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持久系アスリートの血糖調整機構とパフォーマンスの関連 連続血糖測定で明らかになったこと

近年になり連続血糖測定(CGM)が急速に普及したことで明らかになってきた、持久系アスリートの血糖調節機構の特徴とパフォーマンスとの関連に焦点を当てた総説論文が発表された。要旨を紹介する。

持久系アスリートの血糖調整機構とパフォーマンスの関連 連続血糖測定で明らかになったこと

イントロダクション

血糖のプールは約4gほどであり、これは人間の体内の貯蔵炭水化物の1パーセントに満たない。このわずかな血糖が、健常者では100mg/dL前後のごく狭い範囲内の変動に制御されている。

血糖値やその変動は代謝の恒常性と密接に関係しており、血糖調節機構の破綻によって糖尿病が生じる。そのため過去長年にわたり、血糖調節機構はもっぱら糖尿病との関連で研究が進められてきた。しかし近年になり、侵襲度の低い方法で血糖値(正確には皮下組織浸出液中のブドウ糖濃度からの換算値)を連続的に測定可能な機器(continuous glucose monitoring;CGM)が普及したことで、糖尿病でない人の間でもその利用が増え、新たな知見が得られるようになった。この変化に伴い注目されている大きなトピックが、持久系アスリートの血糖変動である。

血糖値は主としてインスリンとグルカゴンのバランスによって、臓器や組織での取り込みと糖新生とによって調節される。骨格筋は、摂食時および運動中のグルコース取り込みの主要な組織であり、またグルコースの取り込みだけでなく骨格筋での乳酸産生が血糖恒常性に影響を与える可能性も示されている。

持久系アスリートは運動中の糖利用を節約される

骨格筋のグルコース取り込みは、安静時と比較して運動中は最大50倍程度に増加し得る。ただし、持久系アスリートはトレーニングを行っていない被験者よりも糖の酸化が少ないことが知られている。この違いの一部は、アデノシン三リン酸(ATP)生成の基質としての脂質の増加が関与している。

また、持久力トレーニングを行っている被験者では、高強度インターバルトレーニング中に血糖値が上昇することが示されている。一方、トレーニングを行っていない被験者は、血糖値の変動はみられない。ただし、エリートアスリートとレクリエーションアスリートとで反応が異なることも報告されている。

炭水化物の補給は運動中の血糖恒常性を支持する

持久系アスリートは、長時間の運動中に血糖値を維持可能なように適応しているが、激しい運動セッションによって低血糖が引き起こされることがある。1920年の時点で、炭水化物の豊富な食事の摂取によって高脂肪食よりも長時間運動後の疲労感が少ないことが報告されている。その数年後には、ランナーの多くに低血糖が認められ、それがパフォーマンスの低下と関連していることが報告され、1925年にはレース中に炭水化物を摂取するという戦略が始まり成功をおさめた。

炭水化物のエルゴジェニック効果の一部は中枢刺激によるものであると考えられている。実際、炭水化物溶液を摂取せずに口をすすぐだけでもパフォーマンスが向上することが報告されている。とは言え、糖のエネルギー基質としての利用が重要であることに違いはなく、このことに関連して、過酷な条件下での血糖調節能の高さが持久力トレーニングにおける適応を構成する要素であることが示唆されており、注目される。

持久系アスリートにおける低血糖と高血糖

持久系アスリートを対象にCGMを適用した最近の研究から、低血糖と高血糖が頻繁に発生していることが明らかになってきた。この知見は、運動トレーニングがグルコース代謝にとって有益であるという従来の一般的な概念と対照的なものとも言える。

持久系アスリートが厳しい運動セッションの後、時に耐糖能が低下しているという事実が認められることのもっともらしい理由として、長時間のエネルギー不足に伴う脂質酸化の亢進が繰り返されることが関与しているかもしれない。例えば、持久系アスリートは筋肉組織内の脂質貯蔵量が増加しているという報告があり、このような状態はインスリン抵抗性を有する被験者によく観察される状態であるため、しばしばパラドックスとして解される。

興味深いことに、遅筋I型筋線維の発現が高い被験者は、速筋II型筋線維の発現が高い被験者よりもインスリン感受性が良いことが最近示された。これは、継続的な持久力トレーニングだけでなく、筋繊維の分布も血糖調節能に影響を与える可能性があることを示唆している。

