子どもの体水分状態は不足しがち 暑くない季節でも習慣的な水分補給が必要
新潟大学と早稲田大学の共同研究グループは、日本の子どもたちの多くが体水分状態がやや不足気味で、その傾向は夏より春に顕著になることを示すデータを報告した。夏の脱水予防はもちろん、暑さが顕著ではない季節にも、子どもたちのこまめな飲水が必要だという。研究結果は「Applied Physiology, Nutrition, and Metabolism」に論文として掲載されるとともに、大学のサイトにニュースリリースが発表された。子どもたち自身による尿カラーチャートを用いた判定には、水分不足の検出に限界があることも示されている。
研究の背景:意外にも日本の子どもたちの体水分状態はこれまで報告されていない
体水分状態は身体機能の恒常性や健康に深く関わるため、適切な範囲に維持することが重要。体水分状態は、尿の浸透圧や比重を調べることで知ることができ、近年の研究で、世界各国の子どもたちの体水分状態が報告されていて、子どもたちの多くは体水分状態がやや足りていないことが明らかになっている。これは、夏の脱水や、夏以外の季節でも免疫や腎機能といった身体の健康全般に関わり、将来的な健康リスクにもつながる可能性がある。
体水分状態は季節、人種、民族、食文化、地理的・環境要因など多くの影響を受けると考えられるが、意外にも日本の子どもたちの体水分状態はこれまで報告されていなかった。そこで本研究では、日本の子どもたちの体水分状態を季節の影響とともに明らかにすることを目的とした。
研究の概要:小~中学校の生徒を対象に、自身での尿比色判定が可能かも含めて検討
新潟大学附属新潟小学校・中学校の児童・生徒から研究参加を募り、保護者を含めて同意を得られた349名を対象に調査を行った(人数は春夏の合計)。調査は2021年4月と7月に各1日行っている。研究参加者は、健康診断の検尿と同じように、起床時に採尿して尿サンプルを学校まで持ってきてもらった。また学校内でも、都合のつく時に採尿に協力してもらった。
尿の色は体水分状態に応じて変化する(色が濃いほど脱水が進行している)。そのため、採尿時には、子どもたちに自身の尿の色を視覚的にみてもらい、尿カラーチャート(尿の色を8段階に分け、そのレベルから体水分状態を判断するスケール)を基に、自分の体水分状態を判断できるかどうかも調べた。採取したサンプルは新潟大学教育学部の運動と環境生理学研究室に運び、直ちに尿浸透圧や尿比重を測定した。
研究の成果:夏よりも春に、より水分不足の傾向。尿比色判定は子どもには困難か
春の起床時サンプルの尿浸透圧は903±220mOsm/L(浸透圧の単位)、夏のサンプルは800±244mOsm/Lであり、春は夏より統計的に高く、やや水分不足だと判断される基準値(800mOsm/L)を超えていた。尿サンプルを提供した子どものうち春は66%、夏は50%がこの基準値を超えていた。学校での測定は学校活動のスケジュール的にも難しいこともありサンプル数が少なかったが、その平均値は、起床時同様に体水分不足の基準を超えていた(春:885±225、夏:859±247mOsm/L)。これらの測定値に男女差は認められなかった。
尿の色から体水分状態を判断できれば、適切な飲水行動につながる。脱水予防の観点では、体の水分が足りていない時に、それを尿の色から自ら判断できることが重要。尿カラースケールは色が濃いほど値が高くなり、8段階のうち4以上が体水分不足を示す。しかし、尿浸透圧が800mOsm/Lを超えていた子どもたちのうち、実際に尿カラースケールで4以上を選択した子どもの割合は多くて30%程度だった。
以上の結果は、世界的な傾向と同様に、日本の子どもたちもやや体水態が足りていないこと、それは夏より春に顕著になることを示しており、夏は日常的な飲水量が増えていると考えられる。また子どもたち自身が尿の色から適切に体水分不足を判断することは難しいようだった(ただし、子どもでも判断可能とする海外の研究もある)。
今後の展開:脱水予防のための行動は、暑いと感じない季節にも
本研究結果を基に、子どもたちの体水分状態をどのように改善できるか、その解決策を打ち出すことが重要。研究グループではすでに、子ども向けの教育動画「からだと水分」を製作して、公開している。
この教育動画の公開に先立ち、子どもたちの飲水意識の現状を調査しており、この動画を視聴することで実際に子どもたちの飲水行動の理解につながるのかどうかも調べている。研究グループは、「これらの研究成果も追って公開する予定だが、子どもたちの飲水意識と飲水行動を改善して、夏の脱水予防はもちろんのこと、暑くない時期にも体水分状態を良好に維持するマネジメント力の向上につなげていきたいと考えている」と述べている。
出典
日本の子ども達の体水分状態はやや不足気味-新潟大学附属新潟小中学校の子ども達を対象とした調査より-(新潟大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Seasonal changes in hydration in free-living Japanese children and adolescents」。〔Appl Physiol Nutr Metab. 2024 Jun 14〕
原文はこちら(Canadian Science Publishing)
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