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叫ぶこと(シャウト)は自らの運動指令によって脳を活性化させ最大筋力を増大させる

最大努力で持続的に筋力を発揮している最中、シャウトすると、脳(運動システム)の活動状態が高進し、随意筋力が増加することがわかった(DOI: 10.1038/s41598-022-20643-4)。

叫ぶこと(シャウト)は自らの運動指令によって脳を活性化させ最大筋力を増大させる

何を調べたのか

最大随意筋力が、シャウト、(催眠)暗示、周囲からの掛け声、ピストル音などのさまざまな要因で変化することから、最大随意筋力発揮時には内的な抑制または抑制機構が作用しており、それらが心理的要因と密接に関係しているとの仮説が提案されている(Ikai & Steinhaus, 1961) 。いわゆる、「心理的限界」の概念創出のきっかけとなった研究と思われる。しかし、これらの内的な抑制または抑制機構についてはよくわかっていない。

ハンマー投げなどの投擲競技やウエイトリフティングなどで、リリースや持ち上げる瞬間に大きな声をあげる選手をよく目にする。上述の仮説にしたがうとこれらのパフォーマンス向上は、内的な抑制または抑制機構の作用の抑制または除去によると考えられるが、本当にそうだろうか?また、このようなシャウトの筋力増強効果は、疲労をともなう持続的な力やパワー発揮でもみられるのだろうか?

本研究ではこれらの二つの問いにこたえるために、疲労をともなう持続的な最大筋力発揮中のシャウトが筋力と運動システム活動状態に与える影響を調べた。

どのように調べたのか

シャウトの運動システム活動状態に与える影響は、疲労をともなう持続的な最大随意収縮(MVC)中の(左)一次運動野(M1)への経頭蓋磁気刺激(TMS)による誘発筋電図(MEP)と(右)握力により調べられた(健常男子16名;年齢20.1±1.6歳)。

2分間の持続的なMVCのタスクでは、同一被験者内で、シャウト有無の最大随意筋力とMEP等に与える影響を調べるために被験者を無作為に2群に分け、一方のシャウトを奇数回に、他方を偶数回におこなうこととした。いずれの群もシャウトはMVC以後におこなわれている。また、左M1へのTMSはシャウト有無にかかわらず12秒毎に(奇数回と偶数回のシャウト実施時点に合わせて)10回与えられた。なお、シャウト自体の運動指令が運動システムに到達していることは、筋収縮をともなわないシャウト中の左M1へのTMSによるMEPにより事前に確認されている。

シャウトと火事場の馬鹿力

これまでに、シャウトが疲労をともなわない短時間の最大筋力を増加させ(Ikai & Steinhaus, 1961)、それには皮質(M1)内抑制の低減をともなうことがわかっている(DOI: 10.1038/s41598-021-97949-2)。「火事場の馬鹿力」で大声を発して力をだす姿が目に浮かぶ人も少なからずいるではないだろうか。私たちの脳は潜在的にシャウトの効果を知っているのかもしれない。

何がわかったのか

最大努力で持続的に力を発揮しているときにシャウトすると、皮質(M1)抑制が一時的に疲労前の状態までに低減され、発揮筋力が増加することがわかった。これは、持続的な最大努力中のシャウトの筋力増強効果が、シャウト自体の運動指令のM1への追加的な入力による運動システム(M1)活動状態の高進と関連していることを示す最初の客観的証拠である。つまりシャウトによる最大随意筋力増加の直接原因が、心理的な要因の抑制または除去(Ikai & Steinhaus, 1961)というよりはむしろシャウトすること自体によってもたらされるのM1への追加的な運動指令の入力によるM1活動の高進であるというわけである。

疲れているときほど、シャウトの筋力増強効果は大きい?

短時間のシャウトの筋力増加の程度と(疲労をともなう)持続的なMVCの筋力増加の程度は、それぞれ約15%と約30%であった。

この違いは、持続的な最大努力により発生した末梢および中枢の疲労の影響ではないかとの考察が加えられている。したがって、シャウトの筋力増強効果は運動の持続時間が長く疲労しているほど大きくなるのかもしれない。しかし、本研究では持続的な最大努力中のシャウトの皮質(M1)抑制低減の程度の経時的変化の詳細はわからない。

なお、著者らは、本研究で得られた結果が、他の集団での検討でも再現されるのかなどを、より大きなサンプル数で確認する必要があるとしている。

文献情報

原題のタイトルは、「Shouting strengthens voluntary force during sustained maximal effort through enhancement of motor system state via motor commands」。〔Sci Rep. 2022 Sep 28;12(1):16182〕
原文はこちら(Springer Nature)

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