スポーツ栄養WEB 栄養で元気になる!

SNDJ志保子塾2023 ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー
一般社団法人日本スポーツ栄養協会 SNDJ公式情報サイト
ニュース・トピックス

アスリートの血清ビタミンB12の至適範囲は400~700pg/mL 

アスリートを対象とした研究から、血清ビタミンB12の至適範囲は400~700pg/mLであるとする報告が発表された。400pg/mLを下回るとヘモグロビン値が有意に低く、700pg/mLでヘモグロビン値は頭打ちになるという。

アスリートの血清ビタミンB12の至適範囲は400~700pg/mL ポーランドの研究

ビタミンB12(コバラミン)はエネルギー代謝に関与するほかに、骨髄における赤血球形成への関与、免疫能の維持、神経伝達物質の合成などの生理学的作用がある。とくにアスリートからは、赤血球形成に対するビタミンB12のエルゴジェニック効果への期待が根強い。しかしアスリートにおける血清ビタミンB12値と赤血球パラメーターとの関連は十分に検討されていない。

筋力系と持久力系の陸上競技アスリート243名を6年間にわたり調査

本研究は、ポーランドのエリート陸上競技アスリート243名から2009~2015年の6年間にわたり合計1,131件の空腹時採血検体を得て、血清ビタミンB12濃度の至適範囲を検討した。243名中189名(904検体)は筋力系スポーツ(短距離、走り幅跳び、投てき)アスリートで、年齢23±1歳、BMI24.5±0.6、他の54名(227検体)は持久力系スポーツ(800m以上の長距離、競歩)アスリートで、年齢25±1歳、BMI19.9±0.2。

赤血球パラメーターとの関連は、全体を以下4群に分け検討した。過去3カ月以内にビタミンB12注射を受けた筋力アスリート57名(177検体)、過去3カ月以内にビタミンB12注射を受けていない筋力アスリート176名(727検体)、過去3カ月以内にビタミンB12注射を受けた持久力アスリート25名(84検体)、過去3カ月以内にビタミンB12注射を受けていない持久力アスリート40名(143検体)。なお、一部のアスリートは6年の間に、ビタミンB12注射を受けた期間と受けていない期間が混在した。

このほか、ビタミンB12の使用がパフォーマンスの向上につながっていると思うか否かを問うアンケート調査を行った。

平均ビタミンB12値は739±13pg/mLで、持久力アスリートが有意に高値

全アスリートの平均ビタミンB12値は739±13pg/mLで、ビタミンB12欠乏症(197pg/mL未満)の該当者はいなかった。競技種目別にみると、筋力系は703±15pg/mL(205~2000pg/mL以上)、持久力系は881±32pg/mL(242~2000pg/mL以上)で、持久力グループが有意に高値だった(p<0.001)。

ビタミンB12値が300pg/mL未満、350pg/mL未満、400pg/mL未満のアスリートが占める割合は、いずれも筋力系グループが有意に多く(順に、5.3 vs 0.9%,11.4 vs 3.1%,20.6 vs 8.4%)、一方で700pg/mLを超えるアスリートの割合は持久力グループが有意に多かった(32.7 vs 56.4%)。これは、筋力系と持久力系では、ビタミンB12値の分布が大きく異なることを意味する。

ビタミンB12とヘモグロビンに弱い有意な相関

ビタミンB12値と赤血球パラメーターとの間に、以下のように、弱いながらも有意な関連が認められた。ヘモグロビン(r=0.12,p<0.001)、ヘマトクリット(r=0.08,p<0.01)、MCH(平均赤血球ヘモグロビン量.r=0.07,p<0.05)。MCV(平均赤血球容積)との相関(r=0.003)は有意でなかった。

この結果から、ビタミンB12値と最も強く相関するマーカーはヘモグロビンと考えられた。

395pg/mL未満ではヘモグロビン低値、700pg/mLで頭打ち

血清ビタミンB12値とヘモグロビン値についてさらなる検討を行ったところ、両者に非線形の関係があることがわかった。

具体的には、ビタミンB12が395pg/mL未満の場合、ヘモグロビン値が有意に低くなり、395pg/mL以上ではビタミンB12値の上昇に伴いヘモグロビン値の上昇が続くが、700pg/mLを超えると、それ以上のヘモグロビン値の上昇は認められなかった。

