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東京2020オリンピックの暑熱環境において、アスリートのパフォーマンス低下を予測したシミュレーション

東京2020オリンピックが厳しい暑熱環境で実施されることは早くから予測されていた。それに対応して、世界各国のアスリートやスポーツ関連団体が事前に入念な調査を行い、複数の研究論文が発表されている。ジャーナルへの掲載がオリンピック開催後になったものもある。その論文の中から、オランダの研究者らの報告を紹介する。105人のエリートアスリートに、オランダでの条件と東京の環境をシミュレーションした条件でテストした結果、後者においてパフォーマンスが大幅に低下したという。

東京2020オリンピック暑熱環境においてパフォーマンス低下を予測したシミュレーション

「東京2020は恐らく過去にない最も過酷な夏季五輪になるだろう」

2020年夏季オリンピックは、盛夏の真っただ中の東京で開催される(論文投稿時の情報のため未来形で書かれている)。この時期の東京は、高温(30℃を超える)、多湿(相対湿度が70%前後)であり、恐らく、過去の夏季五輪と比較して最も過酷な環境になるだろう。これまでのスポーツ競技会の経験から、暑熱環境が過酷なほどアスリートのパフォーマンスが大幅に低下することは明らかであり、また熱関連の疾病リスクも上昇すると予測される。暑熱馴化および冷却戦略が必須である。

本論文の著者らはこのような認識のもと、オランダのエリートアスリートを対象として、真夏の東京の暑熱環境下でのパフォーマンスや体温への影響をシミュレーションする研究を行った。

夏季の東京を模した環境とオランダの環境で105人がテスト

オランダ国内のすべてのスポーツ団体を介して、エリートレベルのアスリートが募集された。適格条件は、16歳以上で、アウトドアの競技種目に参加し競技成績が国際レベルにあること。除外基準は、体重36.5kg未満、体内に埋め込まれた医療機器の存在、閉塞性または炎症性腸疾患による手術歴または現症など。

持久系27人、スキル系35人、パワー系12人、混合系31人、計105人が研究に参加し、年齢は26±5歳、男性50%、BMI23.4±2.7、体表面積1.95±0.23m2だった。夏季の東京を模した環境(31.6±1.0℃、相対湿度74±5%)と、オランダの標準的な気候である対照条件(15.9±1.2℃、55±6%)で運動テストを実施した。施行順序は、対象条件、東京条件の順であり、両条件の施行は48時間以上あけた。

テストの24時間前からはアルコールの摂取、12時間前からはカフェインの摂取を禁止し、また全参加者はテスト当日の起床後、すべて同じ食事をとり、テスト開始3時間以上前に最後の食事を摂取。2時間前に500mLの水を摂取するように指示された。2条件のテスト施行時刻は一致させた。

自転車エルゴメーターを用いて最大心拍数の70%の強度で20分のウォームアップ後、3分ごとに5%ずつ負荷を増やしていき、各自が疲労困憊に至るまで続けた。この間、温度センサーカプセルによる深部体温、心拍数、スポーツパフォーマンス、熱知覚、皮膚温度を計測し、前後の体重変化から発汗量を把握した。

疲労困憊に至るまでの時間(TTE)は、東京条件で26%低下

では、2条件で比較した結果をみていこう。まずはスポーツパフォーマンスについて。

疲労困憊に至るまでの時間(TTE)は、対照条件(オランダの環境)では60±14分であるのに対して東京条件では44±10分であり、東京のほうが16±8分短かく有意差が存在した(p<0.001)。これはオランダに比較し東京では26±11%、つまり4分の1以上パフォーマンスが低下することを示している。

ほかにも計測した指標のすべてにおいて、以下のように有意差が認められた(すべてp<0.001)。

対象条件、東京条件の順に、ピークパワー230±63 vs 193±54W、推定運動強度3.1±1.0 vs 2.6±0.8W/kg)、安静時心拍数74±12 vs 82±14bpm、最大心拍数179±12 vs 182±11bpm、発汗率0.8±0.3 vs 1.4±0.6L/時、脱水症1.1±0.4 vs 1.3±0.5%。

深部体温、皮膚温も有意差

次に体温の変化について。

安静時の深部体温は、対象条件が37.1±0.4℃、東京条件が 37.1±0.4℃で有意差がなかった(p=0.23)。しかし、そのほかに計測した体温関連の指標のすべてにおいて、以下のように有意差が認められた(すべてp<0.001)。

対象条件、東京条件の順に、運動負荷による深部体温の増加1.5±0.5 vs 1.8±0.6℃、ピーク時の深部体温38.7±0.4 vs 38.9±0.6℃、安静時の皮膚温30.5±0.7 vs 33.6±0.7℃、運動負荷による皮膚温の増加1.8±0.9 vs 3.1±0.9℃、ピーク時の皮膚温32.3±1.1 vs 36.7±0.6℃。

アスリートごとに適切な暑熱馴化、冷却・水分補給戦略の決定が必要

一方、自覚的運動強度(Rate of perceived exertion;RPE)は、安静時が対象条件6(単位はarbitrary unit;au〈任意単位〉.四分位範囲6~10)、東京条件6au(四分位範囲6~0)で条件間の差は有意でなく(p=0.47)、運動負荷中の最大RPEも同順に20au(同14~20)、20au(12~20)であり、やはり有意でなかった(p=0.11)

著者は、「東京条件でTTEが26±11%短いことからも明らかなように、高温多湿の環境に順応していない場合、エリートアスリートでも運動パフォーマンスに深刻な影響があり、適切な暑熱馴化、冷却戦略、計画的な水分補給をアスリートごとに決定するために、入念な調査が必要である」とまとめている。

文献情報

原題のタイトルは、「Exercise Performance and Thermoregulatory Responses of Elite Athletes Exercising in the Heat: Outcomes of the Thermo Tokyo Study」。〔Sports Med. 2021 Aug 15〕
原文はこちら(Springer Nature)

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