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β-アラニンは兵士のパフォーマンスや回復力も向上させる これまでの研究レビュー

非必須アミノ酸であるβ-アラニンは、スポーツパフォーマンス向上に関するエビデンスが確立したサプリメントの一つとして、多くのアスリートが利用している。このβ-アラニンが、兵士のパフォーマンスにも有効であることを、過去の研究報告のレビューとしてまとめた論文の要旨を紹介する。イスラエルの研究者によるもの。

β-アラニンは兵士のパフォーマンスや回復力も向上させる これまでの研究レビュー

イントロダクション

兵士には競技アスリートに類似した身体能力が要求される。任務の遂行のために、強力なパワーとスピードという瞬発力が必要で、また重い武器や装具を身に着け困難なルートを長距離移動する必要もある。そのような身体的能力に加えて、認知機能も求められる。多くの場合、肉体的・精神的ストレスや疲労の下で意思決定しなければならない。

β-アラニンが軍事的パフォーマンスに及ぼす影響をまとめた論文が過去に発表されて以降、このトピックに注目が集まり、新たなエビデンスが蓄積されてきた。そこで本論文の著者らは、それらの新しい研究報告も含めて改めてレビューを行い、知見のブラッシュアップを試みた。文献検索にはPubMedやGoogle Scholarなどの検索エンジンを使用し、β-アラニン、兵士、PTSD、極限環境、熱ストレスといった検索キーワードを用いた。

摂取量や期間

β-アラニンの有効性を検討した研究の多くで、摂取量は1.6~12g/日、期間は2週間~6カ月とされている。この摂取プロトコルにより、筋肉のカルノシン含有量がベースラインレベルから23~200%の範囲で増加することが報告されている。初期の研究では6.4g/日という高用量が用いられた場合に、知覚異常のリスクが生じ得ることが報告されていた。その後、徐放性製剤の開発により知覚異常のリスクを抑制しつつ、より高用量を摂取可能となっている

筋肉カルノシンの上昇の程度は報告による差が大きい。これには、ベースラインのカルノシンレベル、食習慣、運動プログラムの種類、サプリメントの用量や摂取期間など、複数の因子が関与しているのだろう。総じて、筋肉カルノシンレベルの増加はβ-アラニン摂取量と相関しているといえる。

兵士のβ-アラニン摂取

兵士の訓練や戦闘関連行動には、長時間のランニングや短距離の疾走、装備や負傷した仲間の運搬、射撃や白兵戦など、多くの身体的課題が含まれる。これらの課題を睡眠不足による認知ストレス下で実行する必要がある場合もある。

高強度の軍事活動中の兵士の戦術パフォーマンスに対するβ-アラニン摂取(6g/日を4週間)のメリットを実証した研究が2報存在する。軍事訓練中のβ-アラニン摂取によって、プラセボに比べて、兵士の下半身パワーと精神運動能力(交戦速度、射撃精度)が維持されることが示されたという。また、負傷者の後送課題や実弾射撃中の数学的計算能力も改善したとのことだ。

軍事訓練に伴う炎症反応に対するβ-アラニン摂取の影響を検討した研究が1件存在している。体重の約50%の重量のバッグを背負い、連日27.8kmを走破し、1日の睡眠時間は約5時間という5日間の訓練を2回実施する際に、高用量(12g/日)のβ-アラニンを1週間投与したところ、抗炎症性サイトカインであるIL-10の有意な上昇が観察されたという。

β-アラニンによる兵士の認知機能への影響

兵士の認知的課題は身体的課題と同等に重要とされる。なぜなら、疲労、精神的ストレス、大きな身体的負担、そして時には銃撃や爆発の状況下で意思決定を行う必要があるためだ。一部の研究からは、非常に高強度の軍事訓練中にβ-アラニンを摂取することで、認知機能の維持・向上効果を得られる可能性が示されている。ただし、それを否定する報告もある。

β-アラニン摂取は兵士の身体機能と認知機能の双方に有益であるようだが、後者についてはストレス負荷が上昇しているときにのみ、有意となる可能性がある。実験動物では、β-アラニン摂取により、脳内のカルノシンレベルも上昇することが観察されているが、ヒトではその知見は得られていない。

心的外傷後ストレス症候群(PTSD)とβ-アラニン

心的外傷後ストレス症候群(post-traumatic stress disorder;PTSD)は兵士や退役軍人の深刻な健康問題だ。現在の治療アプローチは一般に心理的サポートに限定されている。

動物研究では、β-アラニンの投与が脳内カルノシンレベルを上昇させ、海馬における脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor;BDNF)発現の増加などの変化が認めれられている。そして、これらの変化は、実験動物の不安の軽減と関連していた。

この知見に基づいて行われた、PTSDモデルラットに対するβ-アラニンの影響が検討の結果、β-アラニンが与えられたラットは通常の餌が与えられたラットよりも不安レベルが低く、β-アラニンがPTSDに対する回復力を高める可能性が示された。ただし、ヒトでのエビデンスはまだない。

軽度外傷性脳損傷(mTBI)とβ-アラニン

2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件の報復として、2001年10月~2014年12月、米英両国によってアフガニスタンのターリバーン政権に対する「不朽の自由作戦」が展開された。この作戦によって、軽度外傷性脳損傷(mild traumatic brain injury;mTBI)という疾患概念が登場した。mTBIは多くの場合、兵士が低圧の爆風に曝された結果として発生する非貫通性頭部損傷であり、脳内の酸化ストレスと炎症の上昇を特徴とする。

mTBI動物モデルに対するβ-アラニンの効果を検討する研究が行われ、通常の餌を与えられた動物の46%が爆風に曝された後にmTBI症状を示したのに対し、β-アラニンを含む餌が与えられていた動物ではその割合が23.5%であって、統計的有意差が認められた。

β-アラニンと熱ストレス

労作性熱中症は、競技アスリートや兵士に高頻度でみられ、訓練中の新兵の死因の一つとなっている。

熱ストレスに対するβ-アラニンの保護効果が、動物実験から示されている。β-アラニンが投与された動物は、通常の食事を与えた動物と比較して、熱ストレスによる炎症反応が減弱することなどが認められたという。

安全性

β-アラニン摂取に伴う唯一の副作用は、皮膚のしびれなどの感覚異常である。この症状は通常、サプリメント摂取後60~90分以内に消失する。

一般に、徐放性製剤でないサプリメントを800mg/kgを超えて摂取した場合に発現する。徐放性剤の場合は1日12g(3gを4回)を摂取した場合に、プラセボとの有意差がないとされている。

文献情報

原題のタイトルは、「The Effect of β-Alanine Supplementation on Performance, Cognitive Function and Resiliency in Soldiers」。〔Nutrients. 2023 Feb 19;15(4):1039〕
原文はこちら(MDPI)

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