スポーツ栄養WEB 栄養で元気になる!

SNDJ志保子塾2024 ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー
一般社団法人日本スポーツ栄養協会 SNDJ公式情報サイト
ニュース・トピックス

運動前の水分補給のメリットとデメリット パフォーマンス、心拍数、体温、有害事象のレビュー

運動前のハイパーハイドレーション(通常以上の水分摂取)によるパフォーマンスや生理学的反応、消化器症状への影響をシステマティックレビューで検討した結果が報告された。ハイパーハイドレーションによって深部体温と心拍数が低下し、疲労困憊に至るまでの時間が延長される可能性が示されている。一方、水分摂取量や摂取タイミングによって、異なる程度の消化器症状が発現する可能性もあるという。

運動前の水分補給のメリットとデメリット パフォーマンス、心拍数、体温、有害事象のレビュー

ハイパーハイドレーションの有用性を探るシステマティックレビュー

暑熱環境での長時間の運動で体内の水分が失われると、体温調節能が低下しパフォーマンスが低下する。これには、循環血漿量の減少に伴う心拍数の増加や熱放散の減少が関与していると考えられている。例えば、水分喪失により体重が1%減るごとに心拍数が最大4bpm程度上昇し、深部体温は0.15~0.25℃程度上昇するという報告がある。

これに対して運動前に、体内の水分量が通常レベルを上回るほど水分を摂取する「ハイパーハイドレーション」によって、その後の運動中の水分喪失による悪影響を抑制できると考えられている。ただし、純水を大量に摂取した場合は、抗利尿ホルモンの分泌が抑制され尿量が増え、効果は限定的となる。それに対して、グリセロールやナトリウムなどの血漿浸透圧を高める成分を含む液体サプリメントは、純水よりも体内水分貯留という点で効果的とされる。

ただし、グリセロール、ナトリウムを含む水分の過剰摂取によって、吐き気や下痢などの消化器症状を来すことがある。そのリスクは持久系スポーツで高く、運動時間が長く強度が強いほどハイリスクとなる。また、暑熱環境で発生リスクがより高いとする報告もある。暑熱環境はハイパーハイドレーションの必要性がより高いにもかかわらず、それを行いにくいという状況も生じてしまう。

また、グリセロールに関しては、2010年に世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency;WADA)が禁止リストに追加した。これは、グリセロール摂取によってドーピング検出のためのスクリーニング評価指標(ヘマトクリットやヘモグロビンなど)への影響が懸念されるための措置だった。しかしその後その影響は軽微であることがわかり、2018年に禁止リストから削除された。

一方、近年、スポーツ競技会が暑熱環境で行われることが増えてきた。そのためアスリートの暑熱環境への対策がより重要になってきている。アスリートのハイパーハイドレーションの影響を検討したシステマティックレビューは以前にも実施されているが、それはグリセロールの使用が一時的に禁止される前の2007年に発表されている。そこで本論文の著者らは、このトピックに関する新たな研究報告も対象とするシステマティックレビューを行い、知見のアップデートを試みた。

文献検索について

PRISMAガイドライン(システマティックレビューのガイドライン)に基づき、Medline Complete、SPORTDiscus、Embaseという3件の文献データベースを用いて、このトピックに関する文献の検索を2022年10月11日に実施。包括基準は、ヒトを対象に運動前のハイパーハイドレーションの影響をベースラインまたはプラセボ対照で比較検討した研究であり、査読システムのあるジャーナルに掲載され全文が利用可能な英語で執筆された論文。研究参加者は少なくともパフォーマンスレベル2(週に3回、5時間以上のトレーニングを行っているレクリエーションアスリート)以上であることとした。また、脱水の補正を兼ねて水分補給を行った研究は除外した。このほか、学会発表や総説なども除外した。

一次検索で7,403報がヒットし、重複削除後の6,896報を2名の研究者がタイトルと要約に基づき独立してスクリーニングを実施。抽出された56報を全文精査して採否を判断した。意見の不一致は他の2名の研究者を含め4名の討議により合意を得た。ハンドサーチにより追加した報告も含めて、最終的に37件の研究、38報の論文を解析対象として特定した。それらの研究の合計参加者数は合計403人(男性361人)。

ハイパーハイドレーションの有用性を確認

パフォーマンスへの影響

パフォーマンスへの影響は22件の研究で検討されていた。タイムトライアルで評価した研究のうち2件(範囲5.7~11.4%)、総作業量(kJ)で評価した3件(同4~5%)、疲労困憊に至るまでの時間で評価した5件の研究(14.3~11.4%)で、それぞれパフォーマンスの有意な向上が報告されていた。

生理学的反応

生理学的反応については、9件の研究が心拍数の低下(-3〜-11bpm)、8件の研究が深部体温の低下(-0.1~-0.8℃)を報告し、10件の研究が循環血漿量の増加(3.5~12.6%)という有意な影響を報告していた。

消化器症状

消化器症状は26件の研究で報告されており、各研究の水分摂取プロトコルが消化器症状の発現やその重症度に潜在的に関連していることが示された。報告されていた症状は、膨満感、下痢、嘔吐などだった。

この結果に基づき論文の結論は以下のように述べられている。

「運動前のハイパーハイドレーションは、血漿量の急激な増加に起因する心拍数と深部体温の低下により、一定の仕事量での運動中の運動パフォーマンスを向上させる可能性がある。異なる浸透圧補助剤(グリセロールとナトリウムなど)を組み合わせると、体液保持力が向上する可能性があるが、引き続き研究を進める必要がある。また今後の研究では、消化器症状の発現について信頼性の高い方法で評価すること、および、女性でのエビデンスの蓄積が求められる」。

キーポイント

最後に、論文中に「キーポイント」としてまとめられているエッセンスを紹介する。

  • 運動前のハイパーハイドレーションは、血漿量を急激に増加させると考えられ、一定の作業量での運動中に、対照条件と比較して疲労困憊に至るまでの時間を延長し、心拍数と深部体温が低下する可能性がある。
  • 運動前のハイパーハイドレーションを実施すると、一部の人では運動中に消化器症状が誘発されることがあり、症状の重症度は水分の摂取量、タイミングに関連している可能性がある。
  • 運動前のハイパーハイドレーションによるタイムトライアルのパフォーマンスへの影響は一貫性がなく、今後の研究の余地がある。

文献情報

原題のタイトルは、「The Effect of Pre-Exercise Hyperhydration on Exercise Performance, Physiological Outcomes and Gastrointestinal Symptoms: A Systematic Review」。〔Sports Med. 2023 Jul 25. doi: 10.1007/s40279-023-01885-2〕
原文はこちら(Springer Nature)

この記事のURLとタイトルをコピーする
熱中症予防情報

シリーズ「熱中症を防ぐ」

熱中症・水分補給に関する記事

志保子塾2024後期「ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー」

関連記事

スポーツ栄養Web編集部
facebook
Twitter
LINE
ニュース・トピックス
SNDJクラブ会員登録
SNDJクラブ会員登録

スポーツ栄養の情報を得たい方、関心のある方はどなたでも無料でご登録いただけます。下記よりご登録ください!

SNDJメンバー登録
SNDJメンバー登録

公認スポーツ栄養士・管理栄養士・栄養士向けのスキルアップセミナーや交流会の開催、専門情報の共有、お仕事相談などを行います。下記よりご登録ください!

元気”いなり”プロジェクト
元気”いなり”プロジェクト
おすすめ記事
スポーツ栄養・栄養サポート関連書籍のデータベース
セミナー・イベント情報
このページのトップへ