なぜ運動療法を省略してGLP-1RAを減量目的で使用してはいけないのか? 推奨される食事療法は?
GLP-1受容体作動薬を用いた肥満治療の際に、運動療法を省略してはいけない理由を述べた論文が発表された。また、同薬による減量時に実施すべき食事療法についても、別の論文が発表されている。両論文の要旨を紹介する。
GLP-1RAの減量効果
まず、GLP-1受容体作動薬(glucagon-like peptide-1 receptor agonist;GLP-1RA)について簡単に触れると、同薬は消化管ホルモンであるインクレチンのうちのGLP-1(glucagon-like peptide 1〈グルカゴン様ペプチド-1〉)のアナログ製剤であり、当初は2型糖尿病の治療薬として発売された。その後、同薬による減量効果が注目され、肥満に伴う健康障害が認められる場合に減量目的での使用が認可され、国内でも使用されている。
同薬の使用によって、体重が15~20%も低下することがあると報告されており、“ミラクルドラッグ”とも呼ばれている。減量目的での使用拡大により、供給が追い付かず、一時的には2型糖尿病の血糖管理目的での処方に不安が生じる事態にもなった。
GLP-1RAを巡っては、肥満による顕著な健康障害がなく本来の適応ではない対象への処方が行われていること、効果の個人差が大きいこと、消化器症状の副作用が高頻度に生じること、投与を中止すると体重が基に戻ることなどのほかに、薬剤を用いるだけで減量が可能なために、減量の基本であるべき食事療法や運動療法がないがしろにされやすいという問題点が指摘されている。今回紹介する2報の論文は、このような背景のもとで執筆されている。
運動療法をせずにGLP-1RAによる減量をしてはいけない理由
一つ目の論文はドイツの研究者らによるもので、「Frontiers in Endocrinology」にオピニオンとして掲載された。
減量とともに筋肉量が減少
GLP-1RAによる減量は主として体脂肪量の減少によるものだが、除脂肪量の減少も伴い、体重減少の最大40%は除脂肪体重減少によるものと報告されている。除脂肪体重の多くは筋肉であり、筋肉量の維持は健康の維持にとって極めて重要であって、筋肉量の減少は心血管代謝疾患やフレイルリスクを上昇させる。
また、筋肉組織由来のサイトカインであるミオカインは、他の臓器とのクロストークを介して健康上の重要なプラス作用を発揮する。したがって、GLP-1RAを用いた減量の最中は、筋肉量の維持のために運動が必要である。
治療中止後にリバウンド
GLP-1RAによる治療プログラムの中止後に、ほぼすべての患者が体重の増加を来す。例えば、セマグルチドによる治療では、介入中に低下した体重の3分の2がリバウンドすると報告されている。このことから、GLP-1RAの長期的な安全性と有効性に関する疑問が解決されていないにもかかわらず、減量状態の維持のために、一生薬に頼らなければならない。
複数の研究では、スポーツや運動は体重の維持に貢献するか、少なくとも減量後の体重のリバウンドを抑制することが示されている。ただし、一部の人では運動が代償的摂食につながる可能性があり、適切な栄養アドバイスが欠かせない。
不良な健康状態であるとの自己認識
薬剤の使用は一般的に健康状態の不良と認識され、自己の健康状態を否定的に評価することは、慢性疾患、死亡率と密接に関連していることが報告されている。GLP-1RAの使用に関しても、一般的な健康認識が大幅に低下することが知られている。ただし、GLP-1RAの処方とともに運動療法を追加した場合は、健康認識に大きな変化はなかったという。
よって運動は、薬剤使用中に健康に対する自己評価が低下することを防ぐ効果があると言える。
安静時心拍数の増加
GLP-1RAによって、安静時心拍数が増加することが報告されている。安静時心拍数は死亡リスクの有意なリスクマーカーである。
しかし、GLP-1RAの処方と当時に運動処方を併用した場合に、安静時心拍数は有意な変化がなかったとする報告があり、運動がGLP-1RAの負の影響を打ち消す可能性が示唆される。
減量を介さない健康増進
改めて述べるまでもなく、運動の効果は体重管理に限定されない。GLP-1RAにより減量が達成された場合、その健康への影響は減量効果にとどまるが、運動を併用することで、運動がもつ幅広い効果も獲得可能となる。
GLP-1RAによる減量中の食事療法
二つ目の論文は、米国の研究者らがGLP-1RAを中心とする抗肥満薬を使用する際の栄養上の推奨事項をまとめたレビュー論文で、「Obesity」に掲載された。新規抗肥満薬による治療中の食事療法に関するエビデンスはまだないが、減量・代謝改善手術後の患者や超低カロリー食による減量中の患者の食事療法に関しては一定のエビデンスがあり、それらを援用して推奨事項が総括されている。以下はその要旨の抜粋。
水分
2~3L/日以上。水、低カロリー飲料(例:お茶、コーヒー)、栄養豊富な飲み物(低脂肪牛乳、豆乳など)として摂取し、加糖飲料を制限する、アルコールとカフェインを制限する。脱水時の症状は、低血圧、頻脈、めまい。高齢者は脱水のリスクが高い可能性がある。また、極端な低炭水化物・ケトン食は、脱水のリスクを高める可能性がある。
エネルギー
個人に合わせて設定する。大半の女性は1,200~1,500kcal/日、大半の男性は1,500~1,800kcal/日。野菜、果物、全粒穀物、赤身のタンパク質食品、低脂肪乳製品または乳製品代替品、健康的な脂肪を重視した健康的な食事パターン。
食物繊維
全粒穀物、野菜、豆、果物、ナッツ類と種子類を摂取。食物繊維の摂取が不十分な場合は、食物繊維サプリメントの摂取が推奨される場合がある。
タンパク質
摂取エネルギー量の10~35%。一般的には60~75g/日以上、体重1kgあたり1.5g/日以下が望ましい。1.5g/日以上のタンパク質摂取は、個別に考慮される。代替食品(通常、1食あたり15~25gのタンパク質を含む)は、自然食品からの摂取が不十分な場合に推奨されることがある。
炭水化物
摂取エネルギー量の45~65%。添加糖を摂取エネルギーの10%未満に制限する。極端に炭水化物が少ない(ケトン食)食事は、脱水、疲労、口臭、その他の有害事象のリスクを高める可能性がある。炭水化物の摂取が非常に少ないと、微量栄養素や食物繊維の重要な供給源である果物、野菜、全粒穀物食品の摂取が満たされない可能性がある。
脂質
摂取エネルギー量の20~35%。飽和脂肪を摂取エネルギー量の10%未満に制限する。高脂肪食の摂取は、GLP-1RA使用に伴う胃の不調を起こしやすくする可能性がある。
文献情報
一つ目の原題のタイトルは、「Why you should not skip tailored exercise interventions when using incretin mimetics for weight loss」。〔Front Endocrinol (Lausanne). 2024 Jul 23:15:1449653〕
原文はこちら(Frontiers Media)
二つ目の原題のタイトルは、「Nutritional considerations with antiobesity medications」。〔Obesity (Silver Spring). 2024 Jun 10. doi: 10.1002/oby.24067〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)