英国の競泳トップアスリートは「スポーツ栄養」で新型コロナのパンデミックを乗り越えた
スポーツ栄養のサポートを受けた英国の若年トップスイマーは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック中のトレーニング量の急変に応じて摂取量を加減し、パンデミックが落ち着くとともに再び摂取量を戻すという調整を行っていたことが報告された。ただし、パンデミックが長期化するにつれて、食事の質のコントロールが低下した選手も一部存在したという。
東京2020への選考会参加レベルの若年スイマーでの検討
COVID-19パンデミック中にアスリートのトレーニング量が減少し、栄養管理の質が乱れたことは、複数の報告から示されている。とくに、ロックダウンなどの強力なパンデミック対策が実施された国や都市では、その影響がより大きかった可能性がある。もちろん、パンデミックはまだ継続中であり、アスリートへの影響も続いているが、COVID-19の治療法が確立されておらずワクチンもなかった2年前に比べれば、現在は格段の落ち着きを取り戻していると言える。
今回紹介する論文は、厳格なロックダウンが行われた英国からの報告。高度なトレーニングを受けている若年競泳アスリートを対象に、パンデミック前(2020年1月)、ロックダウン中(2020年4月)、およびロックダウンが一時的に解除された時期(2020年9月)という3時点での栄養素摂取状況の変化を調査したもの。
研究参加選手の特徴
この研究の適格条件は、年齢が13~19歳で英国における全国レベル以上の記録をもつエリートスイマーであることで、26人が参加した。後述する栄養素摂取状況把握のための食事記録が不十分な者などを除外し、13人(男子5人、女子8人)を解析対象とした。
年齢は15±1歳、体重58.4±8.5kg、身長1.66±0.09m、競技歴5.6±1.6年。研究参加時点で13人中7人は英国内の年齢別トップ10にランクされており、6人は東京2020の選考に参加した。
栄養素摂取状況の把握
研究に参加したアスリートは、前記3フェーズ中のトレーニング日2日間と休養日1日を含む計72時間にわたって、摂取するすべての飲食物の写真を、摂取前と摂取終了後に撮影し、研究者に送信した。撮影の際には、1×1cmのグリッド定規を写真内に収めるように指示した。
そのほか、摂取した製品のブランド、食材の調理方法などをテキストベースまたは音声ベースで提供するように求めた。それでも情報が正確な摂取栄養素量の解析に不十分な場合は、その都度、研究者が参加者に確認を行った。
栄養サポートの概略
2020年1月に行った最初の食事記録調査のデータを基に、各アスリート個別に対面によるフィードバック(介入)を行い、また、教室ベースのグループ教育セッションのトピックとして利用した。グループ教育は毎週30分、さまざまなトピックを取り上げて実施した。
ロックダウンの開始とともに即座に栄養リソース(PDFファイル)を作成し、アスリート本人と保護者に配信。それには、自宅でのトレーニング、筋肉の保持、摂取エネルギー量の自律的な削減、免疫力の向上を中心としたトピックなどが含まれていた。
また、研究者から電話またはビデオ通話(WhatsApp)により、食事摂取状況をモニタリングした。そのほか、オンライン会議プラットフォーム(Zoom)を用いて週に2回、グループ教育(料理教室、栄養クイズ)を行った。
ロックダウンが一時解除され、アスリートが通常のトレーニングを再開したため、すべてのオンライングループ活動は7月に終了した。
3つのフェーズすべてで推奨される摂取量を満たしていた
トレーニング量の変化と体重の変化
パンデミックにより、トレーニング量は大幅に減少していた。具体的には、パンデミック前が43.3±11.7km/週、ロックダウン中が4.1±5.8km/週であり、91%減(p<0.001)だった。また、ロックダウン解除後も社会的な制限が継続していたためトレーニング量が完全に回復することはなく、33.5±7.0km/週だった(vs ロックダウン前p<0.001)。
トレーニング時間についても同様で、ロックダウン中には70%、時間が短縮していた(同順に19.1±2.2、5.7±2.5、15.0±1.4時間/週.後二者は前者に対して<0.001)。
体重は、ロックダウ前が58.4±8.5kg、ロックダウン中が59.0±8.6kgで有意な変化がなかった(p=0.254)。ロックダウン解除後は62.7±9.4kgとなり、前二者に対して有意に増加していた(p<0.001)。ただし、同期間に身長も有意に伸びていた(1.66±0.09 vs 1.69±0.08m、p=0.002)。
エネルギーと主要栄養素の摂取量
摂取エネルギー量と主要栄養素の摂取量は、すべて以下のように同様の変化をたどっていた。即ち、ロックダウン中はロックダウン前よりも有意に低下し、ロックダウン後にはロックダウン前の値と有意差がないレベルに回復していた。
例えば摂取エネルギー量は、時系列順に45.3±9.8、31.1±7.7、44.0±12.1kcal/kg/日であり、ロックダウン中はロックダウ前に比べて3割以上も摂取量を自律的に抑制していたことがわかる。
これに連動して、食物繊維や微量栄養素の摂取量も、ほぼ同様に変化していた。ただしこの点については、「摂取エネルギー量の減少に伴い、微量栄養素の摂取推奨量を満たさなくなるリスクにもつながるため、注意を要した」と著者らは記している。
グループ全体での評価では理想的だが、個々にみると逸脱も大きい
以上をもとに著者らは結論において、「スポーツ栄養士のサポートを受けて、高度なトレーニングを行っている英国を拠点とする思春期のスイマーは、COVID-19パンデミック時に栄養摂取量を柔軟に減らし、トレーニングに復帰するとともに再び増加させていた。これによりグループレベルでは、主要栄養素の摂取量は、すべての時点で推奨量を満たしていた。ただし、アスリート個々のレベルでは、推奨量からの逸脱も発生している可能性がある。とくにロックダウンが5週間を超えると、一部のアスリートの食事管理へのモチベーションが低下したと考えられる」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Nutritional intakes of highly trained adolescent swimmers before, during, and after a national lockdown in the COVID-19 pandemic」。〔PLoS One. 2022 Apr 5;17(4):e0266238〕
原文はこちら(PLOS)