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2040年には都市圏の熱中症救急搬送社数は今の約2倍になる? 医療体制の整備・熱中症予防の啓発が必要

日本の都市圏における熱中症搬送者数は2040年に、現在の2倍に増加する可能性があるとする予測が発表された。名古屋工業大学大学院と海洋研究開発機構の研究グループの研究によるもので、「Environmental Research」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。今後は人口減が続くにもかかわらず、高温化と高齢化によって搬送者数は倍増するという。

研究の概要:暑熱馴化を考慮しても搬送者数が倍増する

発表された研究は、2040年に全球平均気温が2℃上昇すると仮定した気象条件に対し、日々の熱中症搬送者数の推移を予測したもの。予測に際しては、日々の気温の推移を考慮することで、短期的な暑熱馴化(暑さなれ)を考慮している。

分析の結果、日本の大都市圏(東京、大阪、愛知)の人口は同等からやや減少するにもかかわらず、平均気温の上昇、および高齢化のため、2040年の搬送者数は2010年に比べて約2倍と推定された。猛暑日には医療資源がひっ迫する可能性があり、医療体制の整備、および熱中症に対する普及啓発活動が求められる。

研究の背景:2℃の気温上昇の影響を予測

近年、地球温暖化やヒートアイランド現象の影響で気温が上昇している。環境省によると、日本の年平均気温は過去100年間で約1.2℃上昇していると報告されていて、また、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change;IPCC)による最も気温上昇が高いシナリオでは、2100年までに2.6~4.8℃高くなると予測されている。

このような背景から、熱中症による搬送人員数は増加すると想定され、今後のリスク低減に向けた対策が求められている。2022年の第27回気候変動枠組条約締約国会議(COP27)では、平均気温の上昇を1.5℃に抑えるという目標に各国が合意している。

熱中症は、体内における熱バランスの崩れにより発症する。高齢者は、発汗などの体温調節機能が若年者に比べて低下していることから、重症化率が高い。2021年の日本国内における熱中症による搬送者数は4万7,877人であり、そのうち高齢者が56.3%を占めている。地球温暖化による気温の上昇と高齢化という二つの要因により、日本では熱中症の搬送者数はさらに増加することが予想され、救急搬送体制のひっ迫が懸念されている。

名古屋大学の研究グループでは、数値人体モデルを用いた体内温度上昇および発汗量解析手法を開発し、解析で得られた1日あたりの最大体内温度上昇、発汗量を用いた熱中症搬送人員数予測式を提案してきた。また海洋研究開発機構は、データ統合・解析システムに公開されている将来の気象予測データを用いて、追加的な緩和努力を行わないと仮定した場合の、日本の3都府県(東京都、大阪府、愛知県)における2040年(近未来2030~2050年頃。図1)に相当する全球2℃の気温上昇を推定した。

超高齢化社会において将来必要とされる医療資源の推算が求められるなか、上記2件の技術を融合することにより熱中症搬送者数を推定した。

図1 (a)東京、(b)大阪、(c)愛知における2040年相当の7~8月の外気温の推定値

(a)東京、(b)大阪、(c)愛知における2040年相当の7~8月の外気温の推定値

(出典:名古屋大学)

研究の内容:東京では1日の搬送者数が最大250人に上る可能性も

図2に示すように、2040年代の熱中症搬送者数は、2010年代(2013~2019年)に対して増加し、とくに梅雨明け(7月下旬)から8月上旬に熱中症搬送者が増加することがわかる。

図2 将来の気象データを用いた熱中症搬送者数推定値。(a)東京、(b)大阪、(c)愛知

将来の気象データを用いた熱中症搬送者数推定値。(a)東京、(b)大阪、(c)愛知

(出典:名古屋大学)

表1は、2040年代における1日あたりの熱中症搬送者数の7~8月平均値とピーク値を示したもの。また、参考に2010年代の報告値も示している。平均熱中症搬送者数は、2040年代には2010年代の平均値よりも2倍程度増えると予測された。

表1 東京都、大阪府、愛知県における2040年代の熱中症搬送者数推定値
2040年代(人/日)2010年(人/日)
平均
(95%CI)
最大平均
東京132.9
(51.9-213.8)
250.765.8
大阪105.3
(47.6-162.9)
194.359
愛知105.4
(41.3-169.5)
177.854.8
(出典:名古屋大学)

社会的な意義:いっそうの啓発活動が必要

今回推定したとおり、2040年ごろに1日あたりの熱中症搬送者数が2倍になった場合、真夏日には医療資源がひっ迫する可能性がある。今回の推定結果を参考に、将来の熱中症搬送者数の増加に備えて、医療体制の整備および熱中症に対する普及啓発活動が求められる。

参考:気温上昇がなくても高齢化のため搬送者数は1.2倍に

将来の人口動態のみを考慮した場合の、2015年の熱中症搬送者数に対する増加率を表2に示す。平均気温は現在と同等で高齢化のみが進んだと仮定した場合、2040年代の熱中症搬送者数は1.2倍程度に増加することがわかる。

表2 東京都、大阪府、愛知県における2015年の熱中症搬送者数に対する増加率
2020年2030年2040年2050年
東京1.051.151.211.29
大阪1.051.151.131.13
愛知1.051.171.21.13
(出典:名古屋大学)

プレスリリース

日本の都市圏における熱中症搬送者数は2040年に2倍の可能性 ~人口減にもかかわらず、高温化、高齢化で搬送者数の増加~(名古屋工業大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Projection of future heat-related morbidity in three metropolitan prefectures of Japan based on large ensemble simulations of climate change under 2℃ global warming scenarios」。〔Environ Res. 2024 Apr 15:247:118202〕
原文はこちら(Elsevier)

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