保健師は「乳幼児の保護者に対する栄養指導」という業務をどのように考えているのか?
保健師の業務は多岐にわたり、乳幼児の保護者への栄養指導も含まれる。保健師はその業務をどのように捉えているかを定性的研究により検討した論文が、ノルウェーから報告された。総じて保護者への栄養指導が重要な業務と認識されていること、その業務には栄養に関する知識が欠かせず、そのアップデートの必要性があることも認識されていたという。
人生の最初の1,000日にかかわる保健師の役割
妊娠から産まれた子どもの2歳の誕生日までの人生の最初の1,000日は、その子どもにとって極めて重要な時期と位置づけられており、この間に栄養のニーズを満たせないことは、肥満や非感染性疾患(non-communicable diseases;NCD)の生涯リスクと強く関連することが知られている。よって、公衆衛生の観点からは、人生の最初の1,000日への介入は、費用対効果の高い介入である可能性がある。
この研究が行われたノルウェーでは、各自治体の児童保健センターに勤務している保健師による乳幼児の保護者に対する栄養指導が行われている。しかし、保健師は当然ながらほかにも多くの業務を抱えている。そのような立場の保健師が、乳幼児の保護者への栄養指導という役割をどのように認識しているのかは、これまで明らかにされていない。今回紹介する論文は、以上を背景として行われた研究の報告。
半構造化インタビューによる定性的研究
この研究では、同国の中規模都市の児童保健センターに勤務している6名の保健師への半構造化インタビューが実施された。時期は2021年の1~2月という新型コロナウイルス感染症パンデミック中であり、インタビューはZOOMを用いて、インタビュアーと研究参加者の1対1で行われた。
研究参加者は全員女性で、保健師としての勤務歴は3~40年とばらつきがあった。看護師としては全員が10年以上の勤務歴を有していた。
インタビュー時の主な質問内容は、「児童保健センターで乳幼児の保護者に栄養や食事について指導することについてどう思うか?」、「乳幼児の保護者に接する際に食事が話題になる頻度は?」、「人生初期の食事の重要性に関する保健師の知識についてどう考えるか?」といった内容。インタビュー時間は平均47分(範囲33~54)だった。
保健師による保護者への栄養指導に関連する五つのテーマ
インタビューを通じて、5種類の主要なテーマと、13のサブテーマが浮かび上がった。論文ではそれぞれについて考察が加えられている。ここではその一部のみ紹介する。
テーマ1:乳幼児の保護者への栄養指導は、保健師の中心的な業務
大半の保護者が栄養に興味を持ち、話し合うことを期待している
保護者への栄養指導は保健師の業務の重要な部分を占めていると認識されていた。また、保健師の大多数は、保護者は一般的に子どもの食事と栄養に非常に熱心だと報告した。成長と発達を確実にするために子どもに何を食べさせるべきか質問されることが少なくないという。
ほほ毎回、食品と栄養が話題になる
すべての保健師は、子どもの食事や食習慣について保護者と話し合うことに多くの時間を費やしていた。それは子どもの栄養に限らず、保護者の好ましい食習慣のサポートも含まれる。ただし、それらの業務を、保健師としての多くの業務の中で行うことが困難だと述べる保健師も存在し、業務の優先順位づけが重要と認識されていた。
健康維持と疾患予防のために早期栄養介入が不可欠
早期栄養介入の重要性は強く認識されていた。中には、それが自分自身のモチベーションになっていると回答した保健師もいた。
テーマ2:保健師は保護者から信頼頼され、栄養相談に応じてくれる存在
多くの保健師は乳幼児の家族全体とよく知り合いになっており、彼らから子どもの健康、成長、発達についてアドバイスを求められる存在であると感じていた。
一方、栄養指導に対する保護者の積極性は、時間の経過とともに低下することがあると感じていた。生後1年間は非常に熱心だが、それ以降は子どもの食事に対する関心が薄れ、指導をあまり受け入れてくれなくなることを経験していた。また、第二子の子育てに関しては、第一子に比べて保健師のアドバイスを受けようとしない姿勢が目立つと報告された。
テーマ3:家族の状況も把握したうえで、食事と栄養に介入する必要がある
子どもの栄養に関する問題が、家族内の雰囲気に影響を与える可能性も報告され、食べることの楽しみと良好な食習慣の双方の促進が重要であると考えられていた。また、ときに、文化的背景からある食習慣に固執するケースがあり、それが食事・栄養のガイドラインと相いれない内容である場合は、指導が困難になるという。そのほかにも、子どもが普通体重の範囲にあるにもかかわらず、痩せすぎていると主張されることもあるとのこだ。
テーマ4:コミュニケーションスキルが必要
保健師は、乳幼児の栄養は保護者次第であると認識し、介入に際しては保護者の悩みの相談から始めるべきだと認識していた。また、保護者に対する栄養介入は、情報を明確かつシンプルに伝えることが重要だと考えられていた。そのような工夫にもかかわらず、一部の保護者が保健師のアドバイスを守らないことがあったり、経済的または精神的な理由で適切な栄養摂取が困難なケースに直面することもあると報告された。
これらの障壁によって、多くの保護者が栄養に関心を示すにもかかわらず、保健師が有益なコミュニケーションが難しいと感じる場面も多々あることがわかった。また、栄養に関するアドバイスに対して保護者が不快感を示し、互いに防御的な姿勢となって会話が行き詰まることもあるという。
以上より、保健師にとって栄養介入に必要な良好なコミュニケーションの確立が課題であることが浮き彫りになった。
テーマ5:保健師自身の栄養に関する知識のアップデートが困難
すべての保健師が養成過程において栄養学を履修していたが、その内容をはっきり記憶していると自信をもって言えないと回答した保健師もいた。また、栄養介入のための最新情報を継続的に習得することの困難さも指摘された。保健師の職業スキルを向上するために、栄養介入について履修する機会がより多くあるべきだとの意見も聞かれた。
この点について論文の著者らは、保健師の養成過程における栄養教育の優先順位と、保健師が実際に活躍する現場で求められる栄養指導へのニーズとの間に、乖離があるようだと述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「A qualitative study of public health nurses' perspectives and experiences on nutritional guidance for parents of infants and toddlers」。〔Matern Child Nutr. 2023 Jul 13;e13546〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)