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微量の汗を正確に連続測定可能、発汗量や速度を視覚化できるウェアラブルパッチを開発 筑波大学

筑波大学の研究グループは、活動時のみならず安静時の微量な発汗(体表面からの水の蒸散)も、正確に連続モニタリング可能な先進的ウェアラブルデバイスを開発したと発表した。運動や暑熱などに伴う脱水状態だけでなく、日常生活における心身の健康管理や疾患診断など幅広い分野への応用が期待されるという。論文が「Advanced Science」に掲載されるとともに、同大学のサイトにニュースリリースが掲載された。

図1

(a)超親水性スポンジ充填微小流路を特徴とする積層型ウェアラブルパッチの分解図。(b)皮膚表面に張り付けた状態のパッチ。

(a)超親水性スポンジ充填微小流路を特徴とする積層型ウェアラブルパッチの分解図。超親水性のバイオスポンジが、分泌されたばかりの汗を素早く捕らえ、流路に設置したセンサーにより,シームレスな連続リアルタイム分析を実現する。
(b)皮膚表面に張り付けた状態のパッチ。
(出典:筑波大学)

研究の概要:発汗量や発汗速度を視覚的に確認可能。スポーツパフォーマンス向上にも

ヒトにとって体内の水分量の調節は、生命活動を維持するうえで極めて重要。発汗は心身の健康状態とも密接に関連しているが、現在のウェアラブル技術では、日常生活において、比較的多量の汗しか連続してモニタリングできない。本研究では、安静時でも生じている体表面からのごく微量な水の蒸散(不感蒸泄性発汗)も正確にモニタリングできる、肌に張り付けるタイプの薄くて(1㎜)軽い(1g)ウェアラブルパッチを開発た。

パッチ内の流路には、植物の吸水メカニズムを模倣した超親水性ポリマー製スポンジが充填されており、微量の汗(水蒸気)を迅速かつ確実に捕捉できる。また、流路に入った汗を食用色素で着色し、発汗を「見える化」することで、発汗量と発汗速度(脱水状態)を視覚的に確認できる。さらに、パッチには汗の水素イオン濃度(pH)やナトリウムイオン、カリウムイオン、グルコースなどの化学成分を連続的に検出するセンサーが組み込まれており、これらの濃度変化をリアルタイムで取得できる。

このパッチを頭部など体のさまざまな部位に貼り付けて日常生活を送る実験を行い、微量の発汗を計測した結果、パッチの有効性と計測の信頼性が確認された。著者らは、脱水管理、緊張状態やストレス状態の観察、疾患診断、心身の健康管理、スポーツパフォーマンスの最適化など幅広い分野への応用が期待され、とくに個別化医療の進展に貢献すると考えられるとしている。

研究の背景:脱水状態を連続的にモニタリング可能な技術開発

皮膚からの水分の喪失には、活動性発汗(顕性発汗)と経表皮水分喪失(不感蒸泄性発汗)という2種類がある。近年、汗の捕捉、収集、測定技術が進歩した結果、汗に関するさまざまな計測技術が開発されている。しかし、これらの技術は中強度から高強度のトレーニング中のモニタリングに使用されることが多く、複雑で大型な実験装置を必要としている。ウェアラブル発汗計測デバイスも開発されているが、その多くは運動や高温、化学的刺激などによる大量の活動性発汗を計測することに重点を置いている。つまり、いずれもが活動性発汗を対象としたもの。

経表皮水分喪失も活動性発汗と同様に重要な生理的情報を提供する。ところが、そのモニタリングにはやはり大がかりな機器が必要で、計測に時間もかかる。放出される汗がごく微量で、その収集に時間がかかることなどがその理由。

そもそも、従来の汗モニタリング用のウェアラブルパッチでは、サンプリング中に汗が蒸発したり、汗を装置に取り込むことが難しかったりする問題があり、日常生活の中で脱水状態を連続的にモニタリングすることは困難だった。

研究内容と成果:微量の発汗を測定でき、グルコースや乳酸も測定可能

本研究チームは、低い汗分泌速度でも連続的な分析が可能となる新しい計測プラットフォームの構築に取り組み、超親水性スポンジを開発、微小流路に充填することに成功した。そして、この技術をベースに、安静時の微量の発汗を連続して測定できる、肌に貼り付けるパッチを開発した。

パッチは、最上層がカバー、次の層が超親水性スポンジが充填された微小流路、さらにその下にセンサーの層があり、その下に両面テープの層という構成(図1)。パッチには、排出された微量の汗を迅速かつ効率的に取り込むことができる、植物の吸水メカニズムを模倣した超親水性スポンジが使われており、活動性発汗の10分の1~100分の1の発汗量も正確に計測できる。さらに、取り込んだ汗を流す微小流路上に配置されたセンサーにより、カリウムやナトリウムイオンなどの電解質や、グルコース、乳酸などの代謝物を計測することも可能。

