運動習慣と機能性食品の新型コロナウイルスに対する予防効果をレビュー
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第二波が収束に至らず、感染者数の横ばい状態にある。この先、収束に向かうのか、それとも収束しないまま第三波が押し寄せるのか予断を許さない。感染予防上、適切な栄養摂取と適切な運動習慣が身体の免疫能の維持に役立つという点は、COVID-19パンデミック以来、多くのメディアに取り上げられ、多数の人に知られるようになった。こうした情報をもう一歩掘り下げて、COVID-19の感染予防により適した運動習慣と、機能性食品の摂り方を考察したレビュー論文が「Nutrients」に掲載された。一部のポイントを取り上げる。
運動の抗ウイルス効果
慢性疾患、とくに非感染性疾患(Non-Communicable Diseases;NCD)の罹患率と死亡リスク低下に身体活動が関連していることについては強固なエビデンスが確立されている。最近はこれに、免疫系が関与する感染性疾患(Communicable Diseases;CD)に対しても抑制的効果をもちらす可能性が精力的に研究されている。
運動は、自然免疫と獲得免疫の双方に影響を与え、とくに中等度の運動はナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、マクロファージの活性を高め、ランニングやサイクリングが単球数を増加させること、80歳の高齢者でもウォーキングによるCD4陽性T細胞の増加が認められることなど、多数の報告がみられる。COVID-19をはじめとする新興感染症の予防戦略において、運動の役割を無視することはできない。
反対に、エリート持久力運動アスリートでは上気道感染症の感染率が高いことが知られており、高強度運動の後は粘膜免疫抗体が低下することがエリートスイマー対象の研究などで示されている。ただしこの反応は、通常は24時間以内に回復する。
運動の強度および持続時間を調節することで、免疫システム応答を最適化することができると考えられるが、それには栄養状態、体重、衛生状態、メンタルヘルスなどの複数の要因を評価する必要があるだろう。
COVID-19予防のための運動の推奨事項
適度な運動強度が推奨される。とくに、自宅待機などで一定期間、不活発であった時期の直後は、高強度運動は回避すべきだろう。
適度な運動強度を保つ実践的な方法は、最大心拍数の40〜70%を維持することだ。自分の体重を利用して負荷とするエクササイズなどをとり入れる。1週間に有酸素運動を少なくとも150分、200〜400分を上限として行い、2〜3回の筋力トレーニングを加える。これらの運動は、過体重や肥満、インスリン抵抗性、糖尿病など、COVID-19のハイリスクと考えられている人にとってはより重要と言える。
感染性疾患、COVID-19の予防における機能性食品
機能性食品は、疾病予防や健康上の利点に関連付けられている食品であり、非感染性疾患(NCD)、例えば糖尿病や心血管疾患などにおける炎症や酸化ストレスの抑制などに利用されることがある。ただし、感染性疾患(CD)への機能性食品の役割についてはあまり理解が進んでおらず、とりわけウイルス感染症に対する免疫系への影響は、わずかな知見に限られている。
COVID-19を含む感染性疾患に対する機能性食品の影響を研究することは重要なテーマである。COVID-19による死亡率は、周知のとおり、高齢者と肥満、心疾患、高血圧または糖尿病の患者で高い。これらの患者群の多くは易感染状態にあたる。
これらより、行動的ライフスタイルアプローチ、つまり前述の運動習慣と最適な機能性食品の摂取の組み合わせは、NCDとCD双方に抑制的に働く可能性が考えられる。
抗ウイルス機能を有する食品の種類と作用機序、摂取量等の推奨
本論文では、上記の考察に続き、免疫システムの抗ウイルス作用を最適化する機能性食品のメカニズムについて詳述。さらに、機能性食品を具体的に取り上げ、現時点のエビデンスを基に摂取量等の推奨を示している。以下に一部を抜粋する。
果物と野菜
免疫にかかわる栄養素:ビタミンC、B2、B6、B12、葉酸、ベータカロテン、鉄、植物シクロチド。
主な作用機序:抗酸化作用、抗炎症作用を賦活し、呼吸器系を保護して感染リスクを軽減。シクロチドは免疫細胞の機能低下を防ぎ、感染後はこの防御機構の過剰反応を抑制。
推奨事項:バランスのとれた食事の一部として摂取することを強く推奨。活動的な生活を支え、概日リズムと睡眠の質をサポートする。
乳製品
免疫にかかわる栄養素:ビタミンD、A、およびE。
主な作用機序:ビタミンDは呼吸器感染症のリスクを低下させる。カテリシジンとディフェンシンを介してウイルス複製率を低下させ、抗炎症性サイトカインを介して肺損傷を防ぐ。
推奨事項:食事からの摂取が望ましい。サプリメント(亜鉛、セレン、ビタミンD)は、高齢者や不足が確認された人に推奨される。
種子とナッツ
免疫にかかわる栄養素:亜鉛、セレン、銅、その他の微量ミネラル。
主な作用機序:抗酸化作用と抗炎症作用、免疫保護作用のあるフェノール化合物が含まれている。
推奨事項:高齢者やリスクの高い人では、食事の摂取量が少ない場合、サプリメントの摂取を推奨。
魚、シーフード
免疫にかかわる栄養素:EPA、DHA。
主な作用機序:プロレゾルビンメディエーターを介して急性肺損傷を防ぎ、抗炎症作用により治癒をサポートする。
推奨事項:高リスクの人は摂取量を増やすことを推奨。
オリーブオイル、オリーブの葉
免疫にかかわる栄養素:オレウロペイン、ヒドロキシチロソール、エレノール酸、ビタミンE。
主な作用機序:インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、およびヘルペスウイルスによる上気道感染症の減少。
推奨事項:ポリフェノール含有量の高いエクストラバージンオリーブオイルの食事摂取(20〜30g/日)。身体活動によってベネフィットが増す。
コーヒー、コーヒーの葉
免疫にかかわる栄養素:コーヒー酸、カフェイン、ポリフェノール、クロロゲン酸。
主な作用機序:コーヒー酸は子孫ウイルスの収量を減少させ(とくに感染後3時間以内)、ウイルス感染細胞の変性を抑制する。カフェインは、好中球と単球の走化性、およびTNF-αなどの炎症性サイトカインを抑制する。
推奨事項:1日2〜3杯のコーヒー摂取が推奨される。カフェイン酸とカフェインの両方を含むためにより健康的であり、カフェイン補給よりも優れた免疫学的メリットがある。
特定の植物の根、菌類、伝統的ハーブ、薬用植物(甘草、冬虫夏草、高麗人参など)
主な作用機序:ウイルス複製を防ぎ、IgGやIgA抗体の産生を高め、T細胞機能を改善する。高麗人参や冬虫夏草には、抗酸化作用がある。
推奨事項:食事としての摂取を強く推奨。食事摂取量が少ない場合はサプリメント(例えば冬虫夏草1.5g/日)。
発酵食品とプロバイオティクス(ヨーグルト、漬物、プロバイオティクス飲料など)
主な作用機序:微生物、とくに乳酸菌やビフィズス菌は、腸内細菌プロファイルを調整する。
推奨事項:食事としての摂取を推奨。
文献情報
原題のタイトルは、「Antiviral Functional Foods and Exercise Lifestyle Prevention of Coronavirus」。〔Nutrients. 2020 Aug 28;12(9):E2633〕
原文はこちら(MDPI)