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バランスの良い食事が熱中症リスクの低さと関連? 国内学生アスリートの横断研究で有意な結果

大学生アスリートの44.7%がクラブ活動中に熱中症を経験したことがあるという、調査結果が報告された。また、1日3食バランスの良い食事を摂っているアスリートでは、その割合が有意に低いことも明らかにされた。中部大学大学院生命健康科学研究科の伊藤守弘氏らの研究グループ(予防医学)によるもので、「Drug Discoveries & Therapeutics」に論文が掲載された。

バランスの良い食事が熱中症リスクの低さと関連? 国内学生アスリートの横断研究で有意な結果

アスリートの熱中症リスクはライフスタイルと関連があるか?

近年の温暖化によって国内でも夏季を中心に、多数の熱中症患者が発生するようになった。熱中症の中でも労作性熱中症(exertional heat illness;EHI)は高温多湿の環境での身体活動に伴い発生し、ときに労作性熱射病(exertional heatstroke;EHS)となり生命が左右されることもある。夏季のスポーツでは当然ながらEHIやEHSのリスクが高くなり、アスリートの運動中の死因として、心臓イベント、頭頸部外傷に続き3番目に挙げられている。重要な点として、EHIやEHSによる死亡は、適切な予防戦略と早期治療によって防ぎ得る死であることが強調される。

EHIの症状として、筋痙攣や虚脱、混乱などがあるが、現場の指導者がアスリートのこのような変化をすべて察知することは困難であり、アスリート自身が兆候に気付いて速やかに対処することが最初のポイントとなる。一方、予防のためには水分摂取、湿球黒球温度(wet bulb globe temperature;WBGT〈暑さ指数〉)のモニタリング、暑熱馴化、睡眠の改善などが有用であることが知られている。また、グルタミンやタンパク質の適切な摂取がEHIの発症や重症度の抑止につながる可能性を示唆する研究もある。ただし、日常のライフスタイル、とくに食習慣が、EHIリスクとどの程度関連しているのかは不明。

以上を背景として伊藤氏らは、食習慣を含むライフスタイルがアスリートのEHIリスクと関連しているのではないかとの仮説の下、以下の研究を行った。

44.7%の男子大学生アスリートが熱中症の経験ありと回答

この研究は、ある大学の運動部に所属する男子学生アスリート237人を対象とするアンケート調査として実施され、横断的な解析が行われた。アンケートにはGoogleフォームを用い、215人(90.7%)が回答し、そのうち197人(91.6%)が有効回答だった。

アンケートの質問は238項目からなり、夏季の部活動中の労作性熱中症(EHI)の経験の有無、熱中症が疑われる症状(後述)の経験の有無、ふだんの食事や睡眠の習慣、身体活動量(国際標準化身体活動質問票簡易版〈International Physical Activity Questionnaire-Short Version;IPAQ-SV〉で評価)などを把握した。

なお、EHIの経験の有無は医学的な診断に基づくものではなく、本人がEHIだと感じた場合に「経験あり」として回答してもらった。また、熱中症が疑われる症状としては、13種類の症状(頭痛、口渇、めまい、脱力感・倦怠感、集中困難、嘔気、筋痙攣、頻呼吸、頻脈または拍動の減弱、幻覚、失神など)を挙げた。

バランスの良い食生活の学生アスリートはEHI経験が少ない

解析対象者の年齢は19.8±1.12歳で、所属クラブは野球50.8%、サッカー27.9%、ハンドボール15.7%、ラグビー5.6%だった。

全体として44.7%の学生が、EHIの経験ありと回答した。EHIの経験の有無で二分して特徴を比較すると、年齢や所属クラブの分布には有意差がなく、睡眠時間、トレーニング環境(屋内か屋内か)、身体活動量(IPAQ-SV)にも有意差はなかった。

それに対して食習慣に関する質問では、「主食、主菜、副菜がそろった食事を摂る回数」が1日2回以下と回答した学生(72.6%)はEHIの経験ありが49.0%と、ほぼ2人に1人であったのに対して、1日3回と回答した学生(27.4%)はEHIの経験ありが33.3%と3人に1人であって、群間に有意差が存在した(p=0.049)。

一方、過去にEHIに関する解説書を読んだことのある学生(19.3%)は、そうでない学生よりもEHIの経験ありとの回答が有意に多かった(p=0.029)。

嘔気や筋痙攣などを自覚した割合は、EHI経験の有無で有意差なし

次に、夏季のクラブ活動中に来したことのある自覚症状の有無をみると、口渇(72.1%)、頭痛(54.3%)、集中困難(51.3%)などが多く挙げられ、全体として80.7%は何らかの症状を来したことがあると回答した。

これを、EHIの経験の有無で比較すると、頭痛(p=0.001)、頻脈または拍動の減弱(p=0.031)、めまい(p=0.038)、頻呼吸(p=0.042)、脱力感・倦怠感(p=0.048)において有意差が認められ、いずれもEHI経験ありとする学生のほうが、それらの症状を来した割合が高かった。一方で、集中困難、嘔気、筋痙攣などを含む、EHIを疑うべき8種類の症状を自覚した頻度には有意差がなかった。

この結果について著者らは論文の考察において、「EHIの症状の中にはEHI以外の原因で発現するものもあるため判断が難しいこともあるが、夏季のトレーニング中にそれらの症状が発現した場合には、すべてEHIの兆候と見なし適切な行動をとるべき」と述べている。

EHIに関する知識はEHIの早期発見、バランスの良い食事はEHIの予防につながる

次に、EHI経験ありとする回答を目的変数、ライフスタイル等を説明変数とする二項ロジスティック回帰分析を施行。その結果、夏季のクラブ活動中に頭痛を来したことがあることが、EHI経験ありの有意な関連因子であることがわかった(OR3.061〈95%CI;1.597~5.867〉、p<0.001)。

また、過去にEHIに関する解説書を読んだ経験もEHI経験ありの有意な関連因子であった(OR0.430〈0.190~0.972〉、p=0.043。解説書を読んだ経験ありを0、なしを1として解析しているため、オッズ比の低さは解説書を読んだ経験がある場合にEHI経験ありの割合が高いことを意味する)。この点について考察では、「EHIに関する十分な知識があることによって、EHI発症時に自分自身でその認識が可能になることを示唆している」との解釈が加えられている。

そして、「主食、主菜、副菜がそろった食事を摂る回数」が少ないことも、EHI経験ありの有意な関連因子であった(1日3回を基準として2回以下でOR2.217〈1.066~4.611〉、p=0.033)。つまりバランスの良い食事の頻度が高いことが、EHIリスクの抑制につながる可能性が考えられた。

これらの結果を基に論文の結論は、「1日3食すべてをバランスよく摂取することでEHIの発生率を減らすことができるのではないか。またアスリートがEHIを正しく理解することの重要性も明らかになった。アスリートに対してバランスの良い食事摂取の重要性と、EHIの症状に関する情報の啓発を早急に推し進める必要がある」と総括されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Association between the experience of exertional heat illness (EHI) and living conditions of collegiate student athletes」。〔Drug Discov Ther. 2024 Mar 20;18(1):60-66〕
原文はこちら(J-STAGE)

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