習慣的な運動は子どもの脳の発達を促す、もともとの認知機能が低い子ほどプラス効果が大きい
子どもが運動を習慣的に行うと認知機能が改善し、もともとの認知機能が低い子どもほどその効果が大きいとする、筑波大と神戸大などの国際研究グループによる共同研究の結果が「Journal of Clinical Medicine」に報告され、両大学のサイトにニュースリリースが掲載された。
研究の要旨
近年の研究により、習慣的な運動による体力の向上が、学力と密接に関わる高次認知機能を改善させることが示されている。しかしその一方で、習慣的運動によって学力や認知機能が変化しなかったとする研究の報告もみられる。これらの矛盾には複数の要因がかかわっていると考えられるが、本研究の研究グループは個人差に着目し、運動のプラスの効果が現れやすい人とそうでない人がいるのかを明らかにするため、これまでに実施してきた3件のランダム化比較試験の結果を用いた検討を行った。
その結果、運動トレーニング前にもともと認知機能※1が低かった子どもほど、運動トレーニング※2による認知機能の改善が大きく、運動トレーニング前から認知機能が比較的高かった子どもでも、運動時間の増加により認知機能は低下しないことがわかった。
研究の背景と研究手法
同研究グループはこれまで、健康な子どもを対象に運動トレーニングを実施したランダム化比較試験を行い、その結果から、習慣的運動によって学力と密接に関わる高次認知機能が改善することを示してきた。しかし見解は一致しているわけではなく、他のグループからは、習慣的運動によって学力や認知機能に変化がみられなかったことを示した報告もある。この矛盾が個人差によるものとの仮説に基づき、同研究チームがこれまでに実施してきた3件のランダム化比較試験(解析対象は9~13歳、計292名)を対象に分析を行った。
その結果は図1に示すように、①運動トレーニング前にもともと認知機能が低かった子どもほど、運動トレーニングによる認知機能の改善が大きかったこと、②運動トレーニング前から認知機能が比較的高かった子どもでも、運動時間の増加によって認知機能が低下しなかった――という2点が明らかになった。
研究の限界点と今後の展開
本研究は、学力と密接に関わることが知られている認知機能に焦点を当てている。そのため本研究の結果は、日常的に運動する機会を設けることが、脳の健全な発達や学力の向上に重要であることを示唆している。
一方、本研究からは、運動トレーニング前に認知機能が低かった子どもの特徴(認知機能が低かった理由)は明らかになっていない。また、本研究の解析対象は健康な子どものみのため、注意欠陥・多動性障害や自閉症スペクトラム症などの子どもたちに、本研究の結果をそのまま適用できるとは限らない。
研究グループでは、「今後はさまざまな個人的特徴に焦点を当て、どのような人に運動の効果が大きいのかをより幅広い視点から明らかにしていきたいと考えている」と述べている。
プレスリリース
文献情報
原題のタイトルは、「Baseline cognitive performance moderates the effects of physical activity on executive functions in children」。〔J Clin Med. 2020 Jul 1;9(7):E2071〕
原文はこちら(J Clin Med)