新型コロナによるロックダウンの不安により体重が有意に増加 イタリアからの報告
国内では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数が再び増加してきており予断を許さない状況だが、緊急事態宣言が解除されて以降、平常を取り戻す模索が続いている。一方、海外に目を向けると日本の外出自粛よりも厳格な対策をとられた国がある。とくにイタリアはパンデミックの影響を最も強く受け、国家レベルでの厳しい外出制限措置を講じた欧州で最初の国となった。
そのイタリアの北部の都市・トリノから、ロックダウン中の人々の食生活と体重の変化に関する論文が報告された。体重が増加した人が多く、とくに不安や抑うつを感じていた人などで、体重増加の影響が大きかったという。
3月10日からのロックダウンの影響をトリノの肥満症患者で調査
イタリアでは3月10日から都市のロックダウンが始まり、現在は段階的に解除が進んでいる。この調査はトリノにある医療機関を受診している肥満症患者を対象に、ロックダウン状態がまだ続いていた4月14日に電子メールで行われた。164名に対して依頼し、150名から回答を得た。
回答者の主な背景は、年齢47.9±16.0歳、男性22.7%、独居49.3%、無職40.7%、現喫煙者16.0%などで、初診時のBMIは36.6±4.5であり、平均6カ月の外来通院歴があった。調査の質問項目は、自己申告による体重のほか、食生活の変化や運動量など12の質問で構成されており、すべて自記式の回答形式。
主な結果
ロックダウン中に体重、BMIが有意に増加
3月10日のロックダウン開始時と、調査回答時までの約1カ月で、体重増加量は1.51kg(92.0±4.5から93.5±17.0kgに増加)であり、BMIは0.58増加し(34.4±4.9から35.0±5.2)、いずれも有意に変化していた(p<0.001)。
スナック類の摂取が増え、運動量が減少した人が多く、4割弱は不安・抑うつに
12項目の質問の回答結果のうち、ロックダウンによる変化が大きかった項目を抜粋して紹介する。
- スナックを食べる頻度:ふだんから食べない 28%、減った 11.3%、変わらない 28%、増えた 32.7%
- スイーツを食べる頻度:ふだんから食べない 16%、減った 12%、変わらない 22%、増えた 50%
- 食事量:ふだんの量を維持 13.3%、それほど増えてないが若干例外がある 34%、増えた 40%、減った 12.7%
- 運動量:ふだんからしない 32.6%、減った 46.7%、変わらない 10%、増えた 10.7%
このほか38%の人が、ロックダウン中に不安やうつになったと自己報告した。
ロックダウン中の体重、BMIの変化と相関する因子
ロックダウン中の体重、BMIの増加と相関する因子として、重回帰分析の結果、不安・抑うつが強いこと(β=1.61,p=0.004.体重に関して〈以下同〉)と健康的とされる食品を摂取しないこと(β=1.48,p=0.026)の2項目が有意な因子として抽出された。一方、教育歴が長いことは、体重、BMIの増加に対し抑制的に働いていた(β=-1.15,p=0.022)。
不安や抑うつにより2kg以上増加
前記の重回帰分析で体重やBMI増加の独立したリスク因子として抽出された2項目の影響力をパス解析で求めたところ、不安・抑うつによる体重に対する直接効果が2.07kg(95%CI:1.07-3.07,p<0.001)、健康的な食品の不摂取による間接効果が0.62kg(95%CI:0.16-1.08,p=0.008)と推定された。
体重増加がCOVID-19のリスクとなり得る
これらの結果を著者らは、「ロックダウンの最初の1カ月で、肥満症患者で平均約1.5kgの体重増加がみられた。教育歴が短いこと、不安・抑うつの自己申告、食品選択時の健康への配慮の欠如は、体重とBMIの増加と有意に関連していた。教育歴の短さは社会経済レベルが低いことにつながり、結果として食品の選択に影響を与える可能性がある。未加工でエネルギー密度が低く、生鮮で傷みやすい食品ではなく、高度に加工された安価な食品をより多く購入するだろう。一方で、自己申告による不安・抑うつ感は体重増加の最も強力な予測因子だった。体重の増加は感染リスクの増加という悪循環につながる可能性がある」とまとめている。
結論として、「比較的小規模なコホート研究にもかかわらず、ロックダウン中の1カ月で有意な体重増加が観察された。COVID-19パンデミックに関連する精神的負担は、体重の増加に関連している可能性がある。このトピックに関するさらなる大規模な研究が必要」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Changes in Weight and Nutritional Habits in Adults with Obesity during the "Lockdown" Period Caused by the COVID-19 Virus Emergency」。〔Nutrients. 2020 Jul 7;12(7):E2016〕
原文はこちら(MDPI)
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