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筋骨格系の怪我からのリハビリを促進する栄養戦略 システマティックレビューに基づく考察

アスリートの活躍を制限してしまう大きな要因の一つは怪我であり、中でも筋骨格系の障害が大きな割合を占め、受傷後には長期間のリハビリテーションが必要となることが少なくない。そのリハビリテーションを栄養介入によりサポートする方法について考察をまとめた論文を紹介する。

筋骨格系の怪我からのリハビリを促進する栄養戦略 システマティックレビューに基づく考察

世界で毎年300~500万件のスポーツ障害が発生

近年、エリートアスリートは、ますます過密な競技スケジュールをこなし、日常では高強度トレーニングを継続することが求められるようになっている。それによって怪我のリスクが上昇する可能性があり、推計では世界で年間300~500万件のスポーツ関連障害が発生しているとされる。

スポーツ障害には脳震盪なども含まれるが、筋骨格系の障害が最多とされている。スポーツによる筋骨格系の障害のリハビリテーションは、二つのステップに大別される。第一段階では固定などによってダメージの拡大を防ぎながら組織の修復を図り、第二段階ではトレーニングを慎重に再開する。これらのプロセスが栄養戦略によって促進される可能性がある。例えば活性酸素種の発生や体タンパクの異化を栄養によって抑制し、炎症を制御して筋骨格系の保護と修復を促すことが考えられる。しかし、そのエビデンスは十分でない。

今回紹介する論文はこの点について、システマティックレビューにより現時点の知見を総括している。

エリートレベルを対象に行われた研究報告を抽出して考察

文献検索には、PubMed/Medline、Scopus、PEDro、Google Scholarが用いられた。適格基準は、18歳以上のエリートまたはハイパフォーマンスアスリートを対象に、筋骨格系の負傷後のリハビリにおける栄養戦略に焦点をあてた、2012~2022年に英語またはスペイン語で発表された研究論文であり、全文が公開されているもの。一方、除外基準は、研究対象が未成年、高齢者、非アスリート、アマチュア/レクリエーションアスリートまたは新興の競技(non-conventional)のアスリートを対象とした研究、栄養介入の詳細が不明な報告、筋骨格系以外のスポーツ障害(例えば脳震盪)に関する論文、および総説、エディトリアル、レター、書籍など。

3,736報がヒットし、重複削除、スクリーニング、全文精査を経て、5件の無作為化比較試験を含む18報をレビューの対象とした。それらの報告に基づき論文では、エネルギー可用性、タンパク質、クレアチン、ω3脂肪酸、コラーゲン/ゼラチン、β-ヒドロキシβ-メチル酪酸(β-Hydroxy β-Methyl Butyrate;HMB)、ビタミンDを取り上げ、考察を重ねている。以下に要旨を抜粋する。

エネルギー可用性

受傷から固定期間は身体活動が低下するが、エネルギー需要が約20%程度、高くなる可能性がある。複数の研究が、エネルギーが20%少ないと筋タンパク質合成(muscle protein synthesis;MPS)が19%低下するとしている。よって摂取エネルギー量が大幅に減少するとMPSが低下し、筋タンパクの異化が進んでリハビリのプロセスが妨げられる。

一方、過剰なエネルギーも脂肪組織の増加と全身性炎症を引き起こす。

筋肉量の減少とタンパク質摂取量

受傷後の固定化中は1日あたり筋肉量の約0.5~0.6%が失われると推定されている。それに伴い、筋肉の構造的萎縮だけでなく、神経筋変性も起こる可能性がある。

筋肉量の減少に関連しては、正味のタンパク質バランスが筋タンパク質合成(MPS)と異化による崩壊(muscle protein breakdown;MPB)の差により規定され、MPBがMPSよりも大きいと、とくに利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)が併存する場合、筋肉量の減少が誘発される。多くの研究により、受傷後最初の数日間はMPBが一時的に上昇することが示されている。

なお、固定中の筋肉量減少に寄与するもう一つの要因として、同化抵抗性も挙げられる。

クレアチン一水和物

クレアチンの摂取、とくにクレアチン一水和物の形態での摂取による筋量・筋力増大のエビデンスは豊富。クレアチンの摂取は、スポーツ障害後のリハビリプロセスにも有用である可能性が指摘されている。固定などにより極度に活動量の少ない期間が続くと、筋肉量と筋力が低下するだけでなく、筋クレアチン貯蔵量も減少することが示されており、したがってそのような期間に筋肉のクレアチンレベルを維持または増加させることが、メリットをもたらす可能性がある。

ω3脂肪酸

炎症反応は組織回復プロセスの一部であり、薬物などによる炎症反応の過度の抑制は、不適切な生理学的反応を引き起こし、回復の最適なプロセスを妨げる可能性がある。それに対してω3脂肪酸を用いた抗炎症戦略は、短期間であれば有用であるかもしれない。エイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸は、炎症マーカーの抑制、痛みの抑制、および非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の使用を減少させることが示されている。

コラーゲンペプチドといくつかのゼラチン製品

腱損傷はアスリートに頻発する。ゼラチン15g+ビタミンC50mgの組み合わせにより、in vitroでのコラーゲン産生が増加することや、コラーゲンペプチドと特定のゼラチン製品の摂取によりコラーゲン合成が促進され、損傷の予防と組織の修復に有益な影響を及ぼす可能性が示されている。また、変形性関節症患者の軟骨の厚さを増加させるという報告もある。

β-ヒドロキシβ-メチル酪酸(HMB)

HMBは、MPSを増加させMPBを減少させるサプリメントとし流通しているロイシン由来の代謝産物。アスリートの筋損傷に対するこの物質の影響は不明であって、研究報告の利益相反に関する論争も一部にみられる。それにもかかわらずHMBは、レビューの結果として、極端な非活動期間を特徴とするリハビリに役立つ可能性があることが強調されている。とはいえ、クレアチンなどに比べると、負傷したアスリートに対する栄養介入としてのエビデンスは弱い。

ビタミンD

ビタミンDが骨代謝をサポートすることに関しては確立されたエビデンスがあり、既に骨粗鬆症に対する薬剤として長年使用されてきている。近年は、骨代謝の範囲を超えたメリットを有するという知見が数多く報告されている。

スポーツ障害に関しては、軍新兵の血清25-ヒドロキシビタミンD濃度の低下は疲労骨折のリスクの3.6倍の増加と関連しているといった、横断研究のデータが複数あり、さらにビタミンD3補給によって新兵の疲労骨折が20%減少したという介入研究の報告もある。しかし、受傷後の回復を促進するかという点では、さらなるエビデンスが求められる。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutritional Strategies in the Rehabilitation of Musculoskeletal Injuries in Athletes: A Systematic Integrative Review」。〔Nutrients. 2023 Feb 5;15(4):819〕
原文はこちら(MDPI)

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