アスリートの日焼け対策、知識は豊富だが実際の行動が伴っていない? ナラティブレビュー
アスリートの皮膚がんリスクなどについて、ナラティブレビューとしてまとめた論文を紹介する。ウォータースポーツ、ウィンタースポーツ、マラソン、登山などのスポーツごとに、基底細胞がん、扁平上皮がん、悪性黒色腫などの特定の皮膚がんリスクが高い傾向があることが明らかになったという。また、アスリートは日焼け対策の必要性や方法に関する知識レベルは高いものの、実際の行動が伴っていない可能性があるとのことだ。
アスリートの皮膚がんリスクと対策の実態を既報文献から探る
運動が健康に有益であることは間違いなく、がん種の中でも大腸がんや乳がんについては運動がリスク抑制につながる可能性が示されている。それに対して屋外での運動による太陽光への曝露は、皮膚へダメージを与え皮膚がんのリスクを高める可能性が存在する。太陽光への曝露に加えて、運動誘発性の免疫能低下もこれに関与していることを指摘する報告もみられる。また、運動に伴う発汗が、皮膚の光感受性を高めるという指摘もある。
屋外で肌の露出の高いウェアを着用してのトレーニングは、おしなべてこれらのリスクを高めると考えられるが、それに加えてウォータースポーツでは肌に塗布した日焼け止めが水で洗い流されやすいこと、ウィンタースポーツでは雪の反射により紫外線曝露量が増えることなども、リスクを押し上げる要因として考えられる。
一方、皮膚がんは日焼け止め対策を徹底することによって、最も予防可能ながんの一つと言われている。今回紹介する論文は、アスリートの皮膚がんリスクの実態や日焼け対策に関するアスリートの知識、および実際の行動などについて、ナラティブレビューとしてまとめられた、ポーランドの研究者による論文。
文献検索について
PubMedとGoogle Scholarを用いて、屋外スポーツ、紫外線、アスリート、日光曝露、皮膚がんなどの単語により、日光への曝露による影響、皮膚がんの罹患率、屋外スポーツと皮膚がんの罹患との関連性、アスリートの利用可能な光防御方法、日焼け対策の知識と行動に関する報告を検索した。言語は英語のみとし、報告年月には制限を設けなかった。英語以外の言語で執筆された論文や全文を利用できない論文は除外した。
153件がヒットし、タイトルと要約に基づくスクリーニング、全文精査を経て、62報を解析の対象として抽出した。
屋外競技アスリートの皮膚がんや日光曝露関連皮膚病変の罹患率
屋外競技アスリートでは、基底細胞がん、扁平上皮がん、悪性黒色腫、および紫外線誘発性の皮膚損傷の罹患リスクが高いとする報告が多かった、競技別にみると、ウォータースポーツや登山は基底細胞がん、水泳やサーフィンは扁平上皮がんや悪性黒色腫、マラソンでは悪性黒色腫のリスクが上昇する傾向がみられた。
太陽光線は免疫系の抑制を引き起こし、がんの発生を惹起する可能性がある。皮膚がんの9割は紫外線への過度の曝露に関連していると推定される。また、過度のトレーニングの負荷によって組織損傷が引き起こされ、免疫抑制状態となる可能性もある。さらにスポーツ中の発汗は、光線への過敏性を増加させ紫外線暴露の悪影響を悪化させ得る。一方でこれまでのところ、汗に含まれる物質が日光に対する皮膚の感受性を高めることは証明されていない。
大半の屋外競技での身体活動は紫外線への曝露を増加させ、これが皮膚がんのリスクの上昇につながる。とくに、いくつかの特定の競技では、リスク上昇がより大きくなる可能性がある。そのような競技の一つはウォータースポーツであり、日焼け止めの洗い流しが関与していると考えられる。トレーニング地の緯度も関連が強く、オーストラリア、中米、アフリカは赤道に近いため、1年を通じて紫外線レベルが高い。
日光曝露の影響の実際と日焼け対策
夏のスポーツは、紫外線の強い時間帯に、肌の露出が多く日焼け止め効果の弱いユニフォームを着てプレーされることが少なくない。ハワイのアイアンマン・トライアスロン世界選手権中に、3人のアスリートで計測された紫外線平均曝露量は、皮膚の紅斑または日焼けを引き起こす最小曝露量の200~300倍に及んだ。一方で、冬のスポーツでの紫外線曝露も無視できない。1万1,000フィート(約3,300m)の高地で、日焼け止めを塗布せずにスキーを開始した場合、わずか6分間の紫外線曝露によって日焼けが生じることが実証されている。
適切な日焼け止めは、競技種目やトレーニングの強度、肌の露出面積、発汗レベル、日射量、風、気温、日光曝露時間などの環境要因に対する実用性を考慮して決定する必要がある。一般的な光防御方法として、日陰を利用する、日照時間のピークを避ける、日焼け防止服(紫外線カットウェア)を着用する、日焼け止めを塗る、肌の露出面積を減らす、帽子やサングラスの着用などが挙げられる。
アスリートの日焼け対策の認識と行動
アスリート対象のアンケート調査から、日光曝露対策として日焼け止めの必要性を知ってはいるものの、適切に使用している割合は少ないことが明らかにされている。例えば、日焼け止めを使用しているアスリートの中で、長時間の屋外トレーニング中に日焼け止めを1時間ごとに塗り直す人は4.2%のみと報告されている。また、ランナーの間では、サングラスは多用されているものの、日焼け止めは塗り心地が不快だとする意見もみられる。
ある論文の著者は、このような認識に基づく日焼け止めの不適切な使用が、アスリートが皮膚にダメージを負いやすい原因ではないかと述べ、とくにウォータースポーツでは30分に1度の頻度での塗布が不可欠とし、そのような認識が広まる必要があるとしている。
アスリート対象の皮膚がんリスク啓発活動の強化を
論文の結論は、「屋外での身体活動は日光への曝露量の増加と皮膚がん罹患リスクの増加に関連しており、ウォータースポーツやウィンタースポーツなどの特定のスポーツは、さらなる悪条件を生み出している。リスクがあるにもかかわらず、屋外スポーツアスリートは、日光から十分に身を守っていない。とくに日焼け止めが適切に使用されていない」とまとめられている。
そのうえで、「アスリートの日焼け対策が不十分であることは緊急の課題だ」として、アスリートの皮膚がんへの意識を高めるために近年、いくつかのキャンペーンが開始されているが、その活動をさらに強力に推進する必要のあることを指摘している。
文献情報
原題のタイトルは、「Skin Cancer Risk, Sun-Protection Knowledge and Behavior in Athletes—A Narrative Review」。〔Cancers (Basel). 2023 Jun 22;15(13):3281〕
原文はこちら(MDPI)
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