ウイルス感染症に対する免疫強化の栄養戦略 新型コロナを念頭に置いての文献レビュー
ウイルス感染症の予防と治療には、バランスのとれた栄養が有用と考えられる。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの中、COVID-19に対する栄養学的エビデンスはまだないが、ウイルス性疾患、とくに呼吸器感染症に重点を置いた栄養ベースの介入研究は多く報告されている。本論文はCOVID-19を念頭に、ウイルス感染症予防のための栄養介入という視点で行われた文献レビューの結果である。ビタミンA、D、亜鉛、セレンの補給は、ウイルス感染症の予防と治療に有益な可能性があるという。
研究の概要
まず研究の概要を紹介すると、著者らはPubMed、Web of Science、Sci Verse Scopusという3つの医療データベースを用い、ウイルス感染症および呼吸器感染症に関する研究報告の文献検索を行った。免疫学的パラメーターを測定し、ヒトを対象とした比較対照試験を適格条件とし、ビタミン、ミネラル、栄養補助食品、プロバイオティクスに関する臨床試験を検索。基準を満たすものとして43件の研究がヒットした。
その内訳は、ビタミン関連が13件、ミネラル関連が8件、栄養補助食品関連が18件、プロバイオティクス関連が4件で、ビタミン関連ではビタミンAとDが欠乏状態にある対象で潜在的なメリットが示された。またミネラル関連ではセレンと亜鉛もウイルス性呼吸器感染症に好ましい免疫調節効果があることが示された。これら微量栄養素は、栄養が枯渇した高齢者に有益である可能性がある。
以下、結論部分のみを抜粋して紹介する。
ビタミン
ビタミンA
ビタミンAは脂溶性ビタミンであり、上皮と粘膜を保護する。免疫機能を増強し、細胞性免疫および体液性免疫双方の応答を調節する。乳児のビタミンA補給は、麻疹ワクチンなど数種のワクチン接種後の抗体反応を向上させる可能性がある。また、ビタミンAとDが不足していた小児(2〜8歳)へのインフルエンザワクチン接種に対する免疫応答が、ビタミンAとDの補給により増強したことが報告されている。
ビタミンD
ビタミンDも脂溶性ビタミンであり、自然免疫と獲得免疫双方の調節に重要な役割を果たす。ビタミンD欠乏症では急性ウイルス性呼吸器感染症への感受性が亢進することが、疫学的に示されている。
急性呼吸器感染症の予防におけるビタミンDの役割に関する系統的レビューには、39件の研究(4件の横断研究、8件の症例対照研究、13件のコホート研究、14件の臨床試験)があり、低ビタミンD状態と上・下気道感染症のリスクの増加に有意な関連を認めた報告もある。ただし、無作為化比較試験(RCT)の結果は一致していない。呼吸器感染症に対するビタミンD補給の抗ウイルス作用は、個々人のビタミンD状態に依存する可能性が高い。
ビタミンE
やはり脂溶性ビタミンであるビタミンEは強力な抗酸化物質であり、宿主の免疫能の調節にもかかわる。ビタミンE欠乏症は体液性免疫と細胞性免疫の双方に影響を及ぼすことが知られている。一方でビタミンE補給が感染症の発症に影響を与えることを示した研究はほとんどない。
50〜69歳の喫煙者を対象とした研究からは、ビタミンEの補給が肺炎のリスクを高めることが示された。別の研究では、高齢者入居施設の居住者の下気道感染症には有意な影響を及ぼさなかった。しかしながら、B型慢性肝炎患者を対象とする小規模のRCTでは、HBV-DNA陰性化や肝逸脱酵素の正常化がビタミンE摂取群で有意に高いという結果が報告されている。
ビタミンC
ビタミンCは、ホルモン産生、コラーゲン合成、免疫増強など、多くの生理学的反応において必須の抗酸化物質および酵素補因子として知られている。マウスのin vivo(生体内)の動物研究からは、感染の初期段階でインターフェロン産生増加を介して、インフルエンザAウイルス(H3N2)に対する抗ウイルス免疫応答に関与することが示されている。ただし、文献検索の結果としては、特定のウイルス感染症の治療のためのビタミンCの使用を検討したRCTは抽出されなかった。また、最も一般的なウイルス感染症と言える風邪の予防と治療に対するビタミンCの有用性に関しても、決定的なエビデンスは見つからなかった。
ミネラル
亜 鉛
亜鉛欠乏症は、ウイルス感染症を含む感染症への感受性の亢進と関連している。例えばHIVやHCVなどの感染症のリスクが高いことが示されている。ただし、亜鉛補充による免疫反応への影響を評価したRCTはほとんどない。肺炎の小児(1カ月〜5歳)でプラセボと比較し、亜鉛補給群で罹病期間や呼吸数、酸素飽和度の有意な改善が報告されている。
セレン
