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栄養摂取状況と認知症リスクの関連は? 米国国民健康栄養調査から示されたこと

2015年時点で世界の認知症患者数は約5,000万人と推計され、毎年約1,000万人が新たに発症していると考えられている。現在のところ認知症に対して進行抑制薬以外の治療法は存在しない。そのため認知症パンデミックの回避には、発症リスク因子を特定し、それらの中で改善可能なものを実践することが、現段階で取り得る最善の策と言える。

栄養摂取状況と認知症リスクの関連は? 米国国民健康栄養調査から示されたこと

認知症リスクに対して運動が抑制的に作用することに関しては、エビデンスが蓄積されてきている。一方、食習慣に関しては、地中海式食事スタイルが抑制的に作用する可能性が示されているものの、摂取エネルギー量や摂取栄養素との関連は明確になっていない。

この状況を背景に、米国の国民健康栄養調査のデータを用いた本研究が行われた。

60歳以上3,623人の栄養摂取状況と記憶障害の関連を検討

米国の国民健康栄養調査は2年単位で実施されている。今回の研究では、2011~12年と2013~14年の2回の調査対象のうち、60歳以上の計3,623人のデータが解析に用いられた。

栄養摂取状況については、24時間思い出し法による総摂取エネルギー量、および主要栄養素の摂取量を評価し、次に述べる記憶障害の有無および重症度との関連は、それぞれの摂取量を三分位に群分けして検討した。

記憶障害は、「過去7日間に鍵や財布などをどこに置いたか思い出せないことがどれくらいあったか」との問に対する「まったくない」「約1回」「2、3回」「ほぼ毎日」「1日に数回」という選択肢からの回答で評価した。「まったくない」は記憶障害なし、「約1回」と「2、3回」は初期の記憶障害、「ほぼ毎日」「1日に数回」は後期の記憶障害と判定した。

対象者の特性と記憶障害との関連

対象者3,623人のうち、20.6%が記憶障害ありと判定され、7.7%は後期記憶障害と判定された。

性別で比較すると、女性で記憶障害ありは24.6%、男性は15.9%で、女性が有意に多かった(p<0.001)。また、心血管疾患の既往歴のある人は、ない人より有病率が高かった(25.2% vs 19.3%,p=0.008)。そのほか、余暇時間の身体活動量の少ない人(22.7% vs 17.9%,p=0.012)、教育歴の短い人(高卒未満27.2% vs 高卒22.8% vs 高卒を上回る学歴17.7%,p=0.001)、世帯収入の低い人(所得-支出比1.3未満24.8%、同1.3以上3.5未満21.1%、3.5以上17.4%,p=0.019)は、有意に有病率が高かった。

一方、BMIや糖尿病の有無、担癌者か否かでは有意差がなかった。

栄養摂取状況と記憶障害との関連

記憶障害のリスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、人種/民族、教育歴、世帯収入、喫煙・飲酒・身体活動習慣、BMI、体重、高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、心血管疾患、癌)で調整のうえ、多重ロジスティック回帰分析により、栄養摂取状況と記憶障害の関連を検討した結果、以下の関連が明らかになった。

摂取エネルギー量が多いほど記憶障害のリスクが高い

まず、摂取エネルギー量と記憶障害の関連をみてみよう。

摂取エネルギー量の第1三分位群と比較し、第2三分位群、第3三分位群ともに、記憶障害のオッズ比(OR)は高いが有意ではなく、傾向性p値は0.055であり、有意水準にやや届かなかった。

しかし、記憶障害全体ではなく、より重症度が高い後期記憶障害との関連をみると、第2三分位群は非有意なものの第3三分位群はOR1.52(95%CI:1.15~2.12)であり、傾向性も有意だった(傾向性p=0.005)。

炭水化物や脂質の摂取量が多いほど記憶障害のリスクが高い

次に、栄養素別に関連をみてみよう。

まず、炭水化物は、記憶障害全体および後期記憶障害のいずれとも、摂取量が多いほど頻度が高いという有意な関連が認められた。オッズ比は以下のとおり。記憶障害全体について、炭水化物摂取量の第3三分位群OR1.59(1.12~2.26)、傾向性p=0.01、後期記憶障害について、第3三分位群OR1.40(1.04~1.88)、傾向性p=0.03。第2三分位群はいずれも非有意。

次に、脂質摂取量は、記憶障害全体では有意な関連はなく、後期記憶障害とは有意な関連が認められた。後期記憶障害のオッズ比は、第3三分位群OR1.33(1.01~1.76)、傾向性p=0.04(第2三分位群は非有意)。

一方、蛋白質接種量の多寡は、記憶障害の頻度と有意な関連がなかった。

砂糖摂取量、総飽和脂肪酸摂取量とも有意な関連

さらに、砂糖からの摂取エネルギー量も記憶障害との関連があった。前記のように、各栄養素の第2三分位群は有意でないのに対して、砂糖は第1三分位以上(第2および第3三分位群)、つまり検討対象の3分の2に相当する人が、残りの3分の1の人よりも有意に記憶障害全体および後期記憶障害の頻度が高いという結果だった。

具体的なオッズ比は以下のとおり。記憶障害全体に関して、第2三分位群OR1.43(1.04~1.96)、第3三分位群OR1.54(1.06~2.24)、傾向性p=0.02、後期記憶障害に関して、第2三分位群OR1.37(1.04〜1.80)、第3三分位群OR1.42(1.05〜1.92)、傾向性p=0.02。

また、飽和脂肪酸の摂取量との関連は、後期記憶障害で有意であり、第3三分位群OR1.40(1.07〜1.84)、傾向性p=0.02だった(第三分位群、および記憶障害全体は非有意)。なお、一価不飽和脂肪酸および多価不飽和脂肪酸との関連はみられなかった。

サブグループ解析でも結果はかわらず

最後に上記の関連を、性別、人種/民族、身体活動量、BMI、喫煙習慣、併存疾患の有無などで層別化し、サブグループ解析を行った。その結果、いずれについても交互作用は有意でなく、全体解析と同じ結果が一貫して認められた。

これらの結果から、結論として著者らは「摂取エネルギー量は、米国の高齢者の記憶障害の重症度と有意に関連している。栄養素では、蛋白質は関連がないが炭水化物と脂質からのエネルギー摂取は、記憶障害に関連している。本研究の結果は、認知症を予防するための健康的な食事パターンの潜在的なメリットに関する新たなエビデンスであり、健康的な食生活を推進するための戦略を開発する必要性を示している」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Association between Intake of Energy and Macronutrients and Memory Impairment Severity in US Older Adults, National Health and Nutrition Examination Survey 2011-2014」。〔Nutrients. 2020 Nov 20;12(11):3559〕
原文はこちら(MDPI)

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