アスリートの水分補給は、パフォーマンス向上だけでなく、引退後の健康にとっても重要
アスリートの水分補給について述べた総説の要旨を紹介する。米国およびポルトガルの研究者によるもので、従来、スポーツパフォーマンスとの関連で語られることの多かった水分補給について、引退後の健康リスクも見据えて考察されている。

アスリートの水分摂取が大切な二つ目の理由
アスリートの体液・電解質バランスは、スポーツ栄養学や運動生理学の中心的なテーマとされてきた。多くの研究は、主として長時間の運動や暑熱環境での熱ストレス下における水分の不足が、体温調節、心血管系への負担、運動パフォーマンスに及ぼす、急性の影響に焦点を当ててきている。それらの研究により、重要な知見が明らかになり、実践的な推奨事項が生成された。しかしそれは同時に水分摂取の役割を、スポーツパフォーマンスを維持する手段として捉える、比較的狭い枠組みを生み出したともいえる。
競技においてパフォーマンスが重要であることは疑いようもないが、それはアスリートの長期的な軌跡の一側面に過ぎない。慢性的に発生している過少な水分摂取(low water intake;LWI)は、アスリートの健康リスクとなる可能性があることも強調する必要がある。
過少な水分摂取(LWI)の長期的な生理学的影響
水分摂取は腎臓、代謝、ホルモン調節において中心的な役割を果たしている。それにもかかわらず、日常的に繰り返される過少な水分摂取(LWI)の長期的な生理学的影響は、これまであまり注目されてこなかった。
非アスリート人口の最大40%が、LWIと血漿アルギニンバソプレシン(arginine vasopressin;AVP)濃度の持続的上昇を特徴とする、慢性的な水分不足の状態にあるという報告がある。非アスリート集団では、慢性のLWIは腎結石の形成、インスリン抵抗性、慢性炎症、気分障害、慢性疾患リスクの増大と関連付けられている。因果関係はまだ明確ではないが、AVPが中心的な役割を果たしている可能性がある。
血漿AVPの上昇は肝臓の糖新生を刺激し、血漿グルカゴン濃度を増加させ、高血糖を促すことが示されている。2型糖尿病患者は一貫して血漿AVP濃度が高く、慢性的なLWIと代謝調節異常との間に関連性があることが示唆されている。
若年のアスリートにはLWIが多く、教育介入の必要性が高い
LWIが健康リスクとなり得ることを示唆する複数の観察研究があるが、一方で水分摂取量を増やすという介入による健康リスクへの影響を調べた研究は依然として少ない。報告されているものも多くは短期間(最も一般的には約2~12週間)である。
アスリート対象の注目すべき研究として、習慣的な水分摂取量が少ないアスリートの水分摂取量を増やすことの影響を検討するという介入のプロトコル論文が2024年に発表されている。しかし結果はまだ報告されていない。
アスリートのかなりの割合が、習慣的にLWIの状態に該当すると考えられる。例えば、競技アスリートを対象とした横断研究では、実生活条件下での7日間の食事記録を使用して習慣的な水分摂取量が推定された。その結果、参加者の58%が、1日の水分摂取量が35mL/kgでありLWIと分類されている。またこの研究では、LWIのアスリート群は、LWIでないアスリート(水分摂取量が推奨を満たしているアスリート)群よりも、年齢が有意に若いという結果が示されている(19.4±5.2 vs 22.4±4.8歳、p=0.033)。
LWI群とそうでない群のアスリートに年齢差があることの理由は明らかでないが、若いアスリートはトレーニング状況下での水分管理の経験が少ないことを示唆している可能性があり、対象を絞った教育の重要性が浮き彫りにされている。
慢性的なLWIでは内分泌系や腎臓へのストレスが生じている可能性
最近の実験的研究では、脱水状態のアスリートにおいて、血漿浸透圧が正常であるにもかかわらず、尿比重の上昇とともに循環AVP濃度の上昇がみられたという報告があり、これは以前に非アスリート集団で報告されていた結果と一致している。これらの知見を総合すると、正常な血漿浸透圧は、アスリート集団と非アスリート集団の双方において、内分泌系や腎臓へのストレスの増加を犠牲にして維持されている可能性がある。よってアスリートと臨床医は、従来、パフォーマンスの観点から水分摂取を優先してきたが、慢性的なLWIの長期的な健康との関係を考慮する必要があると言えるだろう。
アスリートは、現役生活の間は代謝性疾患のリスクから守られていると捉えられることが多い。しかしこの考えは、根拠があるとは言えないのかもしれない。アスリートの習慣的な飲水パターンと長期的な腎臓または代謝の健康状態を調査した縦断的研究がないことは、現在の重大なギャップと位置づけられる。
パフォーマンスという枠組みを超えた研究もスポーツ栄養学における必要な進化
これらの考察のうえで論文の結論は以下のように述べられている。
「今後の研究では、慢性的なLWIのアスリートが、後年になって腎機能障害や代謝機能障害の早期マーカーの変化を来すのかを検討し、アスリート集団において血漿AVPおよび尿中バイオマーカーを正常化するために必要な水分摂取量を確立することが求められる。このような、スポーツパフォーマンスという枠組みを超えた研究も、スポーツ栄養学における必要な進化であり、現代の公衆衛生および予防医学の優先事項と、アスリートの実践を整合させるものである」。
文献情報
原典論文のタイトルは、「Athlete Hydration: Beyond Performance Toward Long-Term Health」。〔Sports Med. 2026 Apr 22〕
原文はこちら(Springer Nature)
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