熱中症を予防! 尿比色で脱水・熱中症のリスク評価、給水量の目安も示した尿指標チェックシートを公開
尿の色から脱水レベルを自己評価し、かつ補正に必要な給水量の目安も示した指標が開発され、このたび『スポーツ栄養Web』で公開された。神奈川県立保健福祉大学の鈴木志保子氏(一般社団法人日本スポーツ栄養協会-SNDJ- 理事長)らが、消防職員の熱中症対策の確立のために行った運動負荷を伴う検討の結果から作成したもので、スポーツ中の熱中症予防にも応用できる可能性がある。
脱水リスクの尿指標、および対策のための水分補給目安量を併記
運動中の熱中症を防ぐために重要なことの一つとして、適切な水分補給による脱水の予防が挙げられる。運動時の脱水予防に関しては、国際オリンピック委員会(International Olympic Committee;IOC)が、11段階の比色指標を公表しているが、これを日本人に適用可能か否かは検討されていない。また、この指標において、脱水時の対応に関しては「尿の色が濃い場合には、より水分補給を行う必要がある」との記載にとどまる。
一方、本論文の著者らの先行研究から、消防職員が完全防火着装状態で30分間の運動を行った場合、2%弱の脱水を生じることが明らかになった。2%の脱水では、めまいや吐き気などを呈することがあり、さらに運動パフォーマンスが低下したり、熱中症のリスクが高くなる。火災現場が高温多湿であり、かつ完全防火着装は体熱の放散を妨げ、熱中症リスクはさらに上昇する可能性がある。
これらを背景に、消防職員が排尿時に色を見比べ、自己判断で脱水リスクを判断し適切な水分補給を行い、熱中症対策をとるための尿指標を作成することを目的に本研究が行われた。
現役男性消防署員を対象に、完全防火着装と軽装で運動負荷
検討対象は、神奈川県内のある都市の消防局に勤務し、消火任務等に従事している現役の男性消防職員85名で、年齢は35.8±9.4歳、BMI23.1±2.3、体脂肪率13.5±3.8%。産業医から本研究への参加が認められた者に限定した。
85名中79名は、完全防火着装、他の6名は軽装(Tシャツと半ズボン)とし、以下に示す方法で運動を負荷し脱水を評価した。
■ 運動負荷の内容と脱水量・脱水率の評価法
実験は、2009年6月下旬~9月下旬の9日間に実施した。実験日の前日は、尿の色調に影響を及ぼす可能性のあるビタミン剤、サプリメント、果実、および医薬品の使用を禁止。実験日は運動負荷開始3時間前から絶食、水のみ摂取可とし、2時間前に500mLの水分を摂取させ、これにより運動負荷に耐えられる体水分量を得たものと考えた。
メディカルチェックに続き、1回目の体重測定を行い、排尿。さらに2回目の体重測定を行った後、完全防火着に着替え(軽装群は軽装のまま)、屋外に移動して運動負荷を施行した。
運動負荷は、15分を1単位とし、1単位行う条件、2単位行う条件、3単位行う条件という、3つの条件を設定。1単位の運動は、3Metsの普通歩行3分間、4Metsの速歩3分間、6Metsのジョギング3分間、6Metsの階段昇降3分間、4Metsの速歩3分間で構成し、計1.15Mets・時とした。完全防火着装群では全員がこの3条件の運動負荷を全て実施した。ただし、3単位を負荷する条件では、3回目の階段昇降は疲労による転落等の危険を考慮し、同じ運動強度でのジョギングに変更。また、血圧高値など健康上の懸念が生じた場合は、3単位目の負荷は中止した。軽装群については、3単位を負荷する条件のみ設定した。
運動負荷終了後に3回目の体重測定、排尿、4回目の体重測定を実施。計4回の体重測定の結果から、脱水量と脱水率、尿量を以下により判定した。
- 2回目の体重測定 - 4回目の体重測定 = 脱水量(kg)
- 脱水量 ×(100 ÷ 2回目の体重測定)= 脱水率(%)
- 1回目の体重測定 - 2回目の体重測定 = 運動前尿量(kg)
- 3回目の体重測定 - 4回目の体重測定 = 運動後尿量(kg)
尿の色調の評価法
運動負荷前後の排尿時に、各自が採尿カップに中間尿を採取。劣化や変色のない条件で保存し、標準色票(日本規格協会製)を基準に、1~6の6段階の色調表を作成した(実際の色調は論文中の図2を参照)。
尿サンプルの色調の評価に際しては、紙コップに1cmの深さに注いだ尿の色と尿色調表とを比較し、最も近いものの数値を記録した。また、分光光度計により吸光度を計測した。
尿サンプルの色調を6段階に分類すると、脱水率と有意に関連
得られた尿サンプルは、合計406件だった。これらのうち、アルコールやサプリメント等の摂取の影響が残存している状態で実験参加した可能性のある40件を除外し、366件について、分光光度計による吸光度の測定結果との相関をみると、有意な正相関が認められた。
外れ値を除外するため、吸光度の10パーセンタイル以下と90パーセンタイル以上を除いて残った291件を、最終的な解析対象とした。これを前記の6段階の色調表に基づいて分類すると、最も薄い色調の色1が22件、色2が58件、色3が71件、色4が82件、色5が55件であり、最も濃い色調の色6は3件となった。
これら6段階の分類は、体重変化から算出した脱水率と関連がみられ、色調が濃いほど脱水率が高く、また尿量は少なかった。
脱水率と尿量からリスク分類し、適切な水分摂取量の目安を示す
色1の尿サンプル22件の脱水率の中央値は0.00%であり尿量も十分で、脱水のリスクは「なし」と考えられた。色2のサンプルは脱水率中央値0.00%だが尿量がやや少ないため、脱水リスクは「低い」と分類。
同様に色3~6についても、脱水率と尿量から脱水リスクを判定。加えて、脱水の補正のために必要な、適切な水分摂取量の目安も含め、次のような尿指標を作成した(実際の指標は論文中の図6を参照)。
色指標
- 色1:脱水リスク「なし」。対策;こまめな水分補給を続ける
- 色2:脱水リスク「低い」対策;予防として水分補給量を追加する
- 色3:脱水リスク「注意」対策;活動前に体重の約1%(500ml~1L)の水分補給が必要
- 色4:脱水リスク「警戒」対策;活動前に体重の約1.5%(1L~1.5L)の水分補給が必要
- 色5・6:脱水リスク「危険」対策;活動前に体重の約2%(1.5L~2L)の水分補給が必要
日本スポーツ協会は、熱中症予防のために運動による体重減少が2%を超えないようにする必要があるとしている。そのため、この尿指標では脱水率が2%付近である色5・6は脱水のリスクを「危険」とした。著者らは「熱中症に至らないまでも、脱水率の上昇は作業効率の低下や、判断力の低下などを引き起こす恐れがある。安全に日常生活を過ごすためにも、脱水率を2%以下に抑える必要があり、本指標の色4までが許容範囲であると考えられる」と述べている。
尿指標チェックシート(PDF)のダウンロードはこちらから
文献情報
原題のタイトルは、「脱水・熱中症予防のための尿を用いた指標の作成について」。〔神奈川県立保健福祉大学誌 : human services 17(1), 49-58, 2020〕
原文はこちら(神奈川県立保健福祉大学機関リポジトリ)
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