音楽療法、スポーツ栄養、持続可能な食生活は、メンタルヘルス向上・回復に相乗的効果を発揮
メンタルヘルスの改善や心身の回復にエビデンスのある、音楽療法、スポーツ栄養、および持続可能な食生活を組み合わせることで、個々の介入効果を上回る相乗効果が発揮されるのではないかとする研究結果が発表された。中国の公立大学である湘南学院音楽学院の研究者による論文。要旨を紹介する。

メンタルヘルス関連疾患の非薬物療法としての音楽、スポーツ栄養の可能性
メンタルヘルス関連疾患が世界的に増加しており、その一部に、過密なスケジュールで活動している社会人、学生、アスリートなどにおいて、心身の疲労が十分回復されずに生活している状況が関与していることが示唆されている。また、現在のメンタルヘルス関連疾患の治療においては、薬物療法が中心的な役割を果たしているが、副作用等の問題から、非薬物療法への関心が高まっている。
非薬物療法のなかで、音楽療法、スポーツ栄養、および持続可能な食生活は、それぞれメンタルヘルス改善に資するとする一定のエビデンスが報告されてきている。
音楽療法
音楽療法は、感情の調節、ストレス軽減、認知機能の向上にプラスの影響を与える行動介入法の一つ。聴覚刺激、神経同調、自律神経系の調節などのメカニズムを通じて、気分に影響を与え、コルチゾールを抑制し、副交感神経活動を高めるとされ、睡眠の質の向上、心理的回復力をサポートすることが知られている。また、音楽のリズムやテンポは心拍や呼吸などの生理機能の調整、ドパミン放出の増加、それによるモチベーションの向上などにつながり得る。
スポーツ栄養
スポーツ栄養は、身体能力と精神的健康に不可欠な要素として認識されるようになってきた。栄養摂取は神経伝達物質の合成、ホルモン調節、炎症惹起/抑制を介して、脳に影響を及ぼし得る。また炭水化物は脳にエネルギーを供給する主要な栄養素であり、タンパク質はセロトニンやドパミンなどの神経伝達物質の生成に必要なアミノ酸を脳に供給する。ビタミンやミネラルなどの微量栄養素は、神経シグナル伝達とストレス耐性において重要な役割を果たす。栄養不足や栄養バランスの崩れは、思考能力を低下させ疲労を引き起こし、神経過敏やうつ病のリスクを高める可能性がある。
持続可能な食生活
持続可能な食生活とは、栄養として十分であり、環境負荷が少なく、経済的に実現可能であって、文化的に適切であることで定義される。一般的には、環境への影響が重視されることが多いが、近年は心理的影響についても議論されている。例えば、植物性食品、全粒穀物、健康的な脂質を多く含む食事スタイルは、うつや不安レベルの低下と関連すると考えられている。また、このような食事スタイルは抗炎症、腸内細菌叢の調整を介しても心身の健康をサポートする。
これら三つを統合して行った場合に相乗効果は発揮されるか?
上記三つの介入について、それぞれ研究報告が増加している。しかし、本論文の著者によると、それらの研究の大半は1種類の介入の効果を調査したものであり、行動的なアプローチ(音楽療法)と生理学的なアプローチ(スポーツ栄養)を組み合わせた研究は多くないという。
この現状を背景として著者らは既存文献の統合的レビュー(integrative review)により、介入の相乗効果の有無を検討した。統合的レビューは、システマティックレビューと異なり、研究テーマが複数の領域にまたがっているトピックについて、包括的な解釈を試みる研究手法だが、本研究では方法論的な透明性を確保するため、PRISMA(システマティックレビューとメタ解析のための優先レポート項目PRISMA)ガイドラインに準拠した文献検索が行われた。
いずれの介入も有効だが、統合的なアプローチの改善率が最も高い
文献検索には、PubMed、Scopus、Web of Science、Google Scholarなどのデータベースを用いた。本研究テーマに関する最近の動向を把握するという目的から、2010年以降に収載された論文を検索対象とした。包括基準は、ヒトを対象として音楽療法、スポーツ栄養、持続可能な食生活に関する研究を行い、査読システムのあるジャーナルに英語で発表された論文とした。一方、基礎実験、動物実験、学会発表、エディトリアル、査読を受けていない報告は除外した。
一次検索で2,457報、関連文献のハンドサーチで163報が見つかり、重複削除後の1,892報をタイトルと要約に基づくスクリーニングにより380報に絞り込み、全文精査によって120件の研究の報告を適格と判断した。内訳は、実験的研究が48件、観察研究が42件、レビューに基づく研究が30件だった。
介入法別の定量的評価結果の概要
音楽療法については38件の研究があり86.8%はアウトカムに改善がみられると報告していた。報告されていた効果は主に、ストレスや不安の軽減、気分の改善だった。効果量(コーエンのd)の平均は0.68(範囲0.45~0.90)であり、全体としてエビデンスは強いと判断された。
スポーツ栄養については35件の研究があり80.0%はアウトカムに改善がみられると報告していた。報告されていた効果は主に、認知機能の向上、疲労の抑制、気分の改善だった。効果量(d)は0.53(0.30~0.75)であり、全体としてエビデンスは中等度~強と判断された。
持続可能な食生活については27件の研究があり74.1%はアウトカムに改善がみられると報告していた。報告されていた効果は主に、抑うつの改善、幸福感の向上だった。効果量は0.43(0.25~0.60)であり、全体としてエビデンスは中等度と判断された。
統合的アプローチについては20件の研究があり90.0%はアウトカムに改善がみられると報告していた。報告されていた効果は主に、回復の促進、レジリエンスの向上、ストレスの軽減だった。効果量は0.85(0.60~1.10)であり、全体としてエビデンスは強いと判断された。
つまり、複数の介入を統合的に行った場合に90%の有効性が認められ、これは、個々の介入の有効性より高値であった。
評価アウトカム別の結果の概要
評価されていた指標別にみた場合、最も多く検討されていたのはストレス軽減効果であり、82件存在し、その88.4%で改善が報告されていた。その主な介入手段は、音楽療法または統合的アプローチだった。
主な介入手段がスポーツ栄養であったのは、認知機能を評価した研究であり、55件が存在し、その78.2%で改善が報告されていた。また、気分を評価した研究は、主にスポーツ栄養または音楽療法が用いられており、69件のうち83.0%で改善が報告されていた。抑うつを評価した研究は主に持続可能な食生活が用いられ、48件のうち72.9%で改善が報告されていた。
評価手法別の解析で最も高い改善率を示したのは、回復とレジリエンスだった。その介入に用いられていた主な手段は、統合的アプローチだった。41件のうち90.2%と、9割以上で改善が報告されていた。
以上に基づき論文の結論は、「音楽療法、スポーツ栄養、持続可能な食生活は、すべて心理的幸福に有益であった。定量的データでは、対象となった多くの研究で80%以上の改善が報告されていた。最も効果的な介入は統合的なものであり、相乗効果が示唆された」とまとめられている。
一方、「潜在的な交絡因子と出版バイアスのため、結果の解釈には注意を要する。今後の研究では、統合的アプローチに焦点を当てた、より適切に設計されたデザインによる検討が求められる」と付け加えられている。
文献情報
原典論文のタイトルは、「Rhythms of recovery: music therapy, sports nutrition, and sustainable diets and food for mental health」。〔Front Nutr. 2026 May 12:13:1828961〕
原文はこちら(Frontiers Media)







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