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体内の水分量は1日で1割が失われる 23カ国、5,604人の国際共同研究から世界初の予測式を構築

23カ国、5,604人を対象とする国際共同研究研究の結果を基に、ヒトの体の水分の代謝回転を予測する計算式が構築された。国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所、早稲田大学、京都先端科学大学、筑波大学の研究者らの研究の成果であり、ライフサイエンス領域のトップジャーナル「Science」に論文が掲載されるとともに、各大学のサイトにプレスリリースが掲載された。

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研究のポイント

  • ヒトの生命維持、体温調節、血液循環、身体活動には、水分が常に必要。ヒトの体に含まれている水分量は、乳児では身体の約60%、一般男性は約53%、一般女性は約45%であることがわかっている。しかし、水分の代謝回転については正確に把握することが困難だった。
  • 日本の研究グループは米国・英国・中国・オランダ等の研究機関の研究者と共同して、23カ国に住む生後8日の乳児から96歳の高齢者までの男女計5,604人を対象とする安定同位体を用いた調査を行い、ヒトの体における1日の水分の代謝回転を予測する式を世界で初めて構築した。
  • 研究により、乳児では平均的に体水分量の約25%、成人では約10%にあたる水分が、わずか1日で体外に失われることがわかった。ヒトは食糧を摂取しなくても最大数週間生存できるが、水の代謝回転はこのように非常に速いことから、水分が3日補給されないだけで生存が危うくなる。
  • さらに、高温・多湿な環境や高地においては水の代謝回転が速く、また、身体活動レベルの高い人やアスリート、妊産婦、筋量の多い人においても水の代謝回転が速いことが明らかとなった。個人の年齢、体格に加えて、環境やライフスタイルなどの要因は独立して水の代謝回転量に影響を及ぼしており、発展途上国に住む人の水の代謝回転は他の因子で調整しても速いことなどもわかった。
  • 本研究の成果により、多様な環境下での脱水や熱中症の予防、さらには脱水に伴う腎臓や心臓の障害などの予防のために必要な水分摂取量の目安を明らかにできることが期待される。

研究の背景と意義

水は生命維持に必要不可欠な物質および栄養素であり、ヒトを含む陸生動物は脱水を防ぐために水分を日常的に摂取する必要がある。ヒトは液体の水分や食品に含まれる水分を摂取することで、体水分量を維持している。身体における水分の出入りのことを、水の代謝回転と呼び、1日あたりの水の代謝回転量には個人差があって、また同じ人でも生活環境によって大きく変動することが知られている。ただし、これまでのほとんどの研究が数十人規模の実験によるものか、もしくは、アンケート調査などの主観的な方法に基づく疫学研究であったため、正しく全容を理解することが困難だった。

水の代謝回転について正しく理解することによって、高温多湿な環境下、肉体労働、スポーツ実施時、妊産期、乳幼児期、小児期、高齢期などにおいて、ヒトが生存するために必要な水分量を見積もることができるようになる。また、居住環境によっても水の代謝回転は異なる可能性があり、水の代謝回転を規定している因子を明らかにする必要があった。

本研究から明らかになったこと

実験の手法

水(H2O)は、水素(H)と酸素(O)からできている。水素にも酸素にも同位体(同一の原子番号を持つものの、中性子数が異なるため質量数が異なる)があり、その中でも放射能を持たず、安定して天然界に存在する同位体のことを安定同位体と呼ぶ。

天然界の水素の99%以上は質量数が1の水素(1H)だが、約0.015%は質量数が2の水素(2H)が含まれており、これは安定同位体。成人男性では平均40L程度の水を体内に保持していて、そのうち約600mLは、質量数が2の水素が結合した水。

体内に存在する2Hの約100分の1という、わずかな安定同位体(平均的な成人男性で約5mLの2H2O)を飲水すると、一時的に体内の2Hの値がわずかに高くなり、その後、数カ月もたたないうちに元の量に戻る。このわずかな変化を正確に捉えることができる装置が、安定同位体比質量分析計(IRMS)。

この手法を用いることで、身体の中の水分量(体水分量)を正確に評価できるだけでなく、元に戻る速度から、水の代謝回転を算出できる(図1)。

図1 水の代謝回転を算出する原理についての概念図

水の代謝回転を算出する原理についての概念図

(出典:国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所)

この研究では、この方法を23カ国に住む生後8日の乳児から96歳の高齢者までの男女計5,604人に用いて、体水分量や水の代謝回転率(体水分量に対して、1日に失う平均的な水分量がどれぐらいか)を測定した。

乳児は25%、成人は10%の水が1日で体外へ

図2は今回の研究で明らかになった水の代謝回転率を年齢別に示したもの。平均的には、ヒトの乳児では体水分量の約25%にあたる水分、成人では約10%にあたる水分が1日で体外に失われることがわかった。また、後期高齢者になると水の代謝回転率は有意に低下することも明らかになった。なお、男女では、ほとんど違いがなかった。

このように、ヒトは、非常に早い速度で身体から水分を失うため、水分補給ができないと3日生存するのも難しい。また脱水は腎臓や心臓の障害のリスクにもつながる。

図2 年齢と体水分の代謝回転率の関係(平均値)

