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アスリートの睡眠不足がスポーツ脳震盪リスクや神経認知機能低下と有意に関連

睡眠時間の少ないアスリートはスポーツ脳震盪後に症状が持続しやすく、神経認知機能が低いことを示した研究結果が米国から報告された。著者らは、アスリートの睡眠障害のスクリーニングの重要性を指摘している。

アスリートの睡眠不足がスポーツ脳震盪リスクや神経認知機能低下と有意に関連

睡眠不足はスポーツ脳震盪のリスクか?

米国では推定50万人の学生アスリートが陸上競技を行っており、その約6%がスポーツ脳震盪(sport-related concussion;SRC)を経験すると報告されている。近年、スポーツ脳震盪では記憶障害、意識消失などが一過性に生じるだけではなく、種々の慢性症状が持続するリスクのあることが注目されている。

一方、睡眠時間が少ないことや睡眠の質の悪さがアスリートの健康面とパフォーマンスに影響を与えることも注目されている。アスリートの中でもとくに学生アスリートは、学生であるがために本分の学業を優先せねばならず、トレーニングとの両立にはしばしば睡眠を犠牲とすることが多い。またこの世代の若者に特有のストレスが睡眠を妨げることもある。

睡眠不足がスポーツ脳震盪のリスクを高める可能性は既に指摘されている。ただし、それを証明した研究はほとんどみられない。これを背景として本論文の著者らは、米国の大学生アスリートを対象とする研究を行った。

睡眠不足でスポーツ脳震盪の有病率が2倍に

この研究は、2002~2019年に実施されたスポーツ脳震盪に関する調査研究の参加者全員のデータを解析するという手法で実施された。研究参加者は、NCAA(National Collegiate Athletic Association)ディビジョンIに所属して、陸上競技を行っている学生アスリート1,057人。ベースライン時点で睡眠時間について聞き取り調査をした結果、全体の平均は7.02±1.29時間だった。この全体平均よりも睡眠時間が長かった学生アスリートを「十分な睡眠」をとっていると定義。一方、全体平均より1標準偏差以上、睡眠時間が少ない学生アスリートを「睡眠不足」と定義した。

睡眠時間が中等度(全体平均より1標準偏差マイナス~全体平均の間)の群を除外し、最終サンプル数は614人(男子455人、女子159人)となり、512人は睡眠十分、102人が睡眠不足と分類された。この2群間で年齢や性別(男子学生の割合)、神経心理学的スコア(Wechsler Test of Adult Reading;WTAR)を含め、評価した指標に有意差はみられなかった。

脳震盪直後の評価と認知テスト(Immediate Post-Concussion Assessment and Cognitive Testing ImPACT)などを用いて、記憶困難、集中力低下、吐き気、めまい、光や騒音に対する過敏性、感情のバランス、倦怠感などを評価し、睡眠時間との関連を検討。その結果、睡眠時間が十分な群でスポーツ脳震盪の症状を有するのは8.79%であるのに対して、睡眠時間が不十分な群では15.69%と、ほぼ2倍の有病率であり、有意に高かった(p=0.03)。

睡眠不足でスポーツ脳震盪の症状のあるアスリートは神経認知機能が低下している

次に、睡眠不足と神経認知機能との関連を検討。スポーツ脳震盪の症状が持続している睡眠不足の群は、スポーツ脳震盪の症状と睡眠不足のない群に比較して、神経認知機能が有意に低下していることが明らかになった(p=0.02)。

ただし、睡眠不足全体を睡眠不足のない群と比較すると、自覚症状に関しては、スポーツ脳震盪の症状が持続しているか否かにかかわらず、睡眠不足群のほうが多くの自覚症状を報告していた。

睡眠不足の有無、および、スポーツ脳震盪(SRC)症状の有無で比較した、多変量分散分析(MANOVA)の結果の詳細は以下のとおり。

睡眠不足でSRC症状のある群と、睡眠不足でSRC症状のない群の比較

認知機能(p=0.01)と身体機能(p=0.04)は後者のほうが有意に優れていた。感情面(p=0.06)、睡眠(p=0.06)は、わずかに有意水準に至らなかった。頭痛(p=0.09)、および総合スコア(p=0.22)は有意差がなかった。

睡眠が十分でSRC症状のある群と、睡眠不足でSRC症状のある群の比較

認知機能(p=0.001)、身体機能(p=0.001)、感情面(p=0.03)、睡眠(p<0.001)、頭痛(p=0.001)、および総合スコア(p=0.001)のすべてについて、前者のほうが有意に優れていた。

このほかに、神経認知機能の詳細な検討から、睡眠不足やスポーツ脳震盪(SRC)症状の有無により、注意/処理速度に有意差が認められた。

具体的には、睡眠不足でSRC症状のある群と、睡眠不足でSRC症状のない群の比較では、後者のほうが有意に注意/処理速度が優れていた(p=0.003)。また、睡眠が十分でSRC症状のある群と、睡眠不足でSRC症状のある群の比較では、前者のほうが有意に注意/処理速度が優れていた(p=0.007)。

アスリートの睡眠不足のスクリーニングが必要ではないか

これらの結果から著者らは、結論を以下のようにまとめている。

「本研究は全体として、不十分な睡眠がスポーツ脳震盪の症状が持続するリスクを高め、アスリートに将来的な影響を与える可能性があることを示している。さらに、睡眠不足で注意/処理速度が低下しているアスリートも、スポーツ脳震盪の影響が長引くリスクが高くなる。アスリートの睡眠障害のスクリーニングによって、早期介入すべき対象の抽出が可能となり、スポーツ脳震盪の潜在的な影響が生ずるリスクの低減に貢献するのではないか」。

なお、本研究の限界点としては、睡眠時間の把握にゴールドスタンダードである睡眠ポリグラフ検査を用いず、研究参加者本人からの報告によっていること、NCAAディビジョンIに所属している主として白人男子学生のみでの検討であることなどを挙げ、「より多様な集団での検討が必要とされる」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Prospective Implications of Insufficient Sleep for Athletes」。〔J Athl Train. 2022 May 27〕
原文はこちら(National Athletic Trainers' Association / Allen Press)

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