eスポーツのトレーニングは健康のための身体活動とは違うことを科学的に検証
eスポーツのトレーニングは、健康のための身体活動の代替とはならないことを示唆するデータが報告された。当たり前と言ってしまえばそれまでだが、それを科学的に検証した研究として紹介する。著者らは、研究対象が異なれば、異なる結果が得られる可能性もあると述べている。
eスポーツはからだに良い?悪い?
eスポーツの人気が急上昇している。新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる外出自粛がそれに拍車をかけた。現在、米国のビデオゲーム(テレビゲーム)プレーヤーは約2億200万人であり、そのうち4,334人がプロとして活動しているとされている。アマチュアeスポーツ選手は1日に数時間、ビデオゲームを楽しみ、プロは1日に8~12時間のトレーニングを行っている。
ビデオゲームのトレーニングは基本的に座位で行われる。座位と立位では時間あたりの消費エネルギー量が、男性では約14%異なることが報告されている。eスポーツ選手は長時間座位で過ごしているため、この間の消費エネルギー量が、一般的な座位と同等であり増加していないのであれば、eスポーツのトレーニングは身体的健康にマイナスに作用すると考えられる。それは、エネルギー代謝の面だけでなく、筋肉の収縮を伴わないことから、マイオカイン(筋肉由来サイトカイン)の放出が刺激されないという経路からも、健康への悪影響が考えられる。
一方で、プロeスポーツ選手の競技中の心拍数は最大160~180bpmと同レベルにも達し、ストレスホルモンであるコルチゾール分泌量はレースドライバーに匹敵することが報告されている。これらのデータから、プロeスポーツ選手には、従来型のアスリート、つまり身体スポーツのアスリートと同等のストレス負荷がかかっていると考えられる。
ただし、eスポーツが本当にからだに悪いのか否かを検証した研究は、これまでほとんど行われていない。本論文の著者らは、以上を背景として、eスポーツ選手の競技中の消費エネルギー量と心血管代謝に関連する因子(血糖、乳酸、コルチゾール)レベルを比較した。
アマチュアeスポーツ選手での検討
研究参加者は、著者らが所属しているドイツのバイロイト大学のeスポーツクラブを通じて、同大学の学生および職員から募集された30名。研究仮説である、eスポーツは身体的健康にプラスの影響を与えない(消費エネルギー量については座位と立位の差である14%を超えない)ことを証明するためには、17名の参加者が必要と計算され、30名は十分と考えられた。
なお、研究参加の適格条件は、週に10時間以上eスポーツを行っている、喫煙習慣のない健康な18~40歳の男性。試験当日は、コーヒーやアルコール、パフォーマンスに影響を及ぼし得るサプリメントの摂取、およびスポーツを禁止した。
研究参加者の特徴
試験に用いたビデオゲームは、「CS:GO」という複数でプレーする米国発のシューティングゲームと、PlayStation4のサッカーシミュレーションゲーム「FIFA」という2種類。
参加者の年齢は23.1±3.0歳でCS:GO群(13名)とFIFA群(17名)に有意差はなく、eスポーツのプレイ時間はCS:GO群が14.6±5.9時/週、FIFA群が10.5±1.4時/週であり、前者のほうが有意に長かった。体脂肪率はCS:GO群22.5±7.8%、FIFA群15.8±5.2%、内臓脂肪面積は同順に82.0±41.2cm2、47.7±24.1cm2であり、いずれもCS:GO群のほうが有意に高値だった。
評価したパラメーターに、身体的健康へのプラス効果を示唆する変化なし
ビデオゲームのプレー時間は30分とした。プレー開始前からプレー終了10分後にかけて、VO2/VCO2(酸素摂取量/二酸化炭素排泄量)、呼吸交換率(respiratory exchange ratio;RER)、消費エネルギー量、心拍数、血糖値、乳酸、コルチゾールなどを評価した。
呼吸関連パラメーターと消費エネルギー量は有意な変化なし
ゲーム開始前から終了時点にかけて、CS:GO群、FIFA群ともに、VO2/VCO2、呼吸交換率(RER)、消費エネルギー量に有意な変化がなかった。ただし、ゲーム終了10分後に、RERの有意な低下がみられた。
心拍数はゲーム中盤から有意に低下
次に心血管代謝関連因子では、心拍数は有意な時間効果がみられ、ゲーム開始から10分後から低下していた(p<0.0001)。血糖値はゲーム開始前からゲーム終了までは有意な変化がなく、ゲーム終了10分後に有意な低下が確認された。乳酸レベルはゲーム開始前から終了後にかけて有意な変化がなかった。
コルチゾールに関しては採血のため、ゲーム開始前とゲーム終了10分後の2時点で測定されており、ゲーム終了後に有意な低下が認められた。
身体に良い影響はないが、急性の負のストレス反応ももたらさない
これらの結果から、アマチュアレベルのeスポーツは心血管代謝関連因子に影響を与えず、消費エネルギー量にも影響が及ばないことが確認された。著者らは、「eスポーツには、恐らく身体活動を伴う従来のスポーツと同じような健康増進効果はないだろう。ただし、一方で急性の負のストレス反応をもたらさないことも示された」と結論づけている。
この結論からの考察として、eスポーツプレーヤーは一般に長時間座位で過ごすことから、日常生活での身体活動量が大幅に低下し、長期的には慢性疾患のリスク上昇を招くと考えられると述べ、eスポーツのトレーニングとは別に従来型スポーツのトレーニングも必要ではないかとしている。なお、本研究の対象がアマチュアeスポーツ選手であったことを解釈上の留意点に挙げ、プロeスポーツ選手はゲームによる負のストレス反応など、異なる変化が生じている可能性もあると記している。
文献情報
原題のタイトルは、「Acute Effects of Esports on the Cardiovascular System and Energy Expenditure in Amateur Esports Players」。〔Front Sports Act Living. 2022 Mar 11;4:824006〕
原文はこちら(Frontiers Media)