ビタミンD、C、E、亜鉛、セレン、ω3脂肪酸は新型コロナウイルスのリスクを下げ得るか?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)リスク抑制に、微量栄養素はどのくらい影響を与え得るのだろうか。COVID-19パンデミック以来、このテーマを取り上げた多くの論文が発表されてきている。それらの中から今回は、かねてから免疫能との関連が報告されていた、ビタミンD、C、E、亜鉛、セレン、ω3脂肪酸にスポットを当てた総説を紹介する。
2020年以降に公開された論文を検索
著者らはまず、PubMed、Google Scholar、ScienceDirectという文献データベースを用いて文献検索を実施。検索キーワードは、COVID-19、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)、コロナウイルス、栄養素、ビタミン、ミネラルとし、2020年以降に公開された論文を対象とした。
重複のない221件から、総説やレターなどを除外した35件に、公開されている査読前論文を加えて計39件をレビュー対象とした。
ビタミンD
ビタミンD欠乏症とCOVID-19関連リスク
ビタミンDは、COVID-19に関連するさまざまなリスク要因に対する影響が認められる。
ビタミンDの不足は、高齢者、肥満、男性、高血圧、高緯度地域で高頻度にみられ、それらがすべて予後の悪化と関連している。加齢に伴う日光への曝露が少なくなり、皮膚での7-デヒドロコレステロール (プロビタミンD3) の生成が減少し、活性型ビタミンD濃度が低下する。これが、高齢者のCOVID-19の死亡率が高い理由を部分的に説明している可能性がある。
また、ビタミンDは、高齢者の抗炎症性サイトカインの増加と炎症誘発性サイトカインの減少に関連していることが示されている。この作用はサイトカインストームに対して抑制的に働くと考えられる。計2万966人を対象とした8件の観察研究のシステマティックレビューとメタ解析では、ビタミンDのレベルが低い人は肺炎のリスクが高いことが指摘されている。
ウイルス感染に対するビタミンDの保護的役割
ビタミンDサプリメントはウイルス感染症罹患率と重症度を軽減することが報告されており、上気道感染と血清25-ヒドロキシビタミンDレベルは負の相関が認められる。SARS-CoV-2に対するビタミンDの効果はまだ示されていないが、サプリメントは炎症誘発性サイトカインを抑制し、COVID-19患者の急性呼吸窮迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome;ARDS)関連の死亡率を低下させる可能性がある。現在、COVID-19患者に対するビタミンD補給の効果を検討するため、ヒトを対象とする多数の臨床試験が進行または計画中だ。
ビタミンC
ビタミンCは活性酸素種(Reactive Oxygen Species;ROS)を除去する抗酸化作用を有し、蛋白質、脂質などの酸化ダメージを防ぐ。白血球のビタミンC濃度は血漿の50~100倍であり、何らかの感染症により白血球に存在するビタミンCは急速に利用される。
ビタミンCが感染症予防効果をもたらすことが知られている。肺炎や結核などの急性呼吸器感染症の患者は、血漿ビタミンC濃度が低下し、ビタミンCの投与により高齢患者の肺炎の重症度と罹病期間が抑制される。
COVID-19感染時のビタミンCと免疫応答
COVID-19感染時のサイトカインストームに対する治療選択肢の一つとして、ビタミンCが提案されている。ビタミンCは、TNF-αを含む炎症誘発性サイトカインレベルを低下させ、抗炎症性サイトカイン(IL-10)を増加させることが知られている。ビタミンCの静脈内投与後に炎症性バイオマーカーや呼吸関連パラメーターの改善が認められたことも報告されている。COVID-19によるARDSの発症後に高用量のビタミンCで治療された患者は、早期に人工呼吸管理を離脱できたという症例報告がある。もっとも、この患者には抗ウイルス薬も投与されていた点に留意が必要だ。
ビタミンCはCOVID-19でも発症することのある、肺炎に続発する敗血症にも有用かもしれない。50人の中国人患者における高用量ビタミンC補給の有用性を示唆するデータがある。ただし、これは未発表であり、追試も必要だ。
現時点においてビタミンCの補給は、COVID-19感染のリスクが高く、微量栄養素欠乏症の人にとって、免疫反応を支えるための選択肢と言える。この目的での使用の有効性の検証のために、現在複数の臨床試験が進行している。
亜 鉛
亜鉛は免疫を含む多くの生物学的プロセスに関与している。亜鉛欠乏症は炎症誘発性サイトカインを有意に増加させる。亜鉛サプリメントがこれを抑制することも示されている。さらに、亜鉛欠乏は、IFN-γ、TNF-α等のシグナル伝達のアップレギュレーションなどを介して、肺上皮組織の細胞バリア機能の変化ももたらすほか、好中球の動員と走化活性にかかわり、T細胞やNK細胞の数との関連も示されている。
亜鉛とCOVID-19
亜鉛の免疫調節および抗ウイルス特性は、COVID-19患者の支持療法となる可能性がある。高用量亜鉛で治療された4人のCOVID-19患者の症例報告では、臨床症状の改善が示されている。
オーストラリアでは、COVID-19陽性者への亜鉛の静脈内投与の効果を検証する臨床試験が始まっている。
ω3脂肪酸、ビタミンE、セレン
エイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸は、免疫と炎症に好ましい効果があることが知られている。またω3脂肪酸は、インフルエンザウイルスの複製を阻害するという抗ウイルス作用をもっている。COVID-19患者にも有効である可能性はあるが、確固たるエビデンスはまだない。また、細胞膜損傷の感受性増強、酸化ストレス亢進などの指摘もあることから、現時点ではとくに高用量の補給には注意が必要。
ビタミンEやセレンは、抗酸化作用をもつ。疫学研究からは、これらの栄養素のいずれかの欠乏が免疫反応とウイルスの病原性を変化させることを示している。
COVID-19罹患中の栄養補給の役割
COVID-19罹患中は、疾患の負担を軽減し呼吸器感染の期間を短縮するために、適切なレベルのビタミンC、D、およびEが重要と考えられる。また、亜鉛などのミネラルが抗ウイルス効果を持ち、免疫反応を改善し、ウイルス複製を抑制する可能性がある。
したがって、免疫システムを適切に機能させるためには、食事を通じて十分な量のビタミンとミネラルを摂取することが不可欠と言える。果物、野菜、肉、魚、鶏肉、乳製品は、これらのビタミンとミネラルの優れた供給源であり、COVID-19に対する免疫能を支持するために、それらをより多く摂取することが有益である可能性がある。
ただし、研究で有用性が示唆されているそれらの用量は、食事だけから得るには困難な高用量であることも事実であり、サプリメントの使用が考慮されるが、その有効用量を決定するための臨床研究が求められる。
文献情報
原題のタイトルは、「Immune-boosting role of vitamins D, C, E, zinc, selenium and omega-3 fatty acids: Could they help against COVID-19?」。〔Maturitas. 2021 Jan;143:1-9〕
原文はこちら(Elsevier)