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出生時低体重児が生後過栄養で高血圧になる機序を解明 塩分だけでなく脂質負荷も重要

出生時低体重は高血圧症のリスク因子の一つでとして知られている。低出生体重のラットは生後に高脂肪食を負荷して過栄養状態に曝すと、正常ラットより血圧が高くなるが、その機序に下垂体でのグルココルチコイドフィードバックの障害が関与していることが明らかになった。日本医科大学と帝京大学の研究グループの論文が「PLOS ONE」に掲載されるとともに、日本医大のサイトにニュースリリースが掲載された。

出生時低体重児が生後過栄養で高血圧になる機序が解明 塩分だけでなく脂質負荷も重要

研究の概要

高血圧にはさまざまな原因があり、出生児の体重が少ないこともその一つ。正期産の低出生体重ラットを生後、高脂肪食などの過栄養に曝すと、グルココルチコイド作用を有するコルチコステロンの血中濃度が、正常ラットよりも有意に高くなった。グルココルチコイドは腎臓の遠位尿細管や集合管のミネラロコルチコイド受容体に対する結合能を有し、ナトリウムの再吸収を行うことで体液量を増やすように働き、また血中コルチコステロン濃度の上昇は、体液量の増加を介して血圧を上昇させる。

本研究では、さらに高脂肪食に暴露させた低出生体重ラットでは下垂体のmiR-449aの発現が誘導されないことを見いだした。miR-449aは、2013年に日本医大のグループが発見した低分子RNA。正常なラットでは、拘束ストレスのような心身のストレスだけでなく高脂肪食暴露のような代謝ストレスによっても、下垂体でmiR-449aの発現が誘導される。しかし低出生体重ラットでは発現が増加せず、そのことが関係してグルココルチコイドの負のフィードバック機構が障害されると考えられる。

その結果、低出生体重ラットでは高脂肪食負荷後に血中のコルチコステロンレベルが高くなり、血圧が上昇したと結論づけられた。

研究の背景

平成30年の厚生労働統計によると、収縮期血圧が140mmHg以上の高血圧者の割合は、直近10年間で減少傾向にあるものの、20歳以上の男性の36%、女性の26%を占めている。高血圧には、血圧を上昇させる基礎疾患がない本態性高血圧と、副腎や甲状腺の疾患などに伴う二次性高血圧とがあり、日本人の高血圧の大半は本態性高血圧。本態性高血圧は、塩分の過剰摂取、ストレス、睡眠不足、肥満、早産や出生時低体重などが原因としてあげられている。これらのうち日本人では塩分の過剰摂取が重要な原因だが、近年、出生時低体重も、成長後の高血圧に重要な関連があると考えられるようになってきた。

国内では、平均出生体重の低下と低出生体重児出生率の増加が報告されている。低出生体重児出産の原因はさまざまだが、妊娠前のやせや妊娠中の体重増加不良もその原因。近年の低インスリンダイエットや糖質制限ダイエットなどの日常的なメディア暴露により、炭水化物摂取量の低下が指摘されている。妊娠時にやせを呈していた女性であっても、妊娠中の体重増加量が少ない妊婦が少なくない。

このような状況では胎児が栄養不良により出生時低体重となる可能性も考えられる。実際、日本では平均出生体重は減少し、低出生体重児の出産率は増加しており、年間約10万人に達している。低出生体重児は種々の非感染性慢性疾患のハイリスク群であることが報告され、Developmental Origins of Health and Disease (DOHaD)という概念が提唱されている。

多くの疫学研究から、子宮内環境での栄養不足が出生後の栄養不足と一致する場合、将来の疾患発症から保護的に働く一方、胎児期に飢饉に暴露された児が出生後、代償性に成長した場合、胎児期に獲得した倹約型体質が生育環境と適合せず、疾患発症のリスク因子となると考えられる。この仮説は現在「DOHaD学説」と呼ばれている。しかし、この仮説を、ヒトを対象とする検討で証明することは倫理的、時間的に困難。そこで今回、研究グループは動物モデルを作成し、体質と環境のミスマッチがどのように疾患を発症させるのかを明らかにする実験を行った。

