ランニングの際にペットボトルを身につける最適な場所は、腰? 腕? 背中?
長距離ランニングでは、水や補食のための栄養バーなどを身につけて走ることがある。その際、それらを体のどこに身につけるのが良いのだろうか? ウエストベルト、バックパック、ハンドヘルド(手に握る)ストラップを比較した研究結果が発表された。果たして結果は...
著者らの仮説は「ハンドヘルドはランニングエコノミーが他の条件より悪い」
ランニングの人気は世界中で高まっており、近年ではトレイルランなどの超長距離ランニングを行う人も増えている。長距離ランニングでは、脱水や熱中症のリスク回避とパフォーマンスの低下を抑制するために、適宜、水分と栄養を摂取する必要があり、それらを身につけて走ることが少なくない。
補給すべき水分量は気温や湿度などより異なるが、およそ0.4~0.8L/時とされることが多く、長時間走る場合には重量換算で数キログラムに及ぶ。このような大きな重量負荷がかかる場合には、バックパックが最適であろう。
ただし、走行距離がそこまで長くない場合に、身につける位置により負荷が異なるかは明らかになっていない。本論文の著者らによると、身につける場所の違いによるランニングエコノミー(燃費)を比較検討した研究は1件のみで、ウエストベルトとハンドヘルドとで5分間の走行では有意差がないという結果だったという。
今回実施された研究は、その先行研究よりも長いランニング1時間で、バックパックという条件も加えて検討した。一般的に、体の重心に近い位置に負荷がかかるようにしたほうが負担が少ないため、研究に先立ち著者らは、「ウエストベルトとバックパックの2条件は、ハンドヘルドストラップに比べてランニングエコノミーに優れる」との仮説を立てた。
負荷設定をできるだけ等しくして比較検討
この研究に参加したのは、18~30歳の男性レクリエーションランナー12名。主な背景は、年齢22.8±2.2歳、BMI24.5±1.8で、ランニングを3.2±1.3日/週行い、VO2max50.4±5.3mL/kg/分、10kmのベストタイムは46分32秒±4分12秒。
腰に巻くウエストベルト、背に背負うバックパック、手に握るハンドヘルドストラップという3条件に、何も身につけないコントロール条件を加え、合計4つの条件を全参加者に課した。前者3条件で身につけるものは、水の入ったペットボトルとバックやストラップを合わせて1kgに統一した。また、試験の前にはアルコールやカフェインの摂取を禁止し、試験開始の少なくとも24時間前からは激しい運動を控えるよう指示した。施行の順序はランダム化し、いずれかの条件の試験を行った14日間以内に、他の3条件の試験も終了することとした。
運動負荷はトレッドミルにより参加者個々の無酸素性作業閾値(anaerobic threshold;AT)の80%で60分とした。負荷開始後、5分、30分、60分(負荷終了)の時点で、主観的運動強度(ratings of perceived exertion;RPE)、心拍数、乳酸値、および、酸素摂取量とエネルギー消費量によるランニングエコノミーを評価した。
果たして結果は...
検討した4条件すべてで、RPE、心拍数、ランニングエコノミーが負荷時間の経過とともに増大した。
負荷を終了した60分時点でのランニングエコノミーをみると、酸素摂取量に基づくコスト(O2コスト。単位はmL/kg/km)は、コントロールが210.1±31.6、ウエストベルトが212.1±28.3、バックパックが210.6±22.5、ハンドヘルドストラップが219.7±27.3であり、エネルギー消費量に基づくコスト(単位はkcal/kg/km)は同順に、1.05±0.16、1.06±0.14、1.05±0.11、1.10±0.14であって、どちらも群間に有意差が認められなかった。結果として、著者らの仮説は証明されなかった。
結論としては、最大1時間のランニングで補給が必要な水分量であれば、どのように身につけても影響は変わらず、個人の好みで決めて良いということになる。
なお、この研究の限界点として著者らは、検討対象者数が少ないこと、運動負荷時間が60分であり十分に長いとは言えないことなどを挙げ、より大規模で長時間の負荷による検討を行う必要があると述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「The Optimal Weight Carriage System for Runners: Comparison Between Handheld Water Bottles, Waist Belts, and Backpacks」。〔Front Physiol. 2020 Sep 30;11:571221〕
原文はこちら(Frontiers Medi)
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