CGMでLEAを検出可能かもしれない

利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)またはスポーツにおける相対的なエネルギー不足(relative energy deficiency in sports;RED-S)は低血糖を来し得る。マイナスのエネルギーバランスが内分泌代謝に影響を及ぼすという経路以外に、循環血漿中のグルコース濃度の低下という直接的な影響も現れる。

女性を対象とした研究で、エネルギーバランスのとれた状態と比較して、5日間の毎日のエネルギー可用性を33〜78%を低下させた場合に、夜間血糖値と24時間血糖値の平均値が有意に低下したという報告がある。その研究では、血糖値の最低値は最も深刻なエネルギー不足が発生したタイミングで観察されたという。

これらより、血糖値の連続測定の結果をLEAのマーカーとして利用できることが示唆される。なお、空腹時血糖値の低下が、エリートアスリートのオーバーリーチのマーカーになり得るとする報告もみられる。

アスリートでも夜間低血糖が睡眠を妨げている可能性

糖尿病患者では夜間の低血糖は睡眠を妨げとなり得る。血糖値が70mg/dLを下回るとアドレナリンの分泌が始まるとされており、アドレナリンは覚醒反応を引き起こすことが知られている。このような覚醒反応が睡眠効率を低下させることも明らかにされている。アスリートにおいて夜間低血糖に伴う睡眠の質の低下が、回復に悪影響を与える可能性がある。ただし、アスリートにみられる夜間低血糖がアスリートの睡眠に影響を与えているのかという点は、まだデータがない。

運動中と回復中の血糖モニタリング

近年、CGMの利用が拡大し、健康なアスリートの使用を念頭に置いた長所・短所の議論がなされるようになった。ただし現時点において、持久系アスリートにおけるCGMデータの解釈は依然としてはっきりせず、CGMデータを利用して血糖変動を制御することがパフォーマンス向上につながるのかは明らかにされていない。

短時間の血糖変動の制御のために炭水化物を摂取しようとするとき、その摂取量をCGMデータに基づいて決定し得るかという点でも、いくつかの重大な限界点が挙げられる。まず、CGMは間質液中のグルコース濃度を血糖値に換算して表示するが、間質液中のグルコース濃度は血漿濃度に最大15分の遅れをもって変動する。また、CGMセンサーをどこに留置するかによっても、実際の血糖値との乖離の程度が異なることが報告されている。加えて暑熱環境への曝露の影響もあることが知られており、持久系アスリートでの利用の際には検討課題となる。

現在のところ、持久系アスリートにCGMを適用した科学的エビデンスは多くないながらも複数報告されている。CGM適用の目的は多様であり、競技中のエネルギー欠乏を回避するため、回復の程度の評価、トレーニングの最適化などでの利用が研究されてきている。

これらの研究から、いくつかの一般化可能な結論を引き出すことができる。第一に、持久力運動は血糖変動と食事に伴う血糖調節反応に影響を与えること、第二に、持久系アスリートは高血糖を呈する傾向と血糖変動が高い傾向が認められるという点だ。アスリートのCGMデータの解釈に際しては、運動の影響と食事のタイミングや栄養バランスの影響を分けて解釈する必要があり困難を伴い、さらなる研究が必要とされる。

最後に、血糖値以外のセンサー技術の進歩についても言及する必要があるだろう。現在、グルコースだけでなく乳酸値を連続測定可能な皮膚間質モニタリング技術が開発されている。これらのテクノロジーは、アスリートのトレーニングや競技戦略の向上に役立つことだろう。

このような変化に対する一つの障壁として、国際自転車競技連合が2021年、CGMを含む代謝データを取得するテクノロジーを競技中に使用することを禁止したことが挙げられる。CGMの競技中の使用が不当な優位性につながるというエビデンスはなく、そのような禁止は、研究者やコーチがアスリートの健康状態をモニタリングする機会を失することにつながるのではないだろうか。

文献情報

原題のタイトルは、「Continuous Glucose Monitoring in Endurance Athletes: Interpretation and Relevance of Measurements for Improving Performance and Health」。〔Sports Med. 2023 Sep 2〕
原文はこちら(Springer Nature)

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