重要性を増すアスリートの暑熱対策 チームスタッフ、イベント主催者はアスリート優先の対策を
パリ五輪では選手の宿泊施設にエアコンがないことなどを批判する声がある。そのような環境では、パフォーマンスに支障が生じると主張する選手の存在も報道されている。折しも五輪開会直前の7月26日、「From Tokyo through Paris to Los Angeles and beyond – Preparing athletes to face the heat of a warming world」というタイトルの論文が「Journal of Science and Medicine in Sport」に掲載された。東京からパリ、ロサンゼルス、そしてその先に備えて、アスリートは直面する温暖化という世界の変化に、どのように対応する必要があるのだろうか。要旨を紹介する。

東京より暑くなることもあり得るパリでは、持続可能性のため冷房設備を除外
2020年東京オリンピック(実際は2021年)は、史上最も暑いオリンピックとなった。しかし、2024年の夏季オリンピックは、さらに暑くなる可能性がある。2023年には熱波が欧州全土に広がり、大陸全体で記録的な高温となり、フランスの最高気温は42.4度、パリでは35.4度に達し、史上最も暑い年となった。2024年の各月の気温は、すでに前年を上回っている。
興味深いことに、パリ五輪の会場と施設にはエアコンが設置されていない。これは、パリ2024を近代史上、最もサステナブルな(持続可能性の高い)オリンピックにするという組織委員会の目標によるもの。しかし、これはアスリートのパフォーマンスに悪影響を与え、また熱中症のリスクを高める可能性がある。
ロサンゼルス2028オリンピック・パラリンピックは、7月14日~9月3日に開催される。近年、ロサンゼルスでは酷暑が発生している。とくに内陸部の会場で行われる競技では、アスリートは高温に遭遇する可能性が高い。
ところで、東京五輪では事前の暑熱対策がかなり注目され、その必要性を訴える論説も大量に報告されていた。一方、パリではそのような論説や報道が大幅に減少した。これは非常に憂慮すべきことであり、今後の大会の課題として焦点にしていく必要がある。
五輪以外にも、2025年に東京、2027年には北京で世界陸上競技選手権が開催され、2026年には、メキシコや米国を含む3カ国でサッカーワールドカップが開催されるなど、暑熱環境での大規模スポーツイベントが予定されている。アスリートの健康を守り、パフォーマンスの低下を緩和するために、主催者やアスリート、サポートスタッフは、暑熱緩和戦略を常に念頭に置く必要がある。
暑熱対策のゴールドスタンダードの確立と、金メダルへの道筋
論文ではこのあと、熱中症対策(Heat mitigation strategies)としての暑熱馴化、水分補給、冷却戦略についての総説に続いて、「Preparing for gold」という章が立てられている。その内容は、暑熱対策のゴールドスタンダードの確立と金メダルに向けた戦略と言え、この章についても一部を紹介する。
現時点のエビデンスは、アスリートがトレーニングや競技計画に暑熱馴化、水分補給、冷却戦略を組み込むべきであることを示唆しており、アスリートやコーチが高温多湿の環境での競技(例えばロサンゼルスオリンピック)に備えて、これらの戦略を十分考慮することが推奨される。
暑熱馴化は10~14日間のレジメンが推奨されているが、周期的に行う必要がある。セッション中に全身温度(体幹温度38.5度、皮膚温度35度)を上昇させ、強い発汗反応を誘発することに重点が置かれる。エビデンスに基づけば、脱水状態とすることが暑熱馴化の適応反応を高めることは否定的であり、むしろ脱水によりトレーニング強度が低下する可能性がある。よって暑熱馴化中に脱水傾向とすることは現時点では推奨されない。発汗量の個人差は大きいため、水分摂取は個別的なアプローチが必要である。
冷却については、パフォーマンスや回復を最適化するために、アイスベスト・冷却したタオルの使用、冷水浸漬などをトレーニング前およびトレーニング後に使用することを検討する必要がある。さらに、ハーフタイムや短時間の休憩の機会も活用する。高温多湿の環境では体の水分の蒸発力が低下するため、体に水をかけても冷却効果が低くなる。このような状況では、冷水の摂取など体内冷却戦略を優先する必要がある。
イベントの開催時期の再考、医療チームのトレーニングなども課題
今後のスポーツイベントは、地球規模の気候変動によって、ますます厳しい環境条件下で開催される可能性が高い。アスリートにとって、こうした暑熱緩和戦略は、ますます重要性を増すだろう。イベント主催者にも、その対策の視点が強く求められる。
例えば、主催者は環境条件を正確にモニタリングする必要があるだろう。単に湿球黒球温度をモニターするのみでは不十分な可能性もある。競技ごとの国際組織と協議の上、競技特異的な暑熱対策を講じるべきだろう。具体的には、プレー時間と休息に充てられる時間の比率の検討(ハーフタイムやサイドチェンジ時の休憩を延長または追加するなど)、競技時間帯の再考、さらにはイベントの開催時期も変更すべきであろう。
また、フィールドやコース、リカバリーエリアに、日陰や涼しい場所(扇風機、冷たい飲み物、空調設備など)を設置することで、イベント会場の環境を最適化することにも重視すべきだろう。最後に、医療チームは、とくに熱中症治療に関するトレーニングを受けるべきである。
文献情報
原題のタイトルは、「From Tokyo through Paris to Los Angeles and beyond – Preparing athletes to face the heat of a warming world」。〔J Sci Med Sport. 2024 Jul 25:S1440-2440(24)00256-1〕
原文はこちら(Elsevier)
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