都道府県ごとの1人当たり県民所得と生活習慣や死因別死亡リスクに有意な関連 1995年以降の縦断的解析
都道府県別の1人当たり県民所得と、生活習慣や死因別死亡リスクとの有意な関連を示す研究データが報告された。BMIは1人当たり県民所得が低い県で高く、歩数はその反対の関係があることや、男性の全死亡、がん死亡、脳卒中死亡リスクは1人当たり県民所得が低い県で高いことなどが明らかにされている。聖路加国際大学大学院公衆衛生学研究科の西信雄氏らの研究によるもので、「Preventive Medicine Reports」に論文が掲載された。
1人当たり県民所得と生活習慣や疾患リスクとの関連を、経時的な推移を考慮に入れて検討
疾患リスクには地域差があることが知られており、例えばかつては食塩摂取量の多い東北地方で住民の高血圧や脳卒中死亡リスクが高いことが知られていた。近年では社会経済的要因と疾患リスクの差に関するエビデンスが蓄積されてきている。ただし、その関連を示した研究の多くは横断研究であり、経時的な変化が十分考慮されていない。
以上を背景として西氏らは、都道府県別1人当たり県民所得と疾患別死亡リスクおよび生活習慣との関連について、1995年以降の5年ごとのデータを用いた解析を行った。
1人当たり県民所得で47都道府県を4群に分類して比較
解析に用いたデータは、死亡リスクについては厚生労働省「人口動態統計特殊報告」、生活習慣については同「国民健康・栄養調査」を用い、1人当たり県民所得については内閣府経済社会総合研究所の公開されているデータを用いた。解析対象年は、1995年から5年ごとの2000、2005、2010、2015の各年。
死因については、全死亡(あらゆる原因による死亡)、がん死亡、心疾患死亡、脳卒中死亡について検討。生活習慣関連では、40~69歳のBMI、野菜摂取量、食塩摂取量、歩数、現喫煙者率、習慣的飲酒者率を検討した。なお、1人当たり県民所得については、都道府県別の四分位数に基づき、全体を4群に分類した。
死亡リスクは経年的に低下する一方、1人当たり県民所得が生活習慣や死亡リスクと関連
死因別死亡リスク:男性は心疾患死亡以外が1人当たり県民所得と関連、女性は1人当たり県民所得との有意な関連なし
経時的変化
死因別死亡リスクについて、まず経時的な変化をみると、男性、女性ともに検討した4種類の死因すべて、リスクが有意に低下してきていた(すべてp<0.001)。
1人当たり県民所得との関連
次に1人当たり県民所得との関連をみると、男性は全死亡(p<0.001)、がん死亡(p=0.005)、脳卒中死亡(p=0.01)については1人当たり県民所得が低い群で死亡リスクが高いという関連が認められた。男性の心疾患死亡については1人当たり県民所得との関連が有意でなく、女性に関しては検討した4種類の死因すべて、死亡リスクとの関連が有意ではなかった。
生活習慣:男性・女性ともにBMI・歩数と有意に関連し、女性は喫煙とも有意に関連
経時的変化
生活習慣関連因子の経時的な変化については、男性ではBMIを除いて検討したすべてが有意に低下していた(すべてp<0.001)。それに対してBMIは有意に上昇していた(p<0.001)。
一方、女性のBMIは有意に低下し、野菜摂取量、食塩摂取量、歩数も有意に低下していた(すべてp<0.001)。それに対して女性の現喫煙者率は有意に上昇していた(p=0.03)。習慣的飲酒者率は有意ではなかったが増加の傾向がみられた(p=0.06)。
1人当たり県民所得との関連
男性・女性ともに1人当たり県民所得が低い都道府県ではBMIが高く、歩数が少ないという有意な関連が認められた(すべてp<0.001)。また女性では1人当たり県民所得が高い都道府県で現喫煙者率が多いという関連が認められた(p=0.03)。
このほか、男性において、有意ではないものの1人当たり県民所得が低い都道府県で習慣的飲酒者が多い傾向があった(p=0.06)。野菜や食塩の摂取量については、性別にかかわらず1人当たり県民所得との関連は有意ではなかった。
公衆衛生政策の立案の基礎資料となる研究
著者らは本研究について、1人当たり県民所得については性別が考慮されていないデータを使用しているなどの限界点があることを述べたうえで、「1人当たり県民所得は男性の全死亡やがん死亡、脳卒中死亡のリスクと関連し、男性・女性ともに多くの生活習慣関連因子との関連が認められた。このように、1人当たり県民所得を含む社会経済的要因による死亡リスクと生活習慣との関連を経時的に観察していくことは、公衆衛生政策の立案のために欠かせない」と総括している。
将来的には女性の死亡リスクも1人当たり県民所得と関連?
ところで、本研究では、1人当たり県民所得と死亡リスクとの関連が、男性では心疾患死亡以外で有意であるのに対して、女性では有意な関連が認められなかった。このことに関連し、論文中では以下のような考察が述べられている。
この研究では、1人当たり県民所得の格差の程度を評価する手法として、死亡リスクごとに相対的格差指数(relative inequality index;RII)が検討されている。RIIが1を超えて値が大きくなるほど、より大きな格差が存在していると推定されるが、男性では全体的に1をやや上回る値で推移しているのに対して、女性では1未満であったものが時代の推移とともに1をやや上回る値へと変化してきている。このことから、男性と女性との間に存在している就労率や賃金の格差が将来的に縮まってくると、女性のRIIも上昇して1人当たり県民所得と死亡リスクとの間に有意な関連が観察されるようになる可能性も考えられる、とのことだ。
文献情報
原題のタイトルは、「Trends in mortality from major causes and lifestyle factors by per capita prefectural income: Ecological panel data analysis from 1995 to 2016 in Japan」。〔Prev Med Rep. 2023 Jul 24:35:102348〕
原文はこちら(Elsevier)