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暑熱環境で長時間にわたる運動時の水分補給戦略 アイソトニック飲料は水よりも有効か?

暑熱環境下での長時間の運動時に、用いる水分摂取戦略によって身体的負担が異なるのかどうかを、男性アスリート対象に検討した研究結果を紹介する。水やアイソトニック飲料を摂取する条件では、客観的な評価での身体的負担が抑制されること、および、主観的な熱的不快感は水よりもアイソトニック飲料のほうが、より抑制されることなどが報告されている。

快適な気温であっても水分が不足するとパフォーマンスは低下する

脱水では、どのくらいパフォーマンスが低下する?

暑熱環境では脱水状態になりやすく、脱水状態は熱中症のリスクを高める。ただしアスリートの場合、影響は脱水症リスクだけでなく、スポーツパフォーマンスの低下を来す。発汗により体重が2%減少する程度の脱水で、有酸素能力は10~20%低下するとする報告もある。運動中の最適な水分補給戦略は、環境(気温や湿度、風速など)、運動負荷レベル、個人の特性(年齢、性別、ベースラインのパフォーマンスレベルなど)によって異なると考えられる。

今回紹介する研究では、若年の男性アスリートを対象に、水分補給なし、水を補給する、アイソトニック(体液の浸透圧と等しい等張液)飲料を補給するという3条件で、身体的負荷に関連するさまざまな指標に、どのような違いが現れるかが検討されている。

12人の若年男性を6群に分けてクロスオーバー法で3条件を比較

この研究は、研究参加者全員に前記の3条件を試行するクロスオーバーデザインで行われた。12人の若年男性を無作為に2人ずつの6群に分け、6通りの試行順序で試験を行った。研究参加者の主な特徴は、年齢20.7±1.0歳、BMI23.7±2.1で、VO2は49.7±6.7mL/kg/分、最大心拍数は187.8±6.7拍/分。

各条件の試行の間には1週間のウォッシュアウト期間を設け、健康診断やトレーニング負荷を個別化するための運動負荷テストなどの事前調査も含め、研究期間は9週間に及び、その間、サプリメントの摂取は禁止した。

設定された3条件と評価項目について

脱水への影響を検討するテストは、室温31±2℃、相対湿度60±3%、風速1m/秒のチャンバー内で、自転車エルゴメーターにより中強度で一定の負荷をかけ、持続時間は120分とした。水(water)を補給する「W条件」と、アイソトニック飲料(isotonic drink)を補給する「I条件」では、運動負荷中、13~15℃の水分として15~20分おきに150~300mL(予測される体重減少幅に対して120~150%)を摂取。水分補給なし(no hydration)の「NH条件」では、水分を一切補給しなかった。

研究参加者は120分の運動負荷後も90分間、チャンバー内にとどまった(負荷開始から210分後まで)。

評価項目は、客観的指標として、心拍数と直腸温、およびそれらに基づいて計算される身体的負担指数(physical strain index;PSI)が把握された。このほかに主観的な指標として、ボルグスケールの評価と熱的不快感の評価を運動負荷中、5分ごとに行った。

水分補給は体温調節プロセスを改善し、アイソトニック飲料は熱的不快感も改善

客観的指標への影響

運動負荷前の心拍数は78.6拍/分であり、水分摂取条件や試行順序による有意差はなかった。しかし、運動負荷中の心拍数は、水分摂取する2条件(W条件、I条件)と、水分を摂取しないNH条件との間に有意差が観察され(p<0.036)、NH条件では高値で推移していた。例えば115分時点の心拍数の上昇幅は、W条件が63.0±5.9拍/分、I条件が69.8±5.9拍/分であるのに対して、NH条件は74.9±5.9拍/分だった。

直腸温については運動負荷前の時点で条件間に有意差が認められ、運動負荷中も有意差が存在した。結果として身体的負担指数(PSI)にも条件間で有意差が認められ、NH条件は他の2条件より高値だった(p<0.001)。具体的には、W条件が5.59±0.40、I条件が5.71±0.41であるのに対して、NH条件は7.30±0.41だった(PSIが高値であることは高い負荷が生じていることを意味する)。

主観的指標への影響

ボルグスケールは3条件ともに運動負荷中、時間の経過とともに上昇した。条件間の有意差は観察されなかった。

一方、熱的不快感は運動負荷前には条件間の有意差はなかった。しかし、運動負荷開始40分と80分の時点で条件間の有意差が認められ、さらにこの点については、水分を摂取する2条件間の差が観察された。具体的には、40分時点ではW条件が6.19±0.14であるのに対して、I条件では5.72±0.14と低値であり、80分時点でも同順に6.17±0.16、5.75±0.16と、I条件のほうが低値だった。なお、NH条件は5.89±0.14、6.19±0.16だった。

著者らは、若年男性対象に行われた本研究の結論を以下の2点にまとめている。

  1. 暑熱環境での長時間運動中に、アイソトニック飲料または水による水分補給を行うと、水分補給をしない場合と比較して、体温調節プロセスが有意に改善される。
  2. 運動負荷の主観的な認識は、水分補給戦略による有意な違いはなかった。ただし、アイソトニック飲料の摂取により、熱的不快感が軽減された。

文献情報

原題のタイトルは、「Effect of Various Hydration Strategies on Work Intensity and Selected Physiological Indices in Young Male Athletes during Prolonged Physical Exercise at High Ambient Temperatures」。〔J Clin Med. 2024 Feb 8;13(4):982〕
原文はこちら(MDPI)

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