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盛夏を過ぎた頃の熱中症リスクに「暑さへの馴化」の評価を加えると精度が向上する 国立環境研究所

国立環境研究所気候変動適応センターの研究チームは、「経験相対気温」と呼ばれる気候指標を用いて、暑さへの「なれ(馴化)」を考慮することにより、熱中症リスクの予測精度が向上することを明らかにした。論文が「Environmental Research」に掲載されるとともに、同研究所のサイトにリリースが掲載された。「経験相対気温」は、日平均気温から容易に算出できる気候指標であり、地域における熱中症リスク評価での活用が期待される。

盛夏を過ぎた頃の熱中症リスクに「暑さへの馴化」の評価を加えると精度が向上する 国立環境研究所

研究の背景と目的:暑熱馴化を考慮に入れたリスク指標が必要

我が国では毎年数万人を超える熱中症による救急搬送が生じており、また熱中症による死亡件数も1,000件を超えるなど、熱中症による健康被害が深刻となっている。熱中症による健康被害を軽減するためには、その発生リスクを事前に把握したうえで、適切な熱中症対策に取り組むことが必要。

熱中症リスクと暑さを示す気候指標(気温や暑さ指数〈WBGT〉)の間には相関があることが知られている。とくにWBGTは、危険度の高い熱中症リスクを事前に周知する取り組みである熱中症(特別)警戒アラートの発表基準となるなど、その有効性が確認されている。このように気温やWBGTは、日々の熱中症リスクを把握する際に有効な気候指標となる。

その一方で、同じ気温値やWBGT値であっても、暑熱馴化の効果等によって、晩夏における熱中症発生率は、梅雨明けや初夏における熱中症発生率よりも低くなることが知られている。このため、熱中症リスクをより精度良く予測するためには、暑熱馴化を考慮するとともに、その有効性を定量的に評価することが望まれる。

研究手法:都道府県別に、暑熱馴化を考慮することの有効性を定量的に評価

本研究では、47都道府県別に、暑熱馴化を考慮することの有効性を定量的に評価した。評価は、熱中症救急搬送の傷病程度別※1および発生場所別※2に、以下の2ステップにより実施した。

※1 傷病程度別:本研究では総務省消防庁が提供する熱中症救急搬送数データを利用。当該データに基づくと、傷病程度は死亡、重症、中等症、軽症およびその他の五つに分類される。本研究ではその他は評価対象外とした。
※2 発生場所別:住居、仕事場(1)(道路工事現場、工場、作業所等)、仕事場(2)(田畑、森林、海、川等)、教育機関(幼稚園、保育園、小学校、中学校、高等学校、専門学校、大学等)、公衆(屋内)、公衆(屋外)、道路およびその他の八つに分類される。本研究ではその他は評価対象外とした。

ステップ1として、暑熱馴化を考慮するための経験相対気温※3に加え、気温やWBGT等の気候指標、およびこれらの遅延効果※4や積算効果※5も対象に、どの気候指標が熱中症リスクに対して重要度が高いかを、機械学習の一種である「ランダムフォレスト」を用いて評価した。この評価結果に基づき、一つ以上の都道府県で最も重要度が高いと評価された気候指標を抽出した。

※3 経験相対気温:Oka and Hijioka (2021)(DOI 10.1088/2515-7620/ac3d21)において開発された気候指標。5月1日から熱中症発生リスクを評価したい日までの日平均気温の平均(1)と熱中症発生リスクを評価したい日の日平均気温(2)を用いて得られる気候指標であり、具体的には〔(2)/(1)〕に2を乗じることにより計算される。初夏において経験相対気温は(2)よりも概ね大きな値を示し、季節が進むにつれて(2)の値に近づくことにより、暑熱馴化が進むことを表現する。本研究では経験相対気温に加え、同様の定義で経験相対WBGTも採用した。
※4 遅延効果:熱中症がその日ではなく翌日以降に遅れて発生する状況のこと。日最高・日最低・日平均気温、日降水量、日射量、日平均風速、日平均相対湿度、日最高・日平均WBGTを対象に、これらの気候指標の遅延効果を評価するために熱中症発生日の各前日から3日前までの値を採用した。
※5 積算効果:日平均気温、日平均WBGTについてはこれらの積算効果を評価するために各1日~3日前から当日までの平均値も採用した。

ステップ2として、ステップ1で抽出された各気候指標を熱中症予測モデルの説明変数として用いることにより、熱中症リスクの予測精度を評価した。この評価結果により、各気候指標がいくつの都道府県で最も高い予測精度を示したかをカウントした。

研究結果:経験相対気温で暑熱馴化を評価することの意義が示される

ステップ2の評価の結果を図1および図2に示す。

図1では傷病程度別の結果を示し、傷病程度1は死亡、重症および中等症(全熱中症救急搬送数の約35%を占める)を、傷病程度2は軽症(同約64%を占める)を示す。全数は全熱中症救急搬送数を示す。ステップ2の評価の結果、傷病程度1では39の都道府県で、傷病程度2では37の都道府県で、全数では37の都道府県で、経験相対気温が最も多くカウントされ、いずれの傷病程度においても、暑熱馴化を考慮することの有効性が確認された。

図1 各気候指標がいくつの都道府県で最も高い予測精度を示したか(傷病程度別)

各気候指標がいくつの都道府県で最も高い予測精度を示したか(傷病程度別)

(出典:国立環境研究所)

次に、図2では発生場所別の結果を示し、ステップ2の評価の結果、住居(全熱中症救急搬送数の約40%を占める)では36の都道府県で、道路(同約17%を占める)では31の都道府県で経験相対気温が最も多くカウントされ、その他の発生場所に関しても、経験相対気温が最も多くカウントされた。このことから、発生場所別についても暑熱馴化を考慮することの有効性が確認された。

図2 各気候指標がいくつの都道府県で最も高い予測精度を示したか(発生場所別)

各気候指標がいくつの都道府県で最も高い予測精度を示したか(発生場所別)

(出典:国立環境研究所)

今後の展望:熱中症リスク予測精度がより高い「暑さ指数」に向けて

経験相対気温は、日平均気温から容易に算出できる気候指標。経験相対気温を活用することにより、地域における熱中症リスク評価の精度向上が期待される。また、熱中症(特別)警戒アラートで活用されているWBGTに加え、暑熱馴化を考慮する観点から、経験相対気温の補完的な活用方法の検討も期待される。

関連情報

暑さへの「なれ」を考慮することにより熱中症リスクの予測精度が向上する(国立環境研究所)

文献情報

原題のタイトルは、「Random forest analysis of the relative importance of meteorological indicators for heatstroke cases in Japan based on the degree of severity and place of occurrence」。〔Environ Res. 2024 Sep 26;263(Pt 2):12006〕
原文はこちら(Elsevier)

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