第19回国際スポーツ栄養学会(ISSN)の発表演題ダイジェスト
今回は、国際スポーツ栄養学会(International Society of Sports Nutrition;ISSN)の第19回学会(2022年6月開催)抄録集から、いくつかの研究発表をピックアップして紹介する。
ISSNポジションスタンドからみた女子大学バレーボール選手の食事
原題:Diets of Female DII Collegiate Volleyball Players as Viewed Through the Lens of ISSN Position stands
18歳以上のディビジョンII女子大学生バレーボール選手10人を対象に、食事追跡アプリケーションにより3日間の日常の食物摂取量を把握し、その結果を国際スポーツ栄養学会(ISSN)の推奨と比較した。
1日の平均摂取エネルギー量は1,792.5±496kcal、脂質は71.4±18.2g、炭水化物181.5±65.9g(2.62g/kg)、タンパク質70.8±25.1g(1.0g/kg)。ISSN推奨との比較で、脂質以外の摂取量が下回っていた。ISSNによると、アスリートの最低推奨摂取エネルギー量は2,500kcal/日であり、炭水化物とタンパク質はそれぞれ5~12g/kg、1.4~2.0g/kgであって、今回の検討ではタンパク質と炭水化物の摂取量の平均値が推奨値より有意に少なく、かつ解析対象とした女子選手全員の摂取量が推奨レベルを下回っていた。
なお、対象の50%はカフェイン飲料の摂取を報告した。その一方で、ISSNにより、摂取によってバレーボールのパフォーマンスが向上する可能性があるとされているクレアチンについては、摂取を報告した選手がいなかった。
体組成と運動による消費エネルギー量の一貫性が重要 バスケシーズン中の検討
原題:Consistency is Key: Body Composition and Exercise Energy Expenditure Throughout a National Championship Season
バスケットボールは高強度運動が反復されるスポーツであり、既報研究では試合中の大半で最大心拍数の85%を超える状態にあるとされている。このような高い負荷が栄養素摂取量と一致しない場合、体組成にマイナスの影響が生じ得る。この観察研究では、全国選手権の競技シーズンを通して女子大学バスケットボール選手の体組成を評価し、運動による消費エネルギー量(exercise energy expenditure;EEE)との関連が検討された。
対象は、ディビジョンIの女子バスケットボール選手16人(20±1歳)。検討の結果、プレシーズンからポストシーズンにかけて、体重、体脂肪率、除脂肪体重に有意な変化がないことが示された。EEEは、シーズン前1,116±329kcal、シーズン中1,020±405kcal、シーズン後1,058±489kcalだった。この結果に基づき発表者らは、「EEEが高いレベルにありながら安定していること、体組成に変化がないことが重要。シーズン中の適切なコンディショニングと主要栄養素、とくにタンパク質の摂取が、除脂肪量の維持に寄与したのではないか」と述べている。
筋力トレーニングをしていない女性では高タンパク食でも体脂肪は減らない
原題:The Effects of Increasing Dietary Protein Intakes on Body Fat in Non-resistance Trained Females
高タンパク食(1.6g/kg以上)をレジスタンストレーニングと組み合わせると、体脂肪量が減少することが示されているが、本研究ではトレーニングを行っていない女性でも同じ効果を得られるかが検討された。
日常的にトレーニングを行っていない40人の女性を、タンパク質摂取量を高値とする群(23人、19.9±1.1歳)と対照群(17人、19.7±1.2歳)に無作為に割り当てた。前者の高タンパク質は2.2g/kg/日以上のタンパク質を摂取するように指示され、対照群は通常の食生活を維持するように指示された。8週間の介入期間中、両群は同じ監督下でレジスタンストレーニングプログラムに参加。また、参加者は栄養コーチに無制限にアクセスでき、タンパク質摂取条件の遵守に努めた。なお、ベースラインの体重、体組成に有意差はなかった。
介入終了後、体脂肪率は高タンパク質群の低下幅が大きかったが非有意だった(-1.1 vs -0.5%)。発表者らは「ふだん筋力トレーニングを行っていない女性の場合、体脂肪抑制という高タンパク質食の副次的なメリットがあまり生じないのではないか」と結論づけている。
千人以上のプロ総合格闘技選手の公式体重測前の減量幅の統計
原題:Weight Loss in Professional Mixed Martial Artists 24 Hours Prior to Official Weigh-In
体重別階級のある競技アスリートの試合前の急速な減量の実態とその方法については多くの報告があるが、プロの総合格闘家が公式計量前の24時間でどの程度減量しているかという点はほとんど明らかになっていない。そこで、2020~22年にアルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ(UFC)に出場した1,034人のプロ総合格闘技ファイター(30.1±3.9歳、176.8±9.1cm)の公式記録等を用いた解析が行われた。
計量24時間前の平均体重は75.2±15.6kgで、軽量の公式記録は71.7±15.6kgであり、24時間で-4.8±2.6%となり有意差が存在していた(p<0.001)。発表者らは、「このデータに基づくと、プロの総合格闘技アスリートは公式体重測定の24時間で平均5%近く体重を減少しているようだ。プロ格闘家の減量戦略をより詳細に把握するため、さらなる研究が必要とされる」としている。
ディビジョンI女子サッカー選手の睡眠の質と量に対する就寝前の食事の影響
原題:The Effects of Pre-Sleep Feeding on Sleep Quality and Quantity in NCAA Division I Female Soccer Players