高脂肪食に暴露させた低出生体重ラットで血圧がより高くなるメカニズム(概念)

高脂肪食に暴露させた低出生体重ラットで血圧がより高くなるメカニズム(概念)

(出典:日本医科大学)

研究の成果

研究ではまず、妊娠ラットに低糖質カロリー制限食を与えることで出生体重が軽くなるモデルラットを作成。そのようなラットは、授乳期は母ラットから十分なミルクを得ても、一部は成長が追いつかない短体長低体重ラットが生じ、離乳後の低出生体重ラットに高脂肪食を与えると、同じように高脂肪食を与えた正常ラットよりも血圧が高くなることを見いだした。

低出生体重ラットに高脂肪食を与えると血圧がより高くなる機序として、高脂肪食負荷低出生体重ラットの血中コルチコステロン濃度が、高脂肪食を負荷した対照ラットに比べ有意に高かったことが考えられた。高脂肪食の摂取または肥満は代謝ストレスを引き起こし、血中グルココルチコイドレベルが増加する。グルココルチコイドの過度または長期の曝露は、心血管および代謝に強い負荷をかける。

本研究では、高脂肪食負荷低出生体重ラットにステロイドホルモン合成阻害剤のメチラポンを投与すると、それらのラットの血圧は対照ラットと同程度まで低下することがわかった。また、早産児や胎生期タンパク質摂取不足で報告されているような腎臓や動脈は正常ラットと形態的な差はみられず、高脂肪食負荷低出生体重ラットの血中アルドステロン濃度は、高脂肪食負荷対照ラットと差がなかった。さらに心臓や大動脈のアンジオテンシン受容体の発現量にも差はなかったことから、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の異常のために血圧が上昇したわけではない可能性が示唆された。

これらのことから、低出生体重ラットは、高脂肪食負荷により血中コルチコステロン濃度が上昇し、コルチコステロンの作用により血圧が上昇した可能性が示された。正常ラットに拘束ストレスを負荷すると、血中コルチコステロン濃度はストレス負荷を継続しても、その値は急激な上昇後に時間とともに低下する。一方、低出生体重ラットは高脂肪食負荷により血中コルチコステロン濃度が上昇して血圧が高くなった。

高脂肪食負荷低出生体重ラットの下垂体でのmiR-449a発現は変化していなかった。低出生体重ラットの下垂体では、さまざまな負荷に応じたmiR-449a 発現が誘導されず、血中コルチコステロン濃度が高値となったと考えられた。

高脂肪食に暴露させた低出生体重ラットで血圧がより高くなる分子メカニズム

高脂肪食に暴露させた低出生体重ラットで血圧がより高くなる分子メカニズム

(出典:日本医科大学)

今後の展望

これまでの疫学研究や動物モデルから、出生時低体重は将来の高血圧のリスク因子であることが明らかにされている。今回、新たに正期産の胎生期低糖質カロリー制限モデルを作出し、腎ネフロン数の減少が報告されている早産児や胎生期タンパク質不足との違いとして、高脂肪食負荷後の血中コルチコステロン濃度の上昇を見いだした。

胎生期の栄養不足で獲得する「倹約型体質」については、その正体がまだわかっていない。今後は、今回の研究で作成されたラットモデルを用いて「倹約型体質」の実体解明や体質獲得の際のトレードオフで何がどう変化するのか、および、体質の環境とのミスマッチを防ぐ予防策の探索が望まれる。

日本人の高血圧には塩分の過剰摂取が重要であるといわれ、実際、低出生体重児は塩分感受性が高いと言われている。本研究結果から、将来の高血圧リスクを抱えた増加した低出生体重児に対し、若年齢のうちから塩分だけでなく、脂質の摂取量にも注意喚起されるべきと考えられる。

プレスリリース

日本医科大学プレスリリース

文献情報

原題のタイトルは、「Elevated blood pressure in high-fat diet-exposed low birthweight rat offspring is most likely caused by elevated glucocorticoid levels due to abnormal pituitary negative feedback」。〔PLoS One. 2020 Aug 27;15(8):e0238223〕
原文はこちら(PLOS)

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