競技中の首や頭部の冷却戦略でパフォーマンスアップ ナラティブレビューで推奨
競技中に首や頭部を冷却することで、競技パフォーマンスを向上させるという戦略についてのナラティブレビュー論文が、昨年報告されている。冷却ベストなどに比べると重量負担が少なく、実用性が高い可能性があるという。
イントロダクション:今後の夏季のイベントに向けた対策として
暑熱環境下では作業効率が低下する。スポーツの場合はパフォーマンスの低下に結びつく。2021年の東京2020や2022年のサッカーワールドカップ、カタール大会でも開催前からさまざまな対策が練られていた。今後も夏季開催の大会のたびに、同様の問題が繰り返されることが予測される。
暑熱環境下での競技への対策の一つとして、例えば全身浸水などの手法により深部体温を下げておく(プレクーリング〈予冷〉)という手法があり、それによるパフォーマンス向上も報告されている。ただしこの手法の問題的は、それなりの設備が必要なこと、全身の予冷に時間がかかること、そして、競技スタート後には予冷効果が徐々に低下していくことが挙げられる。
このプレクーリングに対して、継続的に行う冷却戦略は、パークーニング(per-cooling)と呼ばれる。その手法として冷却ベストがあり、屋外労働者などの熱中症予防対策の一貫として用いられることがある。また、スポーツパフォーマンス向上に資することも、研究室内の検討の結果として報告されている。ただし冷却ベストも、重量が1k以上あることが、長時間の持久系スポーツではパフォーマンスにマイナスの影響をもたらすと考えられ、実用性は限定的。
一方、首や額などの一部分のみの冷却であれば重量面の負荷は少ない。また、首や額などは、熱知覚が他の部位より大きいため、これら局所を冷却することでも比較的大きな効果を期待できる可能性がある。とはいえ、その効果に関するデータはまだ少ない。
以上を背景として本論文の著者らは、スポーツ領域で首や額などの一部を競技中に冷却する戦略に関するナラティブレビューを行った。
文献検索の方法について
PubMed、MEDLINE、Scopusなどの文献データベースに、2021年9月までに収載された論文を対象として、首の冷却、頸動脈の冷却、頭の冷却、顔の冷却、運動、パークーリング、プレクーリングなどのキーワードで検索。
包括条件は、
- 研究対象者が健康また活動的であると説明され、運動パフォーマンスや体温調節を損なう可能性のある既知の疾患がないこと、
- 20°C以上の環境で実施され、頭、顔、首の冷却戦略の効果を生理学的指標または知覚的反応で評価していること、
- 査読システムのあるジャーナル、学会発表として英語で執筆されていること。
消防や農業、建設作業などの職業活動中の冷却方法に関する研究報告は除外した。また、1980年代以前の2件の報告は、全文が公開されておらず著者に連絡がつかなかったため、除外した。
109件がヒットし、このうち64件は関心領域に該当せず、一方、Google Scholarなどを利用したハンドサーチにより5件を追加して、最終的に51件の研究報告をレビューの対象とした。以下にレビューの要旨をまとめる。
首の冷却戦略と運動パフォーマンス
首のパークーニングについては23件の研究報告がみられた。最も多く用いられていた冷却手法は、クーリングカラー、濡れタオル、アイスバッグだった。23件中6件は、首局所の温度を報告していなかったが、その他の研究では局所的な皮膚温が有意に低下し、首の局所的な熱感覚も有意に改善したことが報告されていた。
-80°Cの冷媒を使用したクーリングカラーは、暑熱環境下での持久力とチームスポーツのパフォーマンスの双方を向上させることが報告されていた。ただし、深部体温が評価されていないこと、および枯渇に至るまでの時間は客観性に欠けることのため、慎重な評価が必要とされる。また、運動持続時間が15分未満の場合、首の冷却戦略は有意な効果がない可能性も示されている。さらに、長時間運動でも首冷却戦略の有用性を否定する研究結果も、複数認められた。
頭部の冷却戦略と運動パフォーマンス
頭部のパークーニングについては11件の研究報告がみられた。ただ、本論文の著者らが「驚いたことに」として述べているところによると、それらの研究のうち、頭部局所の温度を測定していた研究は4件のみだったという。とはいえ、それら4件ではすべて、頭部の有意な温度低下が示されていた。
知覚反応が評価されていた研究では、頭部の冷却が暑熱環境下での持久力パフォーマンスを向上させる可能性があることを示唆していた。一方で、チームスポーツアスリートにはこれがあてはまらない可能性も認められた。また、反復スプリントに対する有用性はまだ検討されていない。
冷却のレベルについては、自覚的運動強度(rating of perceived exertion;RPE)を低下させないとする研究は、冷却キャップまたはヘルメットの冷媒の冷却効果が研究結果に影響を与えている可能性がある。より冷却効果の高い手法、例えば5°の冷水を用いた研究では、自覚的運動強度(RPE)の上昇を抑制可能であることを報告していた。
顔の冷却戦略と運動パフォーマンス
顔のパークーニングについては11件の研究報告がみられた。そのうち9件は、額または顔面の温度を評価し、6件は局所の知覚感覚(熱感覚と熱的不快感)を把握していた。それらの研究は、この冷却戦略が熱感覚を有意に改善し、不快感を軽減する可能性が報告していた。スポーツパフォーマンスを向上させる可能性を示した研究は3件存在していた。ただし、長時間の持久力パフォーマンスに対しては、自覚的運動強度(RPE)の上昇抑制のみがこの手法を支持するデータであり、今後の研究が必要とされる。
水泳中の顔面冷却が最大速度を増加させる可能性も報告されていた。ただ、その効果は22°Cでは非有意であり、1.2°Cという冷水の時に有意だという。
頭部、首、顔の冷却戦略の併用と運動パフォーマンス
複数の部位の冷却を併用した場合の効果も、複数の研究で検討されていた。複数の戦略の併用で、主観的な不快感はより大きく低下する可能性がみられるが、それがパフォーマンスをより向上させ得るかという点は不明。また、併用は競技中に行う戦略としては実行可能性が低い点も留意が必要。
実際的な考慮事項
これらのレビューの結果として、論文では以下のような「実際的な考慮事項」がまとめられている。
- 首の冷却は頭部や顔の冷却よりも好まれる。その理由として、持久系スポーツ選手とチームスポーツ選手ともに、運動前から運動中にかけて継続し使用可能であることが挙げられる。
- 頭部の冷却は、プレクーリングとしても使用でき、顔面冷却よりも優先される。
- 首の冷却カラーまたは冷却ヘルメットの冷却設定温度は、個人の好みにあわせて個別化する必要がある。ただし、競技中の深部体温とRPE上昇を抑制するために、十分な冷却が必要であることは、強調されるべき点である。
- 熱ストレス環境が過酷な高温多湿の条件下での競技では、運動後にも首または頭部の冷却を行うことを推奨する。
- 十分な冷却効果を得るために、冷媒はゲル冷媒ではなく相変化のある材料(氷を含む)を検討する必要があることが示唆された。また、ソフトジェル冷媒は、初期には強力な冷却強度を示すが、その冷却力は時間の経過とともに徐々に低下する。
- 冷却ファンなども考慮されるが、パフォーマンス向上という観点からは、実用性についてのさらなる検討が必要。
文献情報
原題のタイトルは、「Head, Face and Neck Cooling as Per-cooling (Cooling During Exercise) Modalities to Improve Exercise Performance in the Heat: A Narrative Review and Practical Applications」。〔Sports Med Open. 2022 Jan 29;8(1):16〕
原文はこちら(Springer Nature)
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