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女性アスリートの月経に関するヘルスリテラシーを高めるための戦略

スポーツにおける月経に関するヘルスリテラシーを高めるにはどうすればよいかをまとめた、「Journal of Science and Medicine in Sport」に掲載されたレビュー論文を紹介する。著者らは、大半の女性アスリートやそのサポートスタッフが、月経がスポーツパフォーマンスに影響を及ぼし得ることを認識しているにもかかわらず、それについて話し合うことがなく、エビデンスに基づく推奨もほとんど存在しないと述べている。

女性アスリートの月経に関するヘルスリテラシーを高めるための戦略

ヘルスリテラシーと月経関連ヘルスリテラシー(MHL)

スポーツや運動科学の領域で女性対象の研究が少ないことがしばしば指摘されている。例えば最近のレビューでは、5,000報を超える論文で報告された研究のうち、女性アスリートに特化した研究は34%に過ぎないとしている。また、研究全体の31%に女性が含まれておらず、一方で男性が含まれていいない研究は6%だったという。

女性の月経がQOLを低下させることは古くから人々に広く認識されており、一般生活者においても就業や家事などの日常生活に支障が生じやすい。身体・精神機能を最大化して試合に臨む必要のあるアスリートであれば、月経の影響はより大きく現れるとも考えられる。かつ、その可能性に気付いている女性アスリートとサポートスタッフも少なくないであろう。ところが女性アスリートの月経に関連する情報は不足しており、情報が少ないことが、女性アスリートおよび、そのコーチや栄養士、理学療法士、心理学者などのサポートスタッフの「月経関連ヘルスリテラシー(menstrual health literacy;MHL)」の低さの一因となっている。

ヘルスリテラシーは、「良好な健康状態の維持、増進のために必要となる情報にアクセスし、理解し、活用する個人の意欲や能力を決定づける認知と社会的スキル」といった定義がされている。これに対して月経関連ヘルスリテラシー(MHL)は、「女性の月経周期に関する身体的、精神的、社会的な健康にとくに関係する、ヘルスリテラシーのサブコンポーネント」ということが可能。女性アスリート本人とそのサポートスタッフは、自分のMHLのレベルを正確に認識してそれを高める必要がある。

MHLの向上にはコミュニケーションが重要だが、女性アスリートは月経周期やホルモン性避妊薬(hormonal contraceptive agent;HC)の使用についてコーチなどと話すことに、抵抗感をもつことが多い。さらに、コーチやサポートスタッフの側にも、女性アスリートから月経関連の質問を受けた場合に、有意義で一貫性のある回答をする自信を有していないことが多いと報告されている。

以上を背景として今回紹介する論文は、「女性ホルモンの周期」という基礎的な解説に始まり、「スポーツにおける月経関連ヘルスリテラシー(MHL)」、「スポーツにおけるMHLを向上させるための推奨事項」と章立てたレビューとしてまとめられている。以下、一部を抜粋して紹介する。

女性ホルモンの周期

女性ホルモンの周期がトレーニングとパフォーマンスに及ぼす影響

月経周期の影響は、黄体期後期(月経出血の開始直前)と卵胞期初期(月経出血中)に最も強く現れやすい。ただし、あるナラティブレビューでは、対象とした35件の研究のうち20件は、月経周期はパフォーマンスに重大な影響を及ぼさないと結論付けていると報告されている。ただし、メタ解析からは、卵胞期初期は他の月経段階と比較して、運動パフォーマンスがわずかに悪い可能性があることが示された。別のメタ解析では、筋力パフォーマンスや筋力トレーニングに対して、月経周期の明確な影響はないと結論づけられている。

まとめると、月経周期とトレーニングやパフォーマンスとの関連の検討結果は一貫性が欠如している。その主な原因は、研究デザインのばらつきと、サンプルサイズの少なさ、およびデータ欠如などを含む方法論的な品質の低さと言える。

ホルモン性避妊薬(HC)の使用

女性アスリートにおけるホルモン性避妊薬(HC)の使用率は、競技や国によって異なる。最近の研究からは、57種類の異なる競技に参加している北欧2カ国(スウェーデンとノルウェー)のアスリートの63~68%がHCを使用しているとされている。

2016年のリオ五輪に出場したエリート女性アスリートでのHC使用率は47%であり、2021年の東京オリンピック/パラリンピックでは58%(195人中113人)という数値が報告された。このほかに、フットボール選手では33%という数値があるほか、インドからは持久力競技アスリートのHC使用率が12.5%と低い数値の報告がみられる。

スポーツにおける月経関連ヘルスリテラシー(MHL)

月経関連ヘルスリテラシー(MHL)の障壁となるコミュニケーションの不足

北欧2カ国の千人以上の女性アスリートを対象とした調査では、75%以上のアスリートが月経についてコーチと話し合わないと回答していた。それに対してドイツで行われたやはり千人以上の調査では、54%が自分の月経周期についてコーチと話し合っていた。ただし、そのことにメリットを感じていたのは45%にとどまっていた。

その他の報告も含めて要約すると、女性アスリートとサポートスタッフには、月経関連ヘルスリテラシー(MHL)について話し合うインタラクティブなスキルが必要と言える。そのMHLには、既存のリソースから月経関連の健康情報を抽出し、他者と連携してその情報の適用を検討するというスキルが含まれる。

スポーツにおけるMHLを向上させるための推奨事項

スポーツにおけるMHLを向上するための介入戦略を開発するには、体系的でエビデンスに基づいたアプローチが必要。介入マッピング理論に基づき、以下の六つのステップを反復することが一つの手法となるだろう。

  • ステップ1では問題を把握して何を変更する必要があるかを特定する、
  • ステップ2では介入戦略の目的と目標を明確に表す、
  • ステップ3ではMHLのための介入戦略の詳細を明示する、
  • ステップ4では介入戦略を一貫したプログラムとして計画する、
  • ステップ5ではそのプログラムに基づき実行する、
  • ステップ6ではプログラムの有効性を評価する。

論文の結論には、「女性アスリートとサポートスタッフの月経関連ヘルスリテラシー(MHL)は高いとは言えない。最も大きな問題は、MHLについてオープンに議論するための対人関係とコミュニケーションの欠如にあるようだ。また、MHLに関するより質の高い研究が必要とされる」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Improving menstrual health literacy in sport」。〔J Sci Med Sport. 2023 Jul;26(7):351-357〕
原文はこちら(Elsevier)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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