真夏の試合期の脱水による認知機能への影響は、夜間安静時には認められず U-18女子サッカー選手での検討
国内の若年女子サッカー選手を対象に、夏季のトーナメント参加中の脱水と認知機能への影響を8日間連続で調査した結果が報告された。夜間安静時の認知機能には、脱水の有無にかかわらず有意な影響は観察されなかったという。東洋大学生命科学部生体医工学科の小河繁彦氏らの研究の結果であり、「Translational Sports Medicine」に論文が掲載された。
女性アスリートは暑さに弱い?
近年、女子サッカーの人気が世界的に上昇しており、国内でも注目度の高いスポーツの一つとなっている。サッカーには持久力や技術力以外に、高い認知機能に裏打ちされた瞬時の反応が要求される。暑熱環境やそれに伴う脱水が、認知機能を低下させるとする報告があり、また、女性は男性より暑熱負荷に対する耐性が低いとする報告がある。さらに、サッカーのプレー中の認知プロセスは、女性と男性とで異なることも示唆されている。ただし、暑熱環境の女子サッカー選手の認知機能への影響を調査した研究は少なく、詳細は不明であった。
これを背景として小河氏らは、2021年8月に開催された、XF CUP日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)の参加者を対象とする以下の検討を行った。
脱水の有無で夜間安静時の認知機能には有意差なし
この研究の対象は、XF CUP2021に参加した17人の女子選手であった。年齢は17.2±0.7歳で、疾患罹患者、処方薬またはサプリメント服用者は除外されている。トーナメントの初戦の前日から第5試合終了までの計8日間にわたり、認知機能と脱水の有無を評価した。
認知機能は試合またはトレーニング後、宿泊地のホテルにて夕食を済ませた1~2時間後の安静時、ホテルの室内にて行った。評価には「Go/No-Go課題」を用いた。これは、パソコンの画面上に表示される色の指示に従って、できるだけ速く反応(マウスのクリック)する、または反応しないという判断をするというもの。反応速度と精度(エラーの少なさ)とによって認知機能が評価される。
脱水の有無は体重と尿比重により評価した。なお、Go/No-Go課題と体重測定および採尿は、同じタイミング(30分以内)に行った。
17人中10人がトーナメント期間の夜間に脱水状態
17人の参加者のうち10人において、少なくとも1回の脱水(尿比重が1.030以上)が確認された。詳細は、脱水が確認された回数が1回の選手が8人、3回確認された選手と6回確認された選手が各1人であった。体重は、脱水のみられた群とそうでない群とで、同じように変化していた。
Go/No-Go課題における反応速度は、3日目から有意に短縮し、最終日まで維持されていた。脱水が確認された10人と確認されなかった7人とで比較しても、群間に有意差は認められなかった。Go/No-Go課題の誤答数に関しては両群ともに有意な変化がなく、時間による統計的な差異も観察されなかった。
試合中の認知機能の維持のためにも適切な水分摂取が必要か
以上より論文の結論は、「17人の研究参加者のうち10人が脱水を示したことは注目に値する。ただし、脱水による認知機能への負の影響は観察されなかった。夏季の試合でたとえ脱水に傾いたとしても、運動後の安静時の認知機能は影響されないことが示唆される」と総括されている。
一方、論文の考察においては、8月の日中という暑熱環境におけるトーナメントに参加中に、対象の半数以上に脱水が確認されたにもかかわらず、認知機能への影響はなく、むしろ反応速度はベースラインよりも向上したという結果について、以下のような検討が加えられている。
まず、3日目以降にみられたGo/No-Go課題の反応時間の短縮は、学習効果によるものと考えられるという。
また、脱水による認知機能への影響については、既報研究では体重の2%程度の脱水でも影響が生じるとされている。本研究では尿比重1.030以上を脱水と定義しているが、これは体重の5%程度の脱水に相当する。それにもかかわらず認知機能への有意な影響が観察されず、さらに脱水が観察された群において、脱水を来した日とそうでない日とで認知機能に差がなかった。ただし本研究では脱水の確認と認知機能テストをほぼ同じ時間帯(ずれは30分以内)に行っているものの、いずれも試合直後ではなく、試合から6時間程度経過した後だった。よって著者らは、「我々の研究結果は、夏季のサッカーの試合中の認知機能低下を防ぐという目的で行う、脱水抑止のための水分補給戦略の意義を否定するものではない」としている。
なお、研究の限界点としては、サンプルサイズが小さいこと、月経周期の影響を考慮していないことなどが挙げられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Cognitive Function among Young Women's Football Players in the Summer Heat」。〔Transl Sports Med. 2023 Nov 2:2023:5516439〕
原文はこちら(Hindawi)
シリーズ「熱中症を防ぐ」
熱中症・水分補給に関する記事
- 日本の蒸し暑さは死亡リスク 世界739都市を対象に湿度・気温と死亡の関連を調査 東京大学
- 重要性を増すアスリートの暑熱対策 チームスタッフ、イベント主催者はアスリート優先の対策を
- 子どもの体水分状態は不足しがち 暑くない季節でも習慣的な水分補給が必要
- すぐに視聴できる見逃し配信がスタート! リポビタンSports Webセミナー「誰もが知っておきたいアイススラリーの基礎知識」
- 微量の汗を正確に連続測定可能、発汗量や速度を視覚化できるウェアラブルパッチを開発 筑波大学
- 【参加者募集】7/23開催リポビタンSports×SNDJセミナー「誰もが知っておきたいアイススラリーの基礎知識」アンバサダー募集も!
- 暑熱環境で長時間にわたる運動時の水分補給戦略 アイソトニック飲料は水よりも有効か?
- 子どもたちが自ら考えて熱中症を予防するためのアニメを制作・公開 早稲田大学・新潟大学
- 2040年には都市圏の熱中症救急搬送社数は今の約2倍になる? 医療体制の整備・熱中症予防の啓発が必要
- 東京2020で競技場外の医療機関を受診したアスリートの特徴が明らかに