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女子プロサッカー選手のRED-S問題、公式戦と練習の消費エネルギー量を計測し比較した結果

ポーランドの女子プロサッカー選手の消費エネルギー量を、トレーニング中と試合中とで比較検討した研究の結果が報告された。試合中のほうが時間あたりの消費エネルギー量が大きく、その差はおもに、試合中のほうが高強度の身体活動時間の割合が高く、走行距離が長いことによって生じているという。

女子プロサッカー選手の練習中と試合中の消費エネルギーを把握し、適切な栄養摂取を

女子サッカー選手の増加にスポーツ栄養のエビデンスが追いついていない

食事がアスリートの運動パフォーマンスに影響を及ぼすことは間違いなく、とくにエネルギー出納が重要であり、適切な食事を摂取するには適切なエネルギー需要を見積もる必要性がある。この見積りが不正確のためにエネルギー出納が負の状態、相対的エネルギー不足(relative energy deficiency in sport;RED-S)が続いていると、パフォーマンス低下にとどまらず、心身の健康リスクが生じて選手寿命の短縮や引退後の生活の質の低下にもつながることがある。

近年、女子サッカーの人気上昇を背景に女子選手数も増加している。ただ、女性アスリートは男性アスリートに比べてRED-Sの影響がより大きいにもかかわらず、女子サッカー選手のエネルギー出納に関するエビデンスは少ない。このような状況を背景として、今回紹介する論文の著者らは、プロで活躍する女子サッカー選手のトレーニング中と試合中の消費エネルギーの把握を試みる、パイロット研究を行った。

ポーランドのトップレベルの女子サッカー選手を対象に研究

研究対象は、ポーランド女子サッカーの最高峰リーグ(エキストラリーグ)のいずれかのチームに所属している選手7名であり、いずれも長年の経験があり公式戦に参加している35歳以下の選手。平均年齢は23.4±6.6歳で身長168.5±5.8cm、体重63.5±7.8kg、除脂肪体重46±4.4kg。ポジションはディフェンダーが4名、ミッドフィルダー2名、ストライカー1名。過去6カ月以内にトレーニングからの離脱を要する怪我の既往のある選手は除外されていた。また、月経期間を避けて、これらの計測を行った。

消費エネルギー量は、アームバンド型のデバイスにより計測した。このデバイスは、3軸加速度計と皮膚温センサーおよび熱流束センサーという五つのセンサーで消費エネルギー量を測定するもの。身体活動強度は計測されたMETsを基に、座位行動(1.5METs未満)、軽強度(同1.5~3.0)、中等度(3.0~6.0)、高強度(6.0~9.0)、極めて高強度(9.0以上)という五つのカテゴリーに分類した。

なお、本研究は消費エネルギー量のみに焦点を当てたパイロット研究であり、摂取エネルギー量の評価はされていない。

試合のほうが時間あたりの消費エネルギー量が大きい

1機会あたりの消費エネルギー量は、トレーニングが534±43kcal、試合は628±101kcalだった。これを1時間あたりに換算すると同順に353±28、425±55kcal/時で、試合のほうが高値だった(p=0.018)。体重(BM)あたりで換算すると5.6±0.66、6.54±0.8kcal/kgBM/時であり、非有意だった(p=0.063)。ただし、除脂肪体重(FFM)あたりでは7.71±0.8、9.94±1.75kcal/kgFFM/時であって、試合のほうが多くエネルギーを消費していた(p=0.018)。

試合の消費エネルギー量は歩数と高強度運動の時間と相関

1時間あたりの歩数は、トレーニングより試合のほうが有意に多かった(4,213±363 vs 5,953±588歩/時。p=0.018)。前述の五つの身体活動強度別に比較すると、試合のほうが身体活動強度の高い時間の割合が高かった。身体活動強度の各カテゴリー別の割合は以下のとおり。

座位行動はトレーニングでは1時間あたり1.21±1.56分、試合では0±0分(p=0.109)、軽強度運動は同順に6.42±5.38、0.14±0.37分(p=0.023)、中等強度運動は27.78±9.95、18.53±15.42分(p=0.128)、高強度運動は20.24±8.08、29.21±9.8分(p=0.091)、極めて高強度の運動は5.01±3.62、13.12±17.0分(p=0.345)。

試合中の歩数は消費エネルギー量と強い正相関が認められた(r=0.964、p<0.001)。また、試合による消費エネルギー量は、前記の五つの身体活動強度カテゴリーの中で極めて高強度の運動にあてられた時間の長さと強く正相関し(r=0.964、p<0.001)、中等強度の運動にあてられた時間の長さとは逆相関していた(r=-0.786、p=0.036)。

エビデンス確立のため、より多きなサンプル数での研究が望まれる

著者らは本研究を、女子プロサッカー選手のトレーニングおよび公式リーグ戦での消費エネルギー量を計測した初の研究としている。試合のほうが時間あたりの消費エネルギー量が大きいことに関連して、試合にフル出場する日と短時間のみピッチに立つ日では、消費エネルギーの差が大きくなる可能性があることから、エネルギー出納という点では、単純に試合日とトレーニング日を分けて考えるのみでは十分でないと指摘している。一般に試合日は摂取エネルギー量が消費エネルギー量を下回るとの報告が多く、フル出場した日はよりその差が拡大し得るとして、消費エネルギー量のより高精度な把握のために、試合出場時間を勘案する必要があるという。

ただし、本研究はサンプル数が少ないこと、トレーニングも試合も計測を1機会のみしか行っていないことなど、パイロット研究として複数の限界点があることから、「トレーニングや試合が女子サッカー選手のエネルギー出納に及ぼす影響の詳細な理解のために、より大規模な対象での研究が求められる」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Energy expenditure during training and official league match in professional female soccer players – a pilot study」。〔Rocz Panstw Zakl Hig. 2023;74(2):143-150〕
原文はこちら(Roczniki Państwowego Zakładu Higieny)

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