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栄養成分の信号機カラー表示で食習慣が改善する 国内大学生対象の1週間にわたる無作為化比較試験(RCT)

食事メニューの栄養価をエネルギー量や栄養素量の数値のみでなく、赤・黄・青という3色の信号機カラーの表示を追加すると、健康的なメニューが選択されやすくなり食習慣が改善する可能性のあることが報告された。星薬科大学の湧井宣行氏らが大学生対象に行った1週間にわたる無作為化比較試験の結果であり、「BMC Public Health」に論文が掲載された。

栄養成分の信号機カラー表示で食習慣が改善する 国内大学生対象の1週間にわたる無作為化比較試験(RCT)

信号機カラーの栄養表示(TLF)は日本人の食習慣を変え得るか?

食品のパッケージの前面に、含まれている栄養素やエネルギー量が健康的かそうでないかをひと目でわかるように工夫して示す「FOP(front of pack)表示」は、公衆衛生対策の一環として多くの国で実施されている。例えば英国は欧州で初めて、信号機カラーを用いた「TLF(traffic light food)表示」を導入し、その後TLF表示は世界各国で採用され、有用性が報告されてきている。

一方、日本では未だ数値のみの表示であり、また表示位置がパッケージの前面ではなく、裏面の目立たない場所であることが多い。いうまでもなく日本も諸外国同様に食習慣の乱れが関与する肥満や生活習慣病が増加しており、消費者に対して健康的な食品選択をわかりやすく伝えるツールの必要性は高いと考えられる。

こうした背景の下、湧井氏らは既に、TLF表示によって日本人も健康的な食品を選択するようになることを示す研究結果を報告している(doi.org/10.3390/ijerph20031806)。ただしその研究では、介入後1日のみの変化の評価にとどまっており、食事の「習慣」も改善し得るかは明らかになっていない。そこで今回の研究では介入期間を1週間として、TLF表示によって健康的な食習慣が継続的に維持されるかを検討した。

TLFあり/なしの2群に分類して計3週間にわたって研究

研究の対象は星薬科大学の学生70人。内分泌代謝疾患の存在または何らかの食事療法が必要な状態、摂食障害、過去3カ月で5%を超える体重変化などの該当者は除外されている。

研究デザインは無作為化二重盲検試験であり、Googleフォームによってその日の食事メニューを提示して、夕食として食べたいと思うものを選択してもらうというもの。介入群と対照群各35人に二分し、まず最初の1週間は両群ともに、メニューの写真のみを提示して選択してもらった。その後1週間おいて3週目には、介入群にはメニューの写真とともにTLF表示のある食事メニューを提示。対照群には1週目と同じく写真のみを提示して選択してもらった。

用意したメニューは、おにぎり、のり弁、シャケ弁、唐揚げ弁当、サバ塩焼き弁当、生姜焼き弁当、ハンバーグ弁当、エビフライ弁当、とんかつ弁当などの15種類。参加者に対して毎日15時にメニュー選択を促すメールを送信し、夕食前までに回答を得た。15時という時刻は、昼食直後の満腹感が選択に与える影響を抑えるために設定された。

TLF表示について

信号機カラーの栄養表示(TLF)は、メニューおよび含まれている栄養素に対して行った。

メニューのTLF表示

研究に先立ち、15種類のメニューの人気を調査して、人気の高さにより3群に分類した。人気の高いカテゴリーは赤の表示、二番目に人気のあるカテゴリーは黄色の表示、人気のないカテゴリーは青の表示とした。全体的に、人気の低い青表示のメニューは健康的なメニューである傾向があったが必ずしも栄養価とは一致しておらず、メニューのTLF表示はそれが被験者の選択に影響を及ぼすのかという行動実験の指標として用いた。

栄養素のTLF表示

各食品に含まれている栄養素については、英国のガイドラインに基づいて3食に分類した。例えば脂質については、100gあたりの総含有量が17.5g超は赤、3.1~17.5gは黄色、3g未満は青とした。また飽和脂肪酸は100gあたりの総含有量が5g超は赤、1.5~5gは黄色、5g未満は青、糖質は22.5g超を赤、5~22.5gを黄色、5g未満を青、食塩は1.5g超を赤、0.3~1.5gを黄色、0.3g未満を青とした。