持久力系アスリートのほうが、より多くビタミンB12注射を受けている

ビタミンB12注射は、全体の34%のアスリートが受けていた。競技種目別では、筋力系アスリートは30%、持久力系アスリートは46%で、後者で有意に多かった (p<0.05)。双方のグループで、ビタミンB12注射を受けていたアスリートではビタミンB12値が有意に高値だった(両グループ内での群間差がともにp<0.001)。

ビタミンB12注射を受けていないアスリートのみで比較すると、持久力系アスリートのビタミンB12値が有意に高値だった(576.8±11.4 vs 698.1±27.3pg/mL,p<0.001)。ビタミンB12注射を受けていたアスリートでは、筋力系アスリートと持久力系アスリートの間にビタミンB12値の有意差はなかった。

持久力系アスリートのほうが、エルゴジェニック効果を強く信じている

ビタミンB12サプリメントのエルゴジェニック効果に対するアンケートから、筋力系アスリート(38%)に比較し持久力系アスリート(54%)は、ビタミンB12のエルゴジェニック効果に対する強い信念が認められた(p<0.05)。

ビタミンB12のエルゴジェニック効果を強く信じているアスリートでは、その34%がビタミンB12注射を受けていた。一方、ビタミンB12のエルゴジェニック効果に対する信念が強くないアスリートでは、その割合は13%だった。

経口サプリを用いて400〜700pg/mLに管理を

以上の結果を著者らは、「赤血球パラメーターの改善傾向は血清ビタミンB12値700pg/mLまでは持続するが、それより高いレベルでは上乗せ効果は観察されない。本検討ではアスリートの38%でビタミンB12が700pg/mLを超えていたが、それらのアスリートには、ビタミンB12補給の必要性を再考し、血中濃度が400pg/mLに近づいた場合にのみ再度検討するようにアドバイスする必要がある」と述べている。

結論として「アスリートは血清ビタミンB12値を定期的に監視し、必要に応じて経口サプリメントを個別に調整して、400〜700pg/mLの範囲に管理する必要がある」とまとめている。

ビタミンB12欠乏症の定義と個別化対応について

なお、疾患治療に用いる注射製剤を、スポーツパフォーマンス向上のために使用することは厳に慎まなければならない。この点に関連することとして、本論文の著者らは、血清ビタミンB12の基準値の下限は報告により100~350pg/mLの範囲にあり、コンセンサスが得られていないことに言及している。

本検討では約200pg/mL未満をビタミンB12欠乏症と定義し、その該当者はいなかったが、基準値下限を300pg/mL未満とした場合は4.4%、350pg/mL未満とした場合は9.7%が該当する。また、仮に本検討でヘモグロビン値の有意な低下が認められた400pg/mL未満と定義した場合は18%がその値を下回るとし、200~400pg/mLはグレーゾーンであり、注意深いモニタリングと個別化した対応が求められると述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Vitamin B12 Status and Optimal Range for Hemoglobin Formation in Elite Athletes」。〔Nutrients. 2020 Apr 9;12(4)〕
原文はこちら(MDPI)

この記事のURLとタイトルをコピーする
志保子塾2024前期「ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー」

関連記事

スポーツ栄養Web編集部
facebook
Twitter
LINE
ニュース・トピックス
SNDJクラブ会員登録
SNDJクラブ会員登録

スポーツ栄養の情報を得たい方、関心のある方はどなたでも無料でご登録いただけます。下記よりご登録ください!

SNDJメンバー登録
SNDJメンバー登録

公認スポーツ栄養士・管理栄養士・栄養士向けのスキルアップセミナーや交流会の開催、専門情報の共有、お仕事相談などを行います。下記よりご登録ください!

元気”いなり”プロジェクト
元気”いなり”プロジェクト
おすすめ記事
スポーツ栄養・栄養サポート関連書籍のデータベース
セミナー・イベント情報
このページのトップへ