身体活動により世界で毎年390万人、日本では5万3,000人の早期死亡が回避されている
身体活動によって、世界のすべての国で早期死亡を減らす効果が得られており、その数は毎年390万人に上るとする推計値が、「Lancet Glob Health」に報告された。
不健康な生活習慣が早期死亡のリスクであることはしばしば報告されている。例えば、早期死亡の11.3%は野菜や果物の摂取不足によるもので、6.4%は運動不足が関与しており、5.3%は飲酒が関係しているとされている。このようなデータがある一方で、健康な生活習慣がどの程度のメリットを生み出しているのかという肯定的なデータは少ない。そこで本論文の著者らは、身体活動による健康増進効果に焦点を当て、身体活動が早期死亡をどれだけ減らしているのかを統計的に推測した。
168カ国から報告されている各国における40~74歳の身体活動量と全死因による死亡者数、人口、年齢構成を基礎データとして使用。身体活動は、世界保健機関(WHO)が推奨している「1週間に中等度の有酸素運動を少なくとも150分、または高強度の運動を75分、もしくはそれらの組み合わせで同等の負荷量」で定義した。
身体活動は早期死亡の15%を防いでいる
推計の結果、WHOの推奨を満たす身体活動が、全世界の早期死亡を15.0%(95%CI:6.6-20.5)減らしていることがわかった。これを人の数に換算すると毎年、全世界で390万人が身体活動によって早期死亡を回避できていることになるという。
地域・大陸別にみると、アフリカにおいて身体活動による早期死亡回避効果が16.6%(12.1-20.5)と高く、年間50万人の早期死亡が回避されていた。反対にアメリカ大陸は13.1%(10.8-16.6)と効果が低く、早期死亡の回避は年間30万人だった。
国別では、モザンビークとウガンダがともに20.5%(14.4-26.2)で身体活動による早期死亡回避効果が最も高く、反対にクウェートは6.5%(4.0-9.6)で最も低かった。このような差が生じる原因は、身体活動の推奨量を満たしている国民の割合の違いが大きく関与しており、モザンビークは94%が満たしているのに対し、クウェートは33%だった。
傾向として、高所得国(14.1%〈6.6-17.8〉)よりも低所得国(17.9%〈12.3-20.5〉)のほうが、身体活動による早期死亡回避効果が高かった。性別では、女性(14.1%〈5.0-20.4〉)よりも男性(16.0%〈7.8-20.7〉)のほうが、身体活動による早期死亡回避効果が高かった。
日本では毎年5万3,000人が早期死亡を回避
本論文には解析された168カ国すべてについて、身体活動量の推奨を達成している人の割合やそれによる早期死亡回避率、回避人数が表形式で示されている。その中から日本のデータをみてみると、身体活動の推奨を満たしている人の割合が全体で64.5%、早期死亡にあたる人では55.3%、回避効果が13.4%(7.9-19.4)、回避されている人数が年間5万3,000人と推計されている。
ちなみに、米国は回避効果が12.4% (8.3-16.8)、回避されている人数が年間14万200人、英国は回避効果が13.3% (9.0-17.8) 、回避されている人が2万6,600人、中国は回避効果が18.3%(12.7-23.8)、回避されている人が101万6,500人と推計されている。
著者らは、「身体活動はすべての国で早期死亡の回避に貢献している。身体活動の推奨値を向上することで早期死亡を最大6.4%減らせる可能性があるが、仮に身体活動の推奨を満たす人がゼロになったとした場合、早期死亡は15.0%増加することになる」と考察し、「身体活動量の増加を政策として推進する根拠と言える」と結論を述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Use of the prevented fraction for the population to determine deaths averted by existing prevalence of physical activity: a descriptive study」。〔Lancet Glob Health. 2020 Jul;8(7):e920-e930〕
原文はこちら(Elsevier Inc)