なお、著者らは、このようにメニューと栄養素という2段階のTLF表示とすることによって、日本の食文化の影響を考慮しながらTLF表示の有用性の検討が可能になるとしている。

評価項目と評価方法

介入効果は、食品選択への影響、栄養価や健康に対する意識の変化について評価し、それら以外に、TLF表示がなされていることによるストレスなども調査した。

これらのうち、食品選択への影響については、被験者が選択したメニューのTLF表示が赤の場合は3点、黄色の場合は2点、青の場合は1点とカウントし、その値を「TLFスコア」として、介入前後の変化と群間差を検討した。TLFスコアは、値が低いほど食習慣が健康的である可能性が高いことを意味する。

また、栄養価や健康に対する意識については、メニュー選択の際に、エネルギー量、脂質、糖質、食塩などの含有量を意識したか否かという質問により評価した。ストレスの程度は、うつ不安ストレススケール(Depression Anxiety Stress Scale-21;DASS-21)やビジュアルアナログスケール(Visual Analog Scale;VAS)で把握した。

TLF表示によって健康的な食生活が維持される

介入群で1人が脱落したため、解析は69人で行われた。年齢は21.0±1.3歳で、女性が92.8%と多くを占めていた。

介入群でTLFスコアが有意に低下

ベースライン時点において、年齢、性別の分布、食欲の強さ(Simplified Nutritional Appetite Questionnaire;SNAQ)、ストレス(DASS-21やVAS)、メニュー選択の際の栄養価に対する意識などを含め、介入群と対照群との間に有意差はなかった。

ベースラインのTLFスコアは介入群、対照群ともに15.5±2.0であり、対象群では介入後もスコアの変化はみられなかった。それに対して介入群は13.2±2.0と低下していた。介入前後の調整平均差は、対照群が-0.48(95%CI;-1.39~0.42)であり有意な変化は認められず、対して介入群は-2.27(同―3.19~―1.35)と有意に低下していた

また、介入群では青ラベルのメニューの選択率が20.2%から40.8%に増加する一方、赤ラベルのメニューは45.0%から32.4%に低下していた。それに対して対照群では、青ラベルメニューが23.7%から30.2%にやや増加、赤ラベルメニューは46.9%、45.7%でありほぼ不変だった。

メニュー選択の際に栄養価や健康を意識する人の割合は、エネルギー量、総脂質、飽和脂肪酸、糖質、食塩のいずれについても、介入群において有意に高いという結果だった。さらに、TLF表示の対象外であり数値のみを示したタンパク質についても、介入群のほうが意識する人の割合が有意に高かった。つまり、TLF表示を加えたことで、食品の栄養価に対する関心が全体的に向上した可能性が考えられた。

ストレス(DASS-21やVAS)に関しては介入後にも群間に有意差はなく、TLF表示を目にすることによってストレスが強まることはないと考えられた。このほか、事後アンケートにより、「TLF表示はあったほうがよいか?」、「TLF表示は健康意識を高めるのに役立つか?」、といった質問に対してほぼ全員(69人中67~68人)が「はい」と回答し、「食品メーカーに対するTLF表示の義務化を望むか?」にも91.3%が「はい」と回答した。

TLFラベル表示は日本でも有用

著者らは本研究には、夕食の選択のみに焦点を当てていること、選択されたメニューを実際に摂取したわけではないこと、対象者の大半が女子大学生であることなどの限界点があるため、さらなる研究が必要とされるとしたうえで、「TLFラベル表示により、1週間を通して継続的に健康的な食事メニューを選択する人の割合が増加し、栄養価に対する意識が向上した。この結果は日本においてもTLFラベル表示が、国民の健康的な食生活の促進や生活習慣病の予防に役立つ可能性を示唆している」と結論づけている。

文献情報

原題のタイトルは、「Investigation of the 1-week effect of traffic light nutrition labeling on diet selection among Japanese university students: a randomized controlled trial」。〔BMC Public Health. 2024 Feb 5;24(1):381〕
原文はこちら(Springer Nature)

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