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アスリートへの栄養指導で気分の変調や負のボディイメージを改善できるか

スペインのエリートレベルの女子ハンドボール選手を対象に、栄養素摂取量を最適化することで、気分状態やボディイメージを改善させ得るかを検討した無作為化比較試験の結果が報告されている。各群7人、計21人に対する12週間の介入では明確な影響は認められなかったが、これはサンプル数と介入期間の短さによるものである可能性があり、より長期間続けた場合には改善効果を期待できるのではないかと述べられている。

アスリートへの栄養指導で気分の変調や負のボディイメージを改善できるか

適切な栄養摂取習慣によって摂食障害リスクを抑制し得るか?

プロのアスリートは、最大限のパフォーマンスを得るために、長時間の高強度トレーニングを継続しており、消費エネルギー量が増大するにもかかわらず、食欲低下等のために摂取エネルギー不足に悩まされることがある。その結果として生じる、利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)は、生理学的障害と心理的障害の双方に関連し、後者では摂食障害(eating disorder;ED)、体型(ボディイメージ)へのこだわり、抑うつ、気分の変動、過度の不安などを来し得る。また、それらの症状は、利用可能エネルギー不足(LEA)によって引き起こされるとともに、LEAに先立って現れることがあるという報告もある。

摂食障害(ED)のリスク因子として、女性、ゆがんだボディイメージ、完璧主義、および思春期などがあり、アスリートは一般集団に比べてEDリスクが高いことが知られている。EDは死亡リスクの上昇にもつながる精神疾患であり、早期発見と早期介入が必要とされる。EDへの治療介入として、心理療法と並行して行う栄養療法の有用性が知られており、栄養療法によって抑うつなどの気分の変調も改善されるとの報告もみられる。

本論文の著者らは、エリートレベルの若年女子ハンドボール選手を対象として、栄養介入によって気分状態やボディイメージが改善するかを、無作為化比較試験によって検討した。介入に用いた栄養療法は、地中海食と抗酸化食という2種類で、それらを非介入群と比較した。地中海食は欧米において、心血管代謝疾患などの慢性疾患のリスク低減に関するエビデンスが豊富であり、認知機能への有用性を示唆する研究報告も存在する。また、抗酸化物質の摂取と認知機能が正相関するとするデータがあり、抗酸化食がうつ病リスクを抑制する可能性を示唆する報告もある。

エリート女子アスリートに、地中海食や抗酸化食による12週間の介入

この研究の対象は、スペインのスーパーコパとコパ・デ・ラ・レイナというハンドボール選手権の優勝チームの選手21人(平均年齢22±4歳)。何らかの疾患有病者、結果に影響を及ぼし得る薬剤の服用者、研究参加への不同意などに該当する選手は除外されている。全体を無作為に3群に分け、1群は地中海食群、他の1群は抗酸化食群とし、残りの1群は健康的な食生活を行うとするものの、とくに栄養介入を行わない対照群として、各群7人、12週間の介入を行った。

摂取エネルギー量は個別に指示し、栄養素量は炭水化物50~55%、タンパク質1.5g/kg日(15~17%エネルギー)、脂質30%エネルギーを目指すとしたうえで、地中海食群では全粒穀物、魚、豆、果物、野菜、オリーブオイルをベースとし、抗酸化食群ではブルーベリー、ビート根、ザクロなどの抗酸化物質が豊富な食品と、ビタミンD、EおよびAなどを摂取することを推奨した。これらの推奨の遵守率を高めるために、介入期間中は毎週、電話にて助言を続け、また各食事群に適した食材のリストを提供した。

実際の食事摂取量は7日間にわたる食事記録により把握した。摂食行動ついては26項目からなる摂食態度調査票(eating attitudes test;EAT-26)、ボディイメージは14項目からなる体型質問票(body shape questionnaire;BSQ)、気分状態については30項目からなる質問票(profile of mood states;POMS)で評価。そのほかに体重をタニタ社製デジタルスケールを用いて100g単位で測定するなどした。これらの評価はベースライン時と介入中間時点、および介入終了時という計3時点で把握した。なお、ベースライン時点でそれらの指標に有意差はなかった。

全員がLEAに該当し、REDsのリスクも想定される

解析の結果、研究参加者全員が1日の摂取エネルギー量が30kcal/kg除脂肪体重であり、、利用可能エネルギー不足(LEA)に該当する可能性が高く、RED-S(relative energy deficiency in sports. スポーツによる相対的なエネルギー不足)のリスクを有していると考えられた。

摂食行動については、EAT-26の総合スコアおよび下位尺度について、介入期間中に有意な変化は観察されず、群間差も非有意だった。ボディイメージについては、地中海食群で中間評価時点から最終評価時点にかけて粗解析では有意なスコア低下が観察されたが(BSQはスコアが低いことがボディイメージが良好であることを意味する)、調整後は非有意だった。

気分状態の一部の指標に有意な差

POMSで評価した気分状態のうち、活力と疲労のスコアについては有意な変化や群間の有意差はみられなかった。緊張や怒り、抑うつに関しては、以下のような変化が認められた。

緊張

抗酸化食群で、緊張のスコアが中間評価時点から最終評価時点にかけて、粗解析では有意な低下が観察されたが、調整後は非有意だった。なお、POMSは活力に関しては高スコア、活力以外の指標は低スコアでああることが、気分状態が良好であることを意味する。

怒り

怒りのスコアは、地中海食群で中間評価時点から最終評価時点にかけて、抗酸化食群ではベースラインと中間評価時点および最終評価時点にかけて、粗解析では有意な低下が観察されたが調整後は非有意だった。

抑うつ

抑うつに関しては群間差は非有意ながら、全ての群で時間効果が有意でありスコアが低下していた。それらの一部は粗解析で有意であるだけでなく、調整後にも有意性が保たれていた。

より大きなサンプル数で長期間の介入が望まれる

まとめると、各群の摂食行動、ボディイメージ、気分状態は、介入期間中の時間経過とともに改善する傾向がみられたが、有意な変化や群間差は観察されなかった。論文では、本研究の最も大きな限界点はサンプル数であるとし、スペインのトップレベルのエリート選手のみを対象としたことの影響、および、介入期間が限定されたことの影響を考察として述べている。結論には、「摂食行動関連の指標の有意な改善を得るには、より長期間の介入が必要」と書かれている。

文献情報

原題のタイトルは、「Study of Different Personalised Dietary Plans on Eating Behaviour, Body Image and Mood in Young Female Professional Handball Players: A Randomised Controlled Trial」。〔Children (Basel). 2023 Jan 31;10(2):259〕
原文はこちら(MDPI)

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