年齢と体水分の代謝回転率の関係(平均値)

(出典:国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所)

個人差が大きいことも明確に示される

また、平均値としては図2のような結果となるが、実際には図3のように、大きな個人差があることも示された。成人では、1日の代謝回転が5%程度の人がある一方、20%もの水の代謝回転が生じる人がいた。

この変動要因については、小規模な研究でいくつか明らかになっていたものの、多人数を対象とした網羅的な研究が行われていなかったため、不明な部分が多く存在していた。

図3 年齢と体水分の代謝回転率の関係(個体値と平均値)

年齢と体水分の代謝回転率の関係(個体値と平均値)

(出典:国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所)

除脂肪体重、消費エネルギー量、身体活動と正相関、体脂肪率とは負の相関

男女別に水の代謝回転について、図4に示す。

男性は20~35歳で最も高値となり、平均4.2L/日。その後、加齢とともに低下して、90歳代では平均2.5L/日。女性では30~60歳で高値を示し、平均3.3L/日。その後は加齢とともに低下して、90歳代では平均2.5L/日。

図4 年齢と水の代謝回転との関係(性別の平均値)

年齢と水の代謝回転との関係(性別の平均値)

(出典:国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所)

年齢のほかに、除脂肪体重、総エネルギー消費量、身体活動レベルが水の代謝回転と正の相関を示し、体脂肪率とは負の相関を示した。

また、平均気温や居住地点の緯度は、水の代謝回転との間には曲線的な関係が認められた。具体的には、気温が高い場合や赤道付近で生活している人は水の代謝回転が高く、極端に寒い場合や北極圏で生活している人なども、1日に失う水分量はやや高いという結果だった。

季節との関連では、一般的な感覚どおりで、春に比べると暑い夏では代謝回転が平均0.7L/日程度高い値を示した。このほか、妊娠後期では1日あたり0.7Lほど多く、これは妊娠に伴う胎児の成長と体水分量の増加によるものと考えられる。また、出産後の授乳期には、母乳を与える影響などにより、0.3Lほど高い値を示した。

加えて、発展途上国、ならびに、肉体労働の多い人では高い水の代謝回転を示し、日常の身体活動やスポーツへの従事も水の代謝回転を高めていた。

構築された計算式

これらの結果は、生理学的に予測されていたものではあるが、今回の成果により、このような各種要因が水の代謝回転に与える影響度を明確にする、以下の式を構築することができた。

水の代謝回転(mL/日)=
[1076×身体活動レベル(座位中心は1.5、平均的な場合1.75、高い場合2.0)]+
[14.34×体重(kg)]+
[374.9×性(女性は0、男性は1)]+
[5.823×1日の平均湿度(%)]+
[1070×アスリート(非アスリートは0、アスリートは1)]+
[104.6×人間開発指数(HDI:先進国は0、中間的な国は1、発展途上国2)]+
[0.4726×標高(m)]-
[0.3529×年齢の2乗]+
[24.78×年齢(歳)]+
[1.865×平均気温の2乗]-
[19.66×平均気温(℃)]-
713.1

この式は世界中の国や地域で利用でき、その日の平均気温・湿度が分かれば、その人の身体から1日に失われる水分量を予測可能。

なお、注意すべきこととして、例えば20歳代男性で1日に平均4.2Lの水分が失われるからといって、1日4.2Lの水を飲む必要はない。体内でエネルギー代謝の過程で産生される水が約10%(約0.4L)あり、また、呼気などからも水分が少し体内に入るため、85%程度(約3.6L)が水分摂取の目安になり、さらに食品の多くには水が含まれていることから、「しっかりとした食事」をするだけで、かなりの水分を摂取することになる。

日本人が一般的な食事を3食とった場合、3.6Lの水分うち約半分を食事から摂取していることになり、「液体としての水分補給」の必要量は1日約1.8Lとなる。20歳代女性では1日約1.4Lだ。平均的な人の場合、この程度の量を水やお茶、汁物、牛乳などからとるとよいかと思われるが、上述の式からわかるように、気温や湿度、運動量、年齢、体格などによっても異なり、夏などの暑熱環境下や運動・肉体労働中にはより多くの水分補給をする必要がある。

なお、疾病や死亡などのリスクとの関連については、今後のさらなる研究が必要。著者らは、「本研究の成果により、多様な環境下での脱水や熱中症の予防、さらには脱水に伴う、腎臓や心臓の障害などの予防のために必要な水分摂取量の目安を明らかにすることが期待される。さらに、本研究で得られた予測式は、各国における災害・有事の際の飲料水や食糧の確保の戦略形成、世界における人口増加・気候の変動による水不足の予測モデル構築に役立つと考えられる」と述べている。

プレスリリース

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
早稲田大学
筑波大学

文献情報

原題のタイトルは、「Variation in human water turnover associated with environmental and lifestyle factors」。〔Science. 2022 Nov 25;378(6622):909-915〕
原文はこちら(American Association for the Advancement of Science)

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