セレンは、抗酸化作用から抗炎症作用に至る多面的作用をもつ微量元素である。低セレン状態は、死亡、免疫機能低下、認知機能低下のリスクの増大と関連しており、セレン補給の抗ウイルス作用が示されている。セレン補給を受けた被験者がポリオウイルスの迅速なクリアランスを示したとの報告も見られる。
銅
銅は免疫細胞の発生と分化に関与する。In vitro(試験管内)研究は銅が抗ウイルス特性をもつことを示している。しかし、銅の補給によりインフルエンザに対する抗体価が低下したとの報告もある。
マグネシウム
マグネシウムは、免疫グロブリン合成、免疫細胞接着などに影響を与え、免疫能の制御に重要な役割を果たす。それらの作用はin vitroのみでなく、in vivo研究でも示されている。しかしながら文献検索からは、ウイルス感染症に対するマグネシウム補給の有益な効果を示したRCTを見い出せなかった。
ウイルス感染症の予防と治療における推奨事項
論文では上記のほか、栄養補助食品サプリメント、プロバイオティクスサプリメントなどについての文献検索の結果を考察した上で、結論を以下のようにまとめている。
全身状態 または 栄養素 | 予 防 | 治 療 | 用 量 | 補給源の例 |
---|---|---|---|---|
健康 | 各国のガイドラインに従う | 栄養アセスメントに応じた治療 | N/A(該当なし) | N/A(該当なし) |
栄養不良 | 蛋白質摂取量、エネルギー量の体系的な食事のアドバイスが必要 | 管理栄養士・栄養士に相談 | N/A(該当なし) | N/A(該当なし) |
肥満 | 専門家の監督の下でのエネルギー摂取制限 | 減量は推奨されない | N/A(該当なし) | N/A(該当なし) |
糖尿病 | 低グリセミックインデックス、低グリセミックロード。赤身の蛋白質を優先 | 管理栄養士・栄養士に相談。個別化した治療が必要 | N/A(該当なし) | N/A(該当なし) |
エネルギー摂取量 | 変化させない | 10%増加 | N/A(該当なし) | N/A(該当なし) |
多栄養サプリメント | フレイルの人には有効 | 病前・病中の食事摂取量が少ない場合は有効の可能性 | ガイドラインの推奨量 | N/A(該当なし) |
ビタミンA | 補給が有効であり得る | 補給が有効であり得る | 予防:5,000 IU/日 治療:20,000 IU/日 | 動物性食品:肝臓、卵、牛乳、チーズ 植物性食品:緑黄色野菜、ニンジン、マンゴー、パパイヤ、サツマイモ |
ビタミンD | 補給が有効であり得る。特に不足している人、および自宅隔離状態の人 | 血清ビタミン状態による | 予防:5,000 IU/日 治療:10,000 IU/日 | 動物性食品:サーモン、イワシ、卵黄、肝臓 植物性食品:キノコ |
ビタミンE | 補給は有害の可能性がある | 補給は有害の可能性がある | 推奨されない | 動物性食品:卵、マグロ、サーモン 植物性食品:小麦胚芽、ヒマワリの種、ヒマワリ油、アーモンド、ピーナッツ |
ビタミンC | 補給が有益である可能性は低い | 補給が有益である可能性は低い | 予防:推奨されない 治療:1 g/日 | 動物性食品:肝臓、カキ 植物性食品:柑橘類、グアバ、イチゴ、パイナップル、ブロッコリー、トマト |
亜鉛 | 補給が有効であり得る | 補給が有効であり得る | 予防:20 mg/日 治療:150 mg/日 | 動物性食品:カキ、牛肉、豚肉、鶏肉 植物性食品:裏ごし豆、カシューナッツ、かぼちゃの種、アーモンド、エンドウ豆 |
セレン | 補給が有効であり得る | 補給が有効であり得る | 予防:50 μg/日 治療:200 μg/日 | 動物性食品:卵、豚肉、鶏肉、牛乳、七面鳥 植物性食品:ヒマワリの種、豆腐、全粒穀物、ブラジルナッツ |
マグネシウム | 補給が有益である可能性は低い | 補給が有益である可能性は低い | 予防:推奨されない 治療:推奨されない | 動物性食品:サケ、チキン、ビーフ 植物性食品:緑黄色野菜、豆類、ナッツ、種子、全粒穀物 |
栄養補助食品 | 成分によっては、補給が有益な場合がある | 成分によっては、補給が有益な場合がある | 製品に依存 | ニンニク、油性魚、クランベリージュース、ブロッコリースプラウト |
プロバイオティクス | 菌株によっては、補給が有益な場合がある | 菌株によっては、補給が有益な場合がある | 製品に依存 | ヨーグルト、凝乳 |
文献情報
原題のタイトルは、「Enhancing immunity in viral infections, with special emphasis on COVID-19: A review」。〔Diabetes Metab Syndr. 2020 Apr 16;14(4):367-382〕
原文はこちら(Elsevier)