アスリートは十分な食事と睡眠による回復が不可欠。これまでの研究によると、就寝前のタンパク質摂取は、脂肪代謝に影響を与えることなく筋タンパク質合成を向上させる可能性が示唆されている。一方で、睡眠前の食事摂取が睡眠の質と量に与える影響はほとんど知られていない。これにより、エリート女性アスリートでこの点が検討された。
ディビジョンIの女子サッカー選手83人を対象に、2020~21年の競技シーズン中に、1日24時間、睡眠の量と質を測定するデバイスを装着してもらい、かつ専用アプリによって食事摂取状況を把握するという研究に参加。食事記録が検討に十分に程度に行われていた14人(20.8±1.4歳、BMI22.7±0.5)を解析対象とした。
就寝前の摂取量は、330±284kcal、タンパク質7.6±7.3g、脂質12±10.5g、炭水化物46.2±40.5g。睡眠時間は422.5±34.9分であり、摂取エネルギーの高値群と低値群とで睡眠時間に差はなく、中途覚醒にも差がなかった。これを基に「ディビジョンIの女性アスリートの場合、就寝前の食事は睡眠の量や質に影響を与えないようだ」とまとめられている。ただし、摂取されていた睡眠前の食事のエネルギー密度が高くなかったことから、この結果を一般化するには追試が必要とのことだ。
多成分サプリは気分と注意力を高める
原題:A Multi-ingredient Supplement Enhances Mood and Attention
研究対象は、トレーニングを行っている14人(男性と女性が各7人)。主な特徴は、年齢19.9±1.4歳、体脂肪率21.0±9.0%、トレーニング歴6.3±3.5年、有酸素運動3.6±3.5時/週、レジスタンストレーニング7.4±4.9時/週、その他の運動1.8±2.8時/週、カフェイン摂取量207±112g/日。試験デザインは、無作為化プラセボ対照二重盲検クロスオーバー法。多成分のプレワークアウトサプリメント(multi-ingredient pre-workout supplement;MIPS)またはプラセボのいずれかを、無作為化されバランスのとれた順序で摂取し、45分後に注意力や気分状態などが測定された。
精神運動覚醒(psychomotor vigilance;PVT)での反応時間は、MIPS条件286±28ミリ秒、プラセボ条件306±46ミリ秒(p=0.0371)、気分状態(profile of mood states;POMS)のスコアは活力が同順に15.2±14.9、9.7±9.6(p=0.0403)、疲労は1.0±1.1、3.3±3.4(p=0.0100)であり、いずれもMIPS条件のほうが有意に優れていた。その他の評価項目である、垂直跳び、心拍数、血圧には有意差がなかった。
ふだんカフェインを摂取している人でのサーモジェニックサプリの影響
原題:Influence of a Commercially Available Thermogenic Dietary Supplement on Basal Metabolic Rate, Hemodynamics, and Mood Responses in Caffeine-habituated Young Females.
Effects of a Thermogenic Supplement on Metabolic, Hemodynamics, and Subjective Mood State Outcomes in Caffeine-habituated Young Males
サーモジェニックサプリメント(熱産生を亢進させるとされるサプリ)は、体脂肪の利用を促進し減量につながる可能性があるため、人気となっている。ただし、安全性と有効性の研究が十分検討されずに使用が拡大しつつある。これらサプリの安全性を、男性および女性を対象に検討した2報が、同一研究グループから報告されている。まとめて紹介する。
男性対象研究
ふだんのカフェイン摂取量が中程度(150mg/日未満)の24人の男性(23.7±5.7歳、179.3±7.3cm、92.4±12.3kg)を対象とする無作為化プラセボ対照クロスオーバー試験。計300mgのカフェインと3gのアセチルL-カルニチンを含む2サービングのサプリとプラセボ条件とで、血行動態、代謝指標、気分状態が比較された。
サプリ条件では、安静時エネルギー消費量(resting energy expenditure;REE)が増大し、プラセボ条件に比較し30~120分後に11.5~13.6%の有意差が認められた。血行動態に関しては、心拍数に対する時間効果を除き、血圧変動などに有意な変化や有意な条件間の差はみられなかった。ビジュアルアナログスケール(visual analog scale;VAS)による評価では、サプリ摂取30分後に主観的なエネルギーレベルが有意に増大していた。注意力、集中力、疲労、空腹感、満腹感には有意差はなかった。
結論として、男性ではサーモジェニックサプリ摂取後少なくとも2時間は代謝が亢進すること、血行動態に負の影響は生じないこと、有害事象のリスクは増大しないことが確認された。
女性対象研究
対象は22人の女性(20.8±2.1歳、165.6±7.3cm、75.2±8.3kg)。試験デザインはプラセボ対照二重盲検クロスオーバー法であり、評価項目も上記の男性対象研究と同じ。
REEは摂取後30~120分にかけて、サプリ条件のほうが11~12.1%高値だった。血行動態に関しては、心拍数はサプリ条件のほうが有意に高値となり、拡張期血圧もサプリ条件の方が摂取30分時点でサプリ条件が有意に高値だった。収縮期血圧は有意差がなかった。なお、拡張期血圧も含め、すべて基準値内だった。VASによる評価では、サプリ条件で注意力、集中力が有意に向上し、その他の気分状態は有意差がなかった。
結論として、女性ではサーモジェニックサプリ摂取後少なくとも2時間は代謝が亢進すること、拡張期血圧が基準値内の変動ながらやや上昇することなどが明らかになった。
文献情報
原題のタイトルは、「Proceedings of the Nineteenth International Society of Sports Nutrition (ISSN) Conference and Expo」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2023 Apr;20(sup1):2187955〕
原文はこちら(Informa UK)