中・高強度身体活動の推奨量に満たない高齢者では、睡眠の質にかかわらず身体面のフレイルが多い 国内横断研究
高齢期のフレイルに関して、身体活動の新たなエビデンスが報告された。地域在住日本人高齢者を対象とする横断研究から、中・高強度身体活動(moderate to vigorous physical activity;MVPA)が推奨量に満たない高齢者は、睡眠の質の良否にかわらず、身体面におけるフレイルやプレフレイルの該当者が多いという。九州大学大学院人間環境学研究院の横手翼氏、岸本裕歩氏らの研究によるもので、「Geriatrics」に論文が掲載された。
睡眠の質はフレイルの関連因子?
超高齢社会を迎え、要介護予備群でありながら介入による可塑性の維持された状態である、フレイルへの対策が喫緊の課題となっている。これまでの研究で、低栄養とともに身体活動量が少ないとフレイル、特に身体面のフレイル状態にある高齢者が多いことが明らかになっている。睡眠の質は加齢に伴い低下しやすく、この質が悪いと歩行速度が遅いこともこれまでの研究で明らかになっていることから、睡眠の質も身体面のフレイルに何ら関連する要因である可能性が想定されている。
横手氏らはMVPAと睡眠の質それぞれ、さらにこれらの組み合わせによって示される身体面のフレイルへの関わりを明らかにするため、福岡県糸島市で行われている地域住民対象疫学研究「糸島幸福長寿研究(Itoshima Felix Study)」の一時点の調査データを用い解析した。
身体活動量の推奨量と睡眠の質それぞれの良否により4群に分けて比較
糸島幸福長寿研究は、要支援・要介護認定を受けていない65~75歳の高齢一般住民1,631人が参加しているコホート研究である。今回の検討は、研究登録時のベースラインデータを横断的に解析する手法で行われた。解析に必要な3軸加速度センサー搭載活動量計による身体活動量のデータ等がそろっている811人を解析対象とした。
世界保健機関(World Health Organization;WHO)が高齢者のさらなる健康増進を目指すために推奨したMVPA「週あたり300分以上の中強度身体活動、150分以上の高強度身体活動のいずれか、または両方」を満たすか否かで対象を二分した。睡眠の質については、ピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh Sleep Quality Index;PSQI)を用いて評価し、このスコアが5.5点以上の場合に「睡眠の質が低い」と定義した。
これら二つの判定結果に基づき、対象全体を以下の4群に分類した。それはWHOのMVPAの推奨量を満たし(MVA+)、かつ睡眠の質(sleep quality;SLP)が良好な「MVA+/SLP+群」341人(42.0%)、MVPA推奨量を満たすが睡眠の質が低い「MVA+/SLP−群」101人(12.5%)、MVPA推奨量を満たさず睡眠の質が良好な「MVA−/SLP+群」282人(34.8%)、MVPA推奨量を満たさず睡眠の質が低い「MVA−/SLP−群」87人(10.7%)である。
なお、これらのほかに共変量として、年齢、性別、BMI、飲酒・喫煙習慣、座位行動時間、教育歴、併存疾患、疼痛部位数、認知機能(mini-mental state examination;MMSE)スコアなどを解析に使用した。
睡眠の質の良否にかかわらず、MVPAが推奨量に満たない高齢者は身体面のフレイルが多い可能性
結果について、まず前記の4群で特徴を比較すると、男女比率、BMIの平均値、習慣的飲酒者率、教育歴、MMSEスコアには有意差がない一方、年齢や併存疾患有病率はMVA-/SLP-群が高く、疼痛部位数はSLP-である2群で多く、座位行動時間はMVA-の2群で長いといった有意な群間差が認められた。
対象の過半数が身体面のプレフレイル状態
身体面のフレイル該当者は38人(4.7%)、プレフレイル該当者は416人(51.3%)だった。身体面のフレイル、プレフレイルのいずれも、MVA-の2群で多いという有意差が認められた。
次に、身体面のフレイルの関連因子と言われている年齢、性別、BMI、併存疾患数、疼痛部位数、MMSEスコア、喫煙・飲酒習慣、教育歴、座位行動時間を調整し、MVA+/SLP+群を基準とするロジスティック回帰分析を施行。その結果、以下のように、MVA−の2群では、身体面のフレイル/プレフレイルのオッズ比が有意に高い。その一方で、MVA+であれば睡眠の質が悪くてもオッズ比は高いとはいえなかった。
MVA−/SLP+群はOR2.56(95%CI;1.80~3.62)、MVA−/SLP−群はOR3.97(2.33~6.74)、MVA+/SLP−群はOR1.10(0.70~1.74)。
睡眠の質が低下している2群は、心理的ストレスが強い
本研究では、身体面のフレイルの判定に使われている5因子との関連も検討されている。それによると、5因子のうち意図しない体重減少や握力低下は4群間に有意な違いはないが、歩行速度低下あるいは身体活動量低下に該当する高齢者はMVA+の2群で有意に多かった。
また、Kessler 6で評価した心理的ストレスは、睡眠の質が低い2群で強いという有意差が認められた。
以上一連の結果に基づき著者らは、「横断研究であるため因果関係は不明」としたうえで、「高齢者では睡眠の質が損なわれているか否かにかかわらず、中・高強度身体活動の推奨量を満たしていない場合に、身体面のフレイル/プレフレイルが多いことを示唆している」と結論づけている。ただし、先行研究からは、睡眠の質の低下は運動負荷後の筋肉の回復が遅れる。これが身体活動量の低下を招く可能性が示されているとし、「将来的には、今回のような分析を縦断研究で検討する必要がある」とも述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Association of the Combination of Moderate-to-Vigorous Physical Activity and Sleep Quality with Physical Frailty」。〔Geriatrics (Basel). 2024 Mar 4;9(2):31〕
原文はこちら(MDPI)