パッチは薄く小型で、額、首、肩、腹部、腕、大腿部、すね、足の甲など身体のさまざまな部位に貼り付けることが可能であり、これにより、部位ごとの発汗を連続的にモニタリングすることができる。

以下は、新たに開発された事項。

超親水性ポリマーを用いた微小流路

親水性の高い生体由来の材料を用い、植物の吸水メカニズムを模倣した階層的な細孔構造を有する超親水性スポンジを開発した。このスポンジを汗収集用孔と微小流路に埋め込み、低分泌速度でも確実に汗を取り込めるように設計した(図1)。吸い込んだ汗は速やかに流路内を移動していくので、新しい汗を連続的に取り込むことができる。抗菌性も備えており、長時間使用してもパッチ中に雑菌が増えることもない。シミュレーションソフトを用いて最適構造を計算し、実際に作製して評価した。24時間を超える連続モニタリングでも、汗が横方向に漏れずセンサーに取り込まれるよう設計されている(図2)。

図2

ヒトの発汗量を被験者のさまざまな部位にパッチを張り付けて測定した様子

ヒトの発汗量を被験者のさまざまな部位にパッチを張り付けて測定した様子。食用色素が汗の流路の入り口に置かれており、補足された汗が流路を進むにつれて、モニタリング開始後からの発汗量を青色(食用色素の色)で可視化できる。これを経時的に観察することで発汗速度を評価する。
(出典:筑波大学)

流路デザイン

スポンジが充填された微小流路に取り込まれた汗を食用色素で着色し、発汗量と発汗速度を可視化した。パッチの中心から青く着色された汗が流路を進んでいくのが見える(図2)。青く染まった部分の長さを計測したり、写真画像を処理することで発汗量を数値化できる。さまざまな状況(発汗量、時間分解能、計測時間、サイズ)に応じて、微小流路やスポンジ構造、汗を捕集する層のデザインを最適化できる。

電気的モニタリングシステム

電極をスポンジ層の下部に導入した。発汗量を目視あるいは写真画像解析で確認する方法に加え、発汗量および発汗速度を計測器で連続的にモニタリングするため。汗が電極を通過する際に発生するパルス信号の数と各パルス間の時間間隔を外部装置でモニターすることで、発汗量と発汗速度を算出することもできる。

バイオマーカー検出センサー

汗に含まれるpH、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどのバイオマーカーをモニタリングするため、特定のイオンに選択的に応答する電極を基板上にスクリーン印刷で形成した。専用機器と接続して得られるこれらの電極の応答は高感度かつ高精度で、多項目同時センシングを実現した。

ヒト皮膚張り付け試験

市販の医療用両面テープを使用して、人の額、首、肩、腹部、腕、大腿部、すね、足の甲など開発したデバイスを固定し,汗を分析した。パッチの有効性と計測の信頼性が確認された。

今後の展開:緊張やストレス、興奮などのメンタル状態の可視化も視野

本研究で開発した発汗センサーは、従来の液体の汗だけでなく、皮膚上ですぐに蒸散する不感蒸泄による発汗を素早く収集し、発汗量と速度をモニターできる。これにより、脱水状況の検知だけでなく、安静時の発汗と代謝、ストレス、さまざまな疾患状態との関連を調べるために活用できる。現代社会では、緊張やストレス、興奮などメンタル状態を連続的に可視化するニーズが高まっている。この新しい計測システムの導入により、これまで見えなかった関連性が明らかになる可能性がある。

さらに、この研究で開発されたウェアラブルデバイスは、デバイス内の流路やスポンジ構造を微調整することで、異なる水分量やモニタリング期間に対応できる。これは、ヒトだけでなく動物にも、そして汗以外の体液にも応用が可能。例えば、植物に適用して葉からの蒸散を可視化すれば、水やりのタイミングなどを最適化し、エコ農業やエコ社会の概念に貢献する潜在的な可能性も秘めている。

このように、本研究で開発した発汗センサーは、医学的、心理的な応用から環境保全まで幅広い分野での活用が期待され、生活の質を向上させる新しいツールとなることが期待される。

プレスリリース

微量の発汗を正確に連続測定可能なウェアラブルパッチを開発(筑波大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Nature-Inspired Superhydrophilic Biosponge as Structural Beneficial Platform for Sweating Analysis Patch」。〔Adv Sci (Weinh). 2024 Jun 13:e2401947〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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