栄養で老化スピードや生物学的な年齢はどのくらい変わるのか? 系統的レビューの結果
生物学的年齢と栄養の関連におけるバイオマーカーの利用について、これまでの研究のシステマティックレビューを行った結果に基づく総説論文が、米国栄養学会の「Advances in Nutrition」に掲載された。栄養素摂取状況とテロメア長、炎症、認知機能などの関連が総括されている。要旨をピックアップして紹介する。
なぜ、老化スピードは人によって違うのか?
日本では高齢化の進展がしばしば話題になる。しかし高齢化が進んでいるのは日本に限らず、世界的な現象だ。世界人口の平均余命は2000年から2015年の間に平均5年増加したという。今日、大半の人は60年以上生きることを期待できる。世界保健機関(World Health Organization;WHO)は、2030年までに世界の6人に1人が60歳以上になり、2050年までに60歳以上の人口が2倍になり、80歳以上は3倍になるとの予測を立てている。
とは言え、すべての人が同じように老化するわけではなく、若くして亡くなる人があれば長生きする人もいる。また、出生からの経過年数である「実年齢」と、加齢に伴う身体機能の低下を表す「生物学的年齢」は異なり、実年齢が同じでも、若々しい人とそうではない人、健康リスクの高い人と低い人がいることを、多くの人が当然のことのように受け入れている。しかし、なぜそのような差が生じるのだろうか。
生物学的な老化には、テロメア長の減少、エピジェネティックな変化、タンパク質恒常性の喪失、ミトコンドリア機能障害、幹細胞の枯渇などが関与しており、これらの評価に基づいて推定した生物学的年齢は、実年齢よりも正確に生命予後を予測可能とされている。生物学的な老化を抑制するためにWHOは、「健康的な行動を維持し、とくにバランスの良い食事をとり、習慣的に身体活動を行い、タバコは吸わないこと」を推奨している。この推奨は一貫しており長年かわっていない。ところが、生物学的老化を遅らせる栄養の役割は、いまだ明確に説明されていない。
一方、基礎研究からは、食事習慣が例えば多くの副次的作用をもつ血糖降下薬のメトホルミンなどよりも、生物学的老化をより強力に抑制する可能性が示されており、抗加齢のために栄養が重要であることが明らかになっている。このような状況を背景として本論文の著者らは、栄養と生物学的老化との関連に関する現在のエビデンスの確認を目的として、既報文献を対象とするシステマティックレビューを行った。
高齢者対象の栄養と生物学的年齢に関する研究を検索
システマティックレビューとメタアナリシスのガイドライン(PRISMA)に則して、MEDLINE、CINAHL、およびCENTRALを用い、2021年9月30日までに公開された論文を対象に関連論文を検索。適格条件は、高齢者(平均年齢65歳以上)の栄養と生物学的年齢との関連を検討した、無作為化比較試験、クロスオーバー試験、クラスター研究、パイロット研究などであり、言語や発行日は制限しなかった。
一次検索で1,245報がヒットとし、52の重複後の1,193報をタイトルと要約に基づきスクリーニングして1,146報を除外。残った34報を全文精査した結果、13件の研究報告が抽出された。
13件の研究の特徴
13件の研究は、8カ国・地域(オーストラリア、インド、イタリア、ポーランド、スペイン、タイ、米国、台湾)で実施され、合計5,043人が参加していた。また11件は高所得国で実施されていた。
報告年次を制限していなかったにもかかわらず、大半の研究が比較的新しく、8件は2019年以降に報告されていた。研究デザインについては、RCTは1件のみで、9件は横断研究、その他はケースコントロール研究、非ランダム化介入研究などだった。
研究参加者の平均年齢は71.7歳で、女性が56%を占め、また白人が49%であり、平均BMIは26.6と過体重の範囲にあった。また、基礎疾患として高血圧64%、脂質異常症54%がみられ、6人に1人は糖尿病を有していた。習慣的飲酒者は4分の1強、喫煙者はほぼ5人に1人だった。
テロメア長や認知機能と栄養との関連が示されている
テロメア長との関連
生物学的年齢のバイオマーカーとしてテロメア長を評価した研究が7件存在した。
それらの研究からは、栄養素としては、カルシウム、ビタミンD、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、および食事の炎症指数が低いことによる、テロメア長の保護効果が報告されていた。反対に、アラキドン酸、加工食品、炎症性化合物の摂取は、テロメア長が短いことと関連していた。
認知機能との関連
また、5件の研究は、血漿中の栄養バイオマーカーと認知機能との関連を検討していた。HDL-コレステロール、ビタミンB、C、D、E、ω-3脂肪酸、ω-6脂肪酸、リコピン、カロテノイドによる認知機能の保護効果が報告されていた。
栄養素摂取量との関連を検討した研究からは、ビタミンD、カルシウム、分枝鎖アミノ酸による認知機能に対する保護効果、および炎症指数の低い食事による保護効果が報告されていた。
反対に、トランス脂肪酸、アラキドン酸、加工食品、その他の炎症性化合物の摂取、および、血漿フィブリノーゲンのレベルは認知機能の低下と相関していた。これらのほか、地中海式食事スタイルとエピジェネティックな抗加齢効果との関連を報告した研究が存在した。
結論として、生物学的老化は炎症を惹起する食事スタイルと正の関連が認められた。ただし、解析対象となった研究の一部は、食事以外のライフスタイル関連交絡因子を調整しておらず、解釈が制限された。著者らは、「将来の研究では交絡因子を考慮するとともに、さまざまな栄養素の組み合わせによる相乗効果や用量反応関係を評価する必要がある。そのことによって、生物学的加齢の栄養マーカーを確立でき、それらを用いたスクリーニングによって、アンチエイジングのための『精密栄養療法』へとつながっていく」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Contribution of Biological Age-Predictive Biomarkers to Nutrition Research: A Systematic Review of the Current Evidence and Implications for Future Research and Clinical Practice」。〔Adv Nutr. 2022 May 24;nmac060〕
原文はこちら(Oxford University Press)