
具体的には、卵の摂取量が週0個に比較し、1個ではSRR0.98(95%CI:0.95-1.00)、2個ではSRR0.96(0.91-1.00)だった。
なお、3個以上でも7個まではSRRが1未満だったが、95%CIの上限値が1を上回った。8~9個ではSRRが1以上だったが、95%CIの下限値が1を下回った。
脳卒中リスクとは関連が認められない
脳卒中のイベント発生率または死亡率についての研究のメタ解析の結果、週あたりの卵の摂取個数と脳卒中リスクには、有意な関連が認められなかった。具体的には、卵の摂取量が週0個に比較し、1~9個の場合のSRRはすべて1未満だったが、95%CIの上限値が1を上回った。
1週間に7個以上で心不全リスクが上昇
心不全リスクについての研究のメタ解析の結果、週あたりの摂取量が7個以上では、心不全リスクの上昇と関連することが示された。
具体的には、卵の摂取量が週0個に比較し、7個ではSRR1.15(95%CI:1.02-1.30)、8個ではSRR1.19(1.04-1.36)、9個ではSRR1.23(1.06-1.44)だった。
なお、1個以上7個未満でもSRRは1以上だったが、95%CIの下限値が1を下回った。
男性や糖尿病患者では、卵摂取によるリスク低下が非有意
性別によるサブグループ解析の結果、CVDやCHDに対して女性では、摂取量が週4個という条件で、全体解析と同様にリスクが低下する有意な関連が認められた。しかし男性では、非有意となった。また、週1個という条件では、女性もCVDのリスク低下のみ有意で、CHDに対しては非有意となった。
糖尿病の有無によるサブグループ解析では、糖尿病がある場合、CVDとCHDの双方に対して、卵摂取による有意なリスク低下は認められなかった。
卵が心血管疾患のリスクを高めるという決定的なエビデンスは得られていない
以上の結果から著者らは以下のように結論をまとめている。
「適量の卵摂取が心血管疾患に対し保護的に働くというエビデンスが確認された一方で、卵摂取が心血管疾患を増やすという決定的なエビデンスは認められない。心不全に関しては今後、卵摂取量の増加とリスク上昇の関連を探る研究が必要だろう」。
文献情報
原題のタイトルは、「Egg consumption and cardiovascular risk: a dose-response meta-analysis of prospective cohort studies」。〔Eur J Nutr. 2020 Aug 31〕
原文はこちら(Springer Nature)