長距離ランナーの食習慣は距離によって異なるのか? 10km、ハーフ、フルマラソンで比較
長距離ランナーが参加しているレースによって、食事摂取状況が異なるか否かを検討した結果が報告された。全体として、レース距離よりも年齢の影響のほうが大きい傾向が認められたが、野菜やタンパク質の摂取量には、参加しているレースの距離による有意な違いが検出されたという。
NURMI研究ステップ2の解析
持久系アスリートは、一般集団と比較して食習慣の多様性(摂取する食品群、頻度、量などの違い)が高いことが知られている。また、長距離ランナーは短距離ランナーに比べて食事・栄養関連の健康行動の遵守率が高いとの報告がある。ただしその一方で、体が軽いほうが走行には有利との考え方から、推奨される栄養素摂取量を満たしていないアスリートも少なくない。
これまでに長距離ランナーの食事調査は多く報告されてきている。ただ、近年はさまざまなレース距離の大会が開催されており、走行距離によってランナーの食習慣の傾向が異なる可能性を考慮した研究は少ない。本論文の著者らは、このような視点で、長距離ランナーの食事摂取状況を検討した。研究には、ドイツ、オーストリア、スイスの研究者が中心になり、持久力と食事の関連についてさまざまなエビデンスを収集する目的で実施している「栄養とランニングハイマイレージ(Nutrition and Running High Mileage;NURMI)研究」のステップ2のデータを用いられた。
オンラインアンケートで食事摂取状況を調査
NURMI研究ステップ2では、英語またはドイツ語で公開されたオンラインアンケートを実施。ソーシャルメディアやランニング関連雑誌、イベントなどを通じて回答協力を呼び掛けた。適格基準は、18歳以上、過去2年間で長距離イベントに参加して完走している、書面でのインフォームドコンセント、アンケート回答に欠落がない――など。317人が回答し、そのうち解析対象としたのは211人だった。除外されたものの除外理由は、BMIが30以上(1人)、炭水化物エネルギー比が推奨されている50%を下回る(25人)、信じがたい回答(例えばレースを通じて一切、水分を摂取しないなど)を含む(34人)、適格基準を満たさない(46人)など。
食事摂取状況は、成人ドイツ人用に開発された面接による健康調査票(German health interview and examination survey for adults;DEGS)の食物摂取頻度調査(food frequency questionnaire;FFQ)である「DEGS-FFQ」を用いて把握した。DEGS-FFQでは食品全体を17の食品群に分けて摂取量を評価する。
全体的には年齢の影響が強いものの、一部の食品群の摂取傾向に有意差
解析対象者211人は、年齢中央値が38歳(四分位範囲18)で、10kmランナーが74人(年齢中央値36歳、女性74.3%)、ハーフマラソンが83人(同37歳、55.4%)、マラソンまたはウルトラマラソンが54人(43歳、37.0%)だった。年齢はマラソン/ウルトラマラソンが他の2群より高かったが有意ではなかった(p=0.058)。女性の割合は走行距離が短い群のほうが高いという有意差がみられた(p<0.001)
その他、BMI、教育歴、婚姻状況、国籍、および食事スタイル(雑食・ベジタリアン・ビーガンの割合)には有意差がなかった。
野菜やタンパク質、砂糖の摂取に有意差
DEGS-FFQで評価した17の食品群のうち、参加しているレースの距離で摂取頻度に有意差がみられたのは、「野菜」と「総タンパク質」だった。
野菜は10km群が34.78±12.99で最もスコアが高く、ハーフマラソン群が30.20±11.80でそれに続き、マラソン/ウルトラマラソン群は28.85±11.27で最低だった(p=0.012)。また、総タンパク質は同順に、42.40±13.82、36.14±14.21、39.49±13.42であり、10km群が最多、ハーフマラソン群が最小だった(p=0.016)。
次に、ハーフマラソン群を基準として比較した解析では、10km群は「果物と野菜」の摂取が有意に多く、マラソン/ウルトラマラソン群は「砂糖」の摂取が有意に少ないことが示された。
年齢と相関する5つの食品群
レース距離にかかわりなく、年齢とDEGS-FFQの評価結果との関連を解析すると、果物と野菜(β=-2.46,p=0.003)、植物性タンパク質(β=-2.10,p=0.029)の摂取は高齢のランナーほど少なく、未加工肉(β=1.89,p=0.027)、加工肉(β=1.65,p=0.022)、卵(β=1.19,p=0.040)の摂取量は高齢のランナーほど多いという有意な関連が認められた。ただし、NURMI研究ステップ2関連の他の報告からは、本研究において、若年層にベジタリアンやビーガンの割合が高かったことが記されており、上記の関係は一部それを反映したものである可能性も考えられる。
これらの結果を基に著者らは、「長距離ランナーの食事パターンは、参加しているレースの距離の影響をあまり受けていないようであり、その他の因子、例えば性別や年齢、トレーニングなどの影響を受けている可能性がある。今後はより大きなサンプルでの検討が望まれる」としている。
文献情報
原題のタイトルは、「Dietary Intake of Recreational Endurance Runners Associated with Race Distance—Results from the NURMI Study (Step 2)」。〔Nutrients. 2022 Sep 7;14(18):3698〕
原文はこちら